再び屋上にて
チュンチュン
スズメの鳴き声にほだされて、寝ぼけ眼で体を起こす。
昨日はあの後夕食まで起きれずに、清之進に起こしてもらい食事のあと再び寝入ってしまった。
柔軟を兼ね体をゆっくりと動かす。
疲れがとり切れてないのか、やはりまだ怠い。
「やっぱ、まだまだ法力の力が弱いよなぁ」
昨日のエイムズ戦を思いだす。
「氷織さん一人であそこまで法力を消費するんだったら、オヤジの言う通り二人はまだ無理そうだな」
押し入れに布団をしまうと、顔を洗おうと思い立ち洗面台へ向かう。
ちょうど清之進と清香が居間で食事を取っていた。
「おはよう」
清一はあくびを噛み殺し二人に挨拶を投げた。
「おう、ははっまだ怠そうだな」
「全然眠気がとれねぇ」
トン
ジャーーー
水道のレバーを上げると、勢いよく水が流れ出てきた。
ジャバジャバジャバ
「そうだ、清一」
「ん、オヤジ、何だ?」
「昨日、外人さんに襲われたそうだな」
「氷織さんから聞いたのか」
「ああ、少し成長したって褒めてたぞ」
清之進の声が弾む。
「どれくらいあの人は式神として具現化に法力が必要なんだ?」
「はは、私よりも一段上の法力を持っていた父でさえ連続して使わなかったくらいだ。相当かかるぞ」
じいちゃんは五年ほど前に亡くなっている。死の寸前でさえまとっていたその法力のすさまじさを思い出すと、それほどの力でさえ連続で使えない氷織さんの格の高さに驚くと共に、一緒に戦ってくれたことに対して感謝の気持ちも湧いて来た。
トン
清一は水道を止め、タオルで顔を拭いた。滴り落ちる水がシャツを濡らす。
「そういえば氷織さん、吹雪で水道管凍らせたんだ」
「ははっ、それも聞いた。使ったのは一回だけだったそうじゃないか。清一の法力の事を考えて控えたんだよ」
「そっか……一回だけでこれだもんな。頑張らないとな」
清一は自分がまだまだ補助輪時の自転車みたいなものと示されたことで、多少凹んだものの、頑張ろうという気も同時に起きた。
「いってきます」
清一は自転車にまたがると、ペダルを蹴りだし学校へ向かう。
その後の波乱を予見しながら。
何があっても対応できるように気を張りながら校門を潜るも、特に呼び止められることなどなく通過できた。
(考えてみたら、こんな人目があるところで動いてこないか)
そう考えると多少は気が楽になると同時に安全のため人目に付きやすい場所を意図的に通ることにした。
教室に着くと、昨日とは打って変わって平穏な時間が流れている。
「さて、確認しとくか」
清一はトイレに向かうと手洗い場の水道をひねった。
ジャーーー
水道から何事もなく水が流れ出た。
「氷織さんの言う通りだったな」
教室へ戻ると今村が授業の支度を行っていた。
「よお、おはよう」
「あ、中条くん、おはよう」
「あっ」
いきなり声をかけられたせいなのか、顔をあげたのと同時に筆記用具のケースに手を引っ掛け机から落ちてゆく。
「よっと」
清一はそれが落ちる前に上手くキャッチした。
「ほらよ」
「あ、ありがとう」
今村はうつむいたまま、清一からケースを受け取った。
ドン
背後から机に物を置く音が響く。
(来たか。たいした回復力だ)
振り返る事なしにその場に座り続ける。向こうから話しかけてくることもない。
朝のホームルームの時間になり教師の栗沢が入ってきた。
(来るか?)
清一は身構えるも栗沢は昨日の事は一切触れずにホームルームを終わらせて去って行った。
(おかしい? いじめの隠ぺいみたいなもんか? でも相手は外国人だぞ!)
そのまま一時間目の授業になだれ込んだ。
キーンコーンカーンコーン
ウエストミンスターの電子音が昼休みを知らせる。
「パンでも買って食うか」
購買でパンを数個手に取る。
(飲み物は何にするかな)
牛乳を手に取るも元の位置に戻す。
(今日は止めとこ、動いたら腹が痛くなるかもしれん)
清一は朝の方針を翻し、敢えて屋上でエイムズを待ち、来るようなら昨日の事を聞き出そうと考えていた。
「勝てるかわからねぇが気持ち悪くてしょうがねぇ」
階段を人目に付くようにわざとらしく音を立てゆっくりと上がっていく。
ガタン
屋上のトビラを開けると、先客がいた。
「なんだよ、わざわざ気付かれるよう上がって来る必要なかったな」
エイムズはまるで待ちかまえていたかのように入り口に体を向け食事をしている。
顔には昨日の傷だろうか、絆創膏が数個引っ付いている。
「見られているんだ、わざわざ避けるのも逃げるみたいで変な話だ」
エイムズからフェンス一個分の距離を保ち、背中をポールに預けパンを食べ始めた。
双方の小さな咀嚼音がわずかながら伝わる。
グシャグシャ
食べ終わったパンの袋を丸める。
「何で、また屋上に来た?」
昼を終えた清一が、エイムズを見る事なしにぶっきらぼうに言葉を投げると、彼女も同じ質問を返してきた。
「昨日の事、みな何も聞いてこないからな、てっきり何か知っているかと聞かれると思ったのに」
その言葉にエイムズは嫌な顔をし口を開く。
「私が何か言うとでもいうのか! 昨日仕掛けたのは私だ、退けられたからといって私が攻撃を受けたなどと捏造しお前を罠に嵌める人間だと思ったか!」
(どうやらプライドが高い人間みたいだな)
「それはすまなかったな」
ポールに預けていた背中を取り戻し、ドアに向かって歩き出す。
「今日は、昨日のブリザードモンスターは連れていないのか」
清一はエイムズの言葉を受け立ち止まると、舌打ちと共にため息をつく。
「氷織さんは家族だ。俺が生まれる前から、俺の一族を見守ってきたんだ。魔物扱いすんじゃねぇ」
エイムズに向かって振り返り「エクソシストだかなんだがしらねぇが、人の国に来て自分たちの常識押し付けてくんじゃねえよ」と吐き捨て屋上を後にした。




