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見習い神官兼陰陽師、式神失格としてリリースされた型落ち倉庫番のフィギュアと共に一人前の階段を駆け上がります  作者: クワ
第二章

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廃工場にスライム

「なあ、オヤジ……この気配は」

 清一の言葉にテレビを見ていた清之進は軽く頷く。

「まあ、魔物だな」

 ゆっくりと玄関に向かって歩き出す。

「お、オヤジ、待ってくれよ」

 慌てて自室に戻り、外行きの格好に着替える。

「おっと忘れるとこだった」

 ジュヌを懐に入れ父親を追いかけた。


「うう、もう一枚羽織ってくればよかった」

 春過ぎとは言え、日によっては夜冷えする。

「オヤジは……気配の方に向かってるかな」

 街灯を頼りに歩みを進めると、遠くにいる父の後ろ姿を発見した。

「よし、見つけた」

 清一は足を速めると清之進にグングンと近づいた。

「オヤジ」

「静かに」

 父に諭され声を潜める。


 前方の様子を伺うと、庇が傾いた廃工場が見える。

「工場の中か」

 その工場は小学校の通学路にあったので覚えている。

 清一の年齢が一桁だったころは、外からでもわかるくらいガッチャンガッチャンと大きな音が大きな鉄のトビラ越しに聞こえていたのだが、卒業するくらいの時期だったろうか、思い出を胸にとどめようと感受性が高まっていたから気付けた所もあるが、いつのまにか音も消え、鉄のトビラには大きな錠が掛けられ、そのままの状態が数年続いた。


「ちょうど、先ほど町内会の森脇さんに錠を外してもらうために連絡をした」

 森脇さんというのは父より一回り上の町内会長で、お祭りなどでオヤジと付き合ううちに気が合い仲良くなったそうだ。

 とても面倒見がいい人の上、法力を多少持ち合わせており、妖怪に襲われた折にオヤジに助けてもらった縁でその手の話に理解を示してくれるようになったとのことだ。

「森脇さん来れるの? 忙しそうだけど」

「あの人は大丈夫、来るよ。面倒見がいい人だから」

「しかし、森脇さんも面倒見がいい分、厄介ごとを引き受けてオヤジに投げてくるんだよなぁ」

「それはトレードオフってやつだ」

 オヤジは静かに笑い、すぐに顔を引き締めた。


「オヤジ、俺の式神出しとくぞ」

 清一のセリフにチラリと目線を向けるも何も反応することなしに視線を戻す。

(ここで出すと、光が漏れて敵にバレるかも)

 その場を離れて死角に入ると、印を結んで術を唱える。

「今度は何だい?」

 光と共に出てきたジュヌがにこやかに微笑みながら聞いてきた。

「魔物の反応がある」

 清一の言葉にうんうんと頷く。


 清之進の所に戻ると、清一が具現化している間に森脇は到着したらしく、解錠の件で突合せをしていた。

「あの人は?」

 ジュヌが視線で説明を求める。

「あの人は、この地域の町内会長の森脇さん。あそこの工場の錠を開けて貰うためにオヤジが呼んだんだ」

 ジュヌの双方を一瞥すると清一に目をやる。


「町内会長ってのは何だい? 徴税請負人のような者かい?」

「なんだ、その徴税なんちゃらってのは」

「税金を国に代わりに集める者たちさ。あらかじめ担当地域分の税を私財をもって国に払い、国民からは請負人たちがそれに手数料を加えて集める」

「手数料?」

「その手数料でかなり利益が出たらしい――まあ、税を払えない人たちもいるからね。そこは最悪徴税人が被ることになる」

「まるで借金取りだな」

「はは、似ているかもね」

 ジュヌは乾いた笑いを浮かべる。

「ジュヌも徴税請負人だったの?」

「ち・が・う! キミはちゃんとマンガ読んだのかい? 読んでいないだろう」

(そういえばそんな事言われてたな)

 清一はやぶ蛇を突いた気分になり、必死に話をそらした。

「ジュヌがさっき聞いて来た町内会長というのは基本調整役だよ。祭りや初詣などの行事を取り仕切ったり、問題が起これば間に立って話し合ったりしてる」

「お金を集めるのも町会費くらいで、それも年間数千円から会社とかなら数万円とかだから、ジュヌが言っているのとは違うと思う」

 ジュヌは納得したのかそれ以上は言葉にしなかった。


 清之進たちの話し合いが終わったのか、二人は廃工場へ向け歩き出す。

 それを無言で追う、清一とジュヌ。

「清ちゃん開けるぞ」

「頼みます」

 カチャカチャカチャ

「上手くハマらないなぁ」

 閉めてから年数がたっている上に手入れを全くしていないため中々かみ合わない。

 ガチャリ

「おっ」

 数分後、錠前が開くと森脇は素早くそれを取り外した。

「清一、その両開きの引き戸、左側を引いてくれ」

 清之進の言葉に無言で頷き、トビラの取っ手に手をかけた。

「申し訳ないですが、森脇さんも逆側を開いていただけますか」

「ほいよ」

 森脇も取っ手に手をかける。

「清一君行くぞ」

「はい」

 二人がそれぞれのトビラを一斉に引く。

「かてぇな」

 錆びついたトビラが音を立ててゆっくりと開くと、漆黒の闇の中から漂う埃と鉄の匂いが鼻孔にささる。


 清之進は懐中電灯を点けて、中に入ってゆく。

「懐中電灯持ってくればよかった」

 清一はジュヌと共に清之進に続く。

 森脇は清一を見て不思議そうな顔を一瞬見せ、すぐに元に戻した。

「私は表で待っているよ」

「はい、よろしくお願いします」

 清之進は振り返る事なしに返事を返す。


 背中から入る月明りに薄暗く照らされた工場内は思ったより広く、またそこら中に散乱した工具やら資材やらに足をとられないよう慎重に進む。

 室内の暗さに目が慣れ始めた頃、室内の片隅にいびつな物体がある。

「水たまり? いやそんなわけない」

 ここは室内だ、しかもしばらく雨は降っていない。

 水道も止めてある――水漏れは無い。

「焔風花≪ほむらかざばな≫」

 室内は深紅の明りに照らされ、そのものの姿をあらわにした。

「スライム!」

「フラム」

 ジュヌも清一に続くと再度深紅の明りが照らされる。

「終わったな」

「そうだね」

 二つの炎に焼かれスライムは溶けて消滅した。


「オヤジ」

「はは、清一、詰めが甘い」

「え!?」

 天井から風呂敷のように広がったスライムが落下してきた。

「うわぁ」

「ほれ」

 驚く清一を横目に清之進が右手を振ると、そのスライムが薬品のような臭いとともに焼けて消えていった。


「オヤジ、すまない」

 清之進はニヤッッと笑ったかと思うと、入口へ向かって歩き始めていた。

「俺らも行こう」

 ジュヌの手を引き清之進の後に続いた。


「お、おい、子供じゃないんだから大丈夫だよ」

 慌ててジュヌは清一の手を振りほどく。

「あ、ごめん、つい」

 清一は頭を掻き、恥ずかしさのあまり顔を背けた。


 みなが工場を出ると、森脇がトビラに手をかける

「そっちを閉めてくれ」

「わかりました」

 清一も取っ手を掴み、トビラを勢いよく閉める。

 キーキーという金属音と共に再びトビラは閉められる。

 カチャ

「錠をかけました」


 森脇が振り返ると、タイミングを見計らって清之進は声をかけた。

「最近、とみに魔物や妖怪が増えました。何が起こっているのだろうか心配です」

「確かに、以前にはなかった頻度で怪異現象はあちらこちらで聴くかな。清ちゃんにいつも助けてもらってるね」

「こちらこそ、ご迷惑をおかけします」

「いやいや、なかなかの跡取りが出来たみたいだし」

「まだまだ未熟者で……」

「そうかしこまりなさんな。では、私はこれで……」

 森脇は時計を確認し、急いで戻っていった。


「オヤジ……」

「森脇さんも言っていたが、最近本当に怪異が増えた。お前も気を付けろよ」

「おう」

「先に、家に戻っていなさい。私はやることがある」

「わかった」

 清一はジュヌと一緒に自宅へ帰っていった。

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