ジュヌヴィエーヴの存在と姉の今後
清一は屋上に上がり、フェンスの内側に備えつけてある手すりに両腕の肘を預けて視線を遠くへとやった。
すっきりと晴れた青空に雲がまばらに浮いている。
授業開始のチャイムが鳴ると眼下の校庭に体操服に着替えた生徒が教師の前に集まりなにやら説明を受けているようであった。
「んーいい風だな」
心地よいそよ風が頬を撫で、髪をゆっくりと揺らす。
ブレザーの中に手を入れジュヌを取り出す。
「フィギュアの状態なら、みんなは見れるんだよな」
そのフィギュアをまじまじと確認し、再び視線を前方に向けた。
雲が風にゆっくりと押されていく。
昨日の父親の言葉を思い出す。
「はは、知らなかったのか? 式神は見えるのもいるが、基本法力・霊力・魔力などが無いと見れないぞ」
式神は存在を確認されない者たちのために命を懸け、時には散っていく。
(俺も勘違いされてヤバいヤツ扱いされてたけどな)
目を瞑り軽く笑った後、首を数回軽く振る。
式神と言うのは使役されるためだけに生まれてきた存在なのだろうか。
戦う時だけ具現化する存在。
彼ら、彼女らは幸せなのだろうか?
清一は考えれば考えるほどわからなくなった。
「サボっちまったんだから授業が終わるまでここにいるか」
視線をゆっくりと下げる。
登校の時に通る幹線道路には豆のような大きさになった車が行き交っていた。
「ジュヌを出して聞いてみるか?」
そうは思ったが、いざやるには覚悟が足りなくて躊躇する。
(ジュヌに否定されても嫌だし、ご先祖様が代々やってきたことを否定する勇気もない)
昨日の人体模型との戦いの後をぼんやりと思い出した。
(そもそもジュヌは昨日の口調から認識されてないことを知らないのかもしれない。もしそうだったとしたら知るのは酷な話だよなぁ)
清一はやわらかな風に身をゆだねながら、ゆったりとした時の流れに思考を任せ遠くを眺め続けていた。
「ただいま」
玄関には姉の清香の靴がある。
(この時間にいるの、珍しいな)
「ちょうどいいや、聞きたいこともあるし」
昼間の疑問を姉にぶつけてみようと考え経った。
清一は荷物を自室に置くと着替えるのも後回しにして姉の部屋に向かう。
「あれ?」
姉の部屋は半ばトビラが空いており中を見ることができた。
「あ、いる。勉強でもしてんのか?」
姉は机に向かってイスに座っていた。
清一は空いたトビラをノックして部屋に入る。
「なあ、姉貴、聞きたいこ……」
清一は途中で声が止まった。
そこには恍惚の表情を浮かべ人形らしきものを見ている姉がいた。
(な、なんだ!?)
よく見ると小さな女の子が買うようなリコちゃん人形的な者でなく、フィギュアのように感じられた。
そのフィギュアは見たことがある。
内容は良く知らないが……たしか、最近マンガなどで話題になっている貴族のヤツだ。
イケメンで頭もよくしかも強い、欠点が無いキャラだったはず。
見てはいけない物を見た気がしてその場を後にしようと後ずさりをしたその時。
パキッ
何かを踏みつけた。
一瞬で真顔に変わりガバッと振り返る姉。
「せ、清一、いつからそこに?」
いつになく姉の顔に余裕が失われている。
「ちょっと前から」
「勝手に入ってこないでよ」
「ノックしたよ。反応が無かったんだよ」
怒りだした姉に呆れた清一はめんどくさそうに答えた。
「それでも……」
「なあ、姉貴はいつから悪役令嬢になったんだよ?」
「あ、悪役じゃないわよ。し、失礼ね!」
(姉貴、テンパってるな)
「聞きたいことあったけどいいや」
「早く出て行って!」
「はいはい」
清一は姉の部屋を出るとゆっくりとトビラを閉めた。
「はぁ」
清一は深い溜息をつき部屋に歩みを進めた。
(姉貴がフィギュアを持ってるってことは買ったのか? 具現化でもすんのか……すんだろうなぁ)
「人には色々言ったくせに……」
清一はちょっと納得できないような感情が湧いて来たが、言うとよりめんどくさくなりそうなので諦めて黙ることにした。
自室に戻ると、着替えを済まし机に向かう。
机の上にはジュヌヴィエーヴが佇んでいる。
「いつもの修行を行うか」
黙々といつもの日課をこなしていった。




