ジュヌが認識されなかったわけ
「そういえば、オヤジ」
清一は箸を止め、清之進へ顔を向ける。
ボーンボーン
年代物の時計が清一の言葉を見計らうかのように八回音を鳴らした。
「なんだ、おかずはやらんぞ」
豪快に笑いながら茶目っ気を出す
「いや、そうじゃないんだ」
「何だ? 重要な事か」
「俺にとっては知りたいことなんだ」
「話してみなさい」
清之進が言葉を促すと、清一は頭の中で言葉を整理しつつ口を開く。
「今日な、旧校舎ってとこでジュヌと一緒に、理科室にあるような人体模型に憑りついたヤツと戦ったんだけどさ」
「ほう」
「戦い終わった後にジュヌと口論してさ、その姿を知らない教師に見られたんだよ」
「まったく、このおバカは!」
すかさず清香が詰問に近い強い口調で答える。
「姉貴には聞いてないだろ!」
「そういう問題じゃ……」
「気付かれなかったんだろ」
「えっ、ああ!?」
清之進がさも当たり前のように答えたので、清一も清香も呆気に足られた。
「はは、知らなかったのか? 式神は見えるのもいるが、基本法力・霊力・魔力などが無いと見れないぞ」
「ええ、そうだったの」
「うーん知らなかった」
清一は太田からジュヌを譲り受けた時を思い出す。
「そういえば、ジュヌの前の主の太田さんが、『お前、コイツが見えるのか?』と言っていたけど……」
「おう、それそれ。 帰りとか周囲の誰からも何も言われてないだろう?」
清一はフィギュアに戻す方法をわからず、仕方なしにジュヌと一緒に帰ってきたことを思い出した。
「そういえば――誰にも何にもいわれてねえ」
「じゃあ、何で式神をよりどころに戻すの?」
今度は清香が問いを発する。
「式神は出していると法力を消費するのもあるが、一番の問題は周囲にいる人間が法力や魔力を持っているのを本人が気付いていない場合があるから――通常そういうのは霊感とかで済まされちゃうことも多いけどな」
「そうなると、幽霊が出たとか騒がれちまうんだな」
「そうそう、憑りつかれているとか」
「余計なお世話だな」
「まったくね」
清一と清香が納得して相槌を打っているのを見て、清之進は笑って食事を再開した。
「他にも」
「何だ。飯が冷めちまうぞ?」
「外人の転校生には、氷織さん見えていたみたいだけど」
「エクソシストなんだろう。駆け出しみたいだけど」
「ああ、氷織さんがそう言っていた」
「見解の違いなんだよ。あっちの人らは聖じゃない、どちらかと言えば邪に近い存在はすべて悪と考え撃滅しようとする」
「だが、日本人などの東洋人は、そんな存在を調伏することによって受け入れ共に暮らしている」
「でもお父さん、氷織さんとかジュヌちゃんがやられたら困るんだけど」
清香がちょっとした苛立ちを隠そうとせず机を叩いた。
「はは、その時は私が出るよ」
そう言って二人をなだめると共に安心させた。
「一点だけ心にとめておいて欲しいのは、清一のフィギュアのジュヌヴィエーヴも昼間に戦ったって言っていた憑りつかれた人体模型もエクソシストにとってはどちらもポルターガイストに過ぎない。そういう考えの者もいるって事だ」
「ああ、わかったよ」
「彼ら・彼女らにとって魂を浄化させるのは善行、悪魔を退治するのも神に抗う不届き者と戦うという純真な心で行っている。悪意は無いのも分かってやってくれ」
「まあ、それがトラブルになったりするんだが……」
清之進は軽くため息をつき、お茶を飲み干した。
「エイムズとはもう少し話し合ってみるよ」
「外人さんはエイムズって言うのかい」
「ああ、何で?」
「いや、今名前が出たからな」
清一の無垢な疑問に清之進が笑って答える。
「さてと、ちょっと牛になって来るよ」
「うし?」
「ああ、夜寝だ。食べた後すぐ寝ると牛になるらしいからな」
そう言って座布団を中央で折りたたむと、それを枕にごろりと横になる。
「疲れているんだろうね」
それを見ていた清香は毛布をだして、清之進の身体にかけた。
「おれは、部屋に戻るよ」
歯を磨き部屋に入ると、ジュヌのフィギュアが存在感たっぷりと机の上を占拠している。
ガラスの交換が終わった窓からはダンボールで塞がれていたころには見えなかった街灯の光が差し込み、曇りガラスを通してボンヤリと緩い光を放っていた。
「今日は助かった。感謝する、ありがとう」
清一はジュヌのフィギュアを見る事なしにお礼を述べた。
ジュヌはプラスチックの光沢をたたえたまま、表情一つ変えることもなしに笑っていた。




