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見習い神官兼陰陽師、式神失格としてリリースされた型落ち倉庫番のフィギュアと共に一人前の階段を駆け上がります  作者: クワ
第一章

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14/30

西洋からの転校生

 翌日


 今日は昨日より多少余裕がある。

「オヤジの言う通りすぐ寝ればよかった」

 廊下をダッシュし教室へ急ぐ。

 前には栗沢先生が教室に向かって歩いているのを視界に捉えた。

「かわすぜぇ」

 栗沢先生を追い抜くと、清一は出来るだけ爽やかに「おはようございます」と挨拶を投げた。

(あれ? 死角に誰かいるな。まあいいや、どうでも)

「こらぁ、中条、廊下を走るな!」

「スミマセン、急いでいるもんで」

 後ろからの怒声が背中に刺さる。


 教室に滑り込む。

 視線が清一に集まるも、栗沢じゃないとわかると、視線は再び散っていった。

「中条君、いつもギリギリだね」

 今村が微笑みながら話しかけてきた。

「ああ、元気いっぱいだからね。あとおはよう」

「あ、うん、おはよう」

 返事にならない返答を聞いて不思議そうな顔をした今村だったが、挨拶されたのを受け慌てて挨拶を返した。


 ガララララ

「ほら、席に着け」

 ガタガタガタ

 イスを引く音が響き渡る。

「今日から、転校生が入る。みんな仲良くするように」

 栗沢は入り口の方へ眼をやり「入ってきなさい」と英語で促した。

 ガラララ

 トビラが開く音と共に淡いクリーム色をした長い髪が風に流されて侵入してきた。

「スゲー風だ」

 その風が止むと、教室がガヤガヤとザワついた。

「名前を言えるか?」

「大丈夫です」

 小さく二人はやりとりをした後、おもむろに女性が黒板に自分の名前を書き出した。

 書き終わるとクルリと振り返る。

「ジュノー・エイムズです。よろしくです」

 栗沢が後を引き取る。

「彼女――エイムズさんは見た通り外国から来たのでまだ日本語が上手くない。みな配慮してやってくれ」

 栗沢の言葉と共にぺこりと頭を下げた。


「ねえ、中条君? 凄い子来たねー」

「ああ、そうだね……」

 見た目は彫の深い美人なのだが、表情が薄い。

 それよりも気になるのが……。

(なんなんだ、あの気配。尋常じゃない)

 背中に日汗が流れる。

「……」

 エイムズの視線が清一に固定された。

「何かあの外人さん……あっエイムズさんだね、あの人、中条君のこと見ていないかな?」

 清一は精一杯の余裕を見せ「気のせいじゃね」と流した。

(いや、気のせいじゃねぇよ。確実にロックオンされているよ。怖えよ。何なんだよ!)


「えーっと開いている席は……中条の後ろ空いてるな、じゃあそこだ」

(えっマジ!)

「中条君、エイムズさん後ろだよ。私、英語できないけど大丈夫かなぁ」

「あ、ああ、どうにかなんじゃね」

「中条君、いつにもましてテキトーだよね」

「そんなことないよ。いつも通り!」

 清一にとって得体のしれない人間が後ろを取っている事実は正直恐怖以外の何物でもなかった。


 キーンコーンカーンコーン

 授業が終了し休み時間が始まる。

「くっ」

 ダッシュでトイレまで駆けると、中で一息をついた。

「よお、流し忘れのクソでも溜まってたか?」

 笑いながら加藤が入ってきた。

「あ、いや、あの、まあ小便の方だ」

「ははは、じゃ連れションと行きますか」

 小便器の前へ立ち、ファスナーを終ろした。


「なあ、加藤」

「なんだ?」

「転校生、どう思う?」

「まあ、美人やね」

「チョットばかり怖くないか」

「そうかなぁ。まあ、愛想があるタイプではなさそうだな」

 加藤は視線を天井に向け思案した後に一言付け加えた。

「まあ、俺のタイプではなさそうなんで、安心してくれ」

「お前のタイプってどんな奴なんだよ」

 的外れの回答をする加藤に対し、少しばかり気になった事を聞いてみた。

「ふふ、弱みは見せねぇよ」

 小便を終わらせたのかファスナーを上げる音が聞こえた。

「おい、俺より早くし始めたのにおせーな。よっぽど溜まってたのか?」

「俺は繊細なんだよ! 悪い奴が隣にいるとビビッて出る物も出なくなっちまう」

「はは、じゃあな、チキンハート」


「チキンハート……かぁ」

 実際気にし過ぎなのかもしれない。

 そう思い、教室に戻った清一は呆気にとられた。

「俺のイスに加藤が座ってやがる」

 そこには、先ほどの言動を裏切るように加藤が清一のイスに腰かけ必死にエイムズとの会話を試みていた。

「まあ、いいや、周りをまわってこよう」

 校庭に出ると、日差しが蛍光灯のみの暗部から出てきたばかりの目に差し込み、視界を奪われた。

「今日も、日向は温かいや」

 まるでネコのように体をキューッと伸ばすと、目を半開きにして周囲を眺めた。


「!?」

 体育館の裏から黒い気配を感じる。

「いくか」

 清一の目は狩をするような鋭く切れる物に変わった。

 足音を殺し、ゆっくりと体育館裏に踏み込むと、普段使われていない非常用のトイレあたりから気配が漂っている。

 トイレは基本的に体育祭などの来客用に使用するためにあり、入り口にトビラがついており、夜には不良などのたまり場にならないよう施錠し入れないようにしている。

 ブレザーに手を入れジュヌを取り出すと、サッと地面に置き術を唱えた。

 虹色の光と共にジュヌが具現化する。

「おっと、光が出るのを忘れてた」

 周囲を見回すも、反応している者はいなさそうだ。

「良かった」

 清一は胸を撫でおろした。

「次から気を付けねえとな」

 ジュヌはその気配を一目見て、呼び出された意味を理解した。

「ボクは大丈夫だけど、キミはどう?」

「ああ、大丈夫だ、行くぞ!」


 トイレまで近づくと気配が一段と強くなる。

「ウチの学校の生徒が中にいるかもしれない」

 ジュヌが無言で頷くと、清一はトビラの取っ手に手をかけ、音が出ないようゆっくりと回す。

 バタン

 トビラの金具の固定した感覚がなくなった瞬間、勢いよくトビラが開いた。

「くっ」

 中には、黒く淀んだ吹き溜まりが出来上がっており、その吹き溜まりがゆらゆらと雲のように漂っていた。


「小夜嵐≪さよあらし≫」

 清一が風の術を唱えると、吹き溜まりは消し飛ばされ中心にいるモノが露になる。

「なんだ? イヌか?」

「いや、あれはコボルトだよ」

 確かに犬のような顔をしているが、立ち上がって二足歩行をしている。

 ジュヌは清一の発言を訂正し、レイピアを引き抜く。

「よし、いくぞ」

 清一も短刀を取り出すと、鞘から引き抜いた。


「シャンデル・ドゥ・グラス」

 天井から氷柱(つらら)が落ちてきてコボルトを襲う。

芍薬氷雨(しゃくやくひさめ)

 多数のこぶし大の氷の塊がコボルトの周辺で開き、鋭く尖った氷の薄い板がまるで花弁が舞い散るが如くその身を切り裂く。

「ワオォォォォォ」

 ズブ

 鈍い音と共に、叫ぶコボルトの喉にレイピアが突き刺さった。

「うるさいよ」

 レイピアを引き抜くとコボルトはうつ伏せに倒れ込んだ。


「ざっとこんなものだね」

 ジュヌは満足げに笑い、血をふき取りレイピアを鞘に納めた。

「お前、強かったんだな」

「キミ、今さら何を言っているんだい? そのような愚問はよしておくれよ」

 コボルトが霧に包まれ消滅してゆく。


「終わったね」

「ああ」

「それなら戻しておくれよ。ただトイレの中以外で。フィギュアに戻る時にどうしても倒れてしまうからね」

「なら、あとでフィギュアを石鹸で洗えば……」

「そういう問題じゃないんだよ」

 どうしてもトイレの床につくのがイヤらしい。

「プラスチックっていつも自分で言ってるくせに……メンドクセーなぁ」

「何。何か言った?」

「何でもないですよ」

 ふくれるジュヌにめんどくさくなった清一は適当に返事を返す。


「ちょっとそこで待っていて」

 体育館を覗き込むと中を確認する。

「よし、誰もいない」

 清一はジュヌを招き入れる。

「こっちだ」

 体育館に入ると、トビラを閉めて印を切りはじめた。

「はっ」

 術を唱えると、光と共にジュヌがフィギュアに戻る。


「なんだ? 誰かいるのか」

 体育教師の鎌田の声がした。

(ヤバい)

 ジュヌを懐に入れ、来たトビラから素早く退散する。

(頼むからこっちに来ないでくれよ)

 鎌田の目を盗み、一目散に教室へ戻った。


「こらぁ中条、どこほっつき歩いていた」

 教室に戻ると授業はとうに始まっており、教師から手厳しい叱責を喰らった。

(まあ、仕方がねぇか)

「――で、あるからにして」

 ガラララ

「ゴメン」

 清一は周囲に愛想笑いを繰り出し、イスを引いた。

(まただ)

 後ろの席のエイムズが、まるでナイフのような青い瞳でこちらを無言で見ている。

 睨んでいる風ではない、さげすんでいるでもない、ただ刺すような瞳。そうとしか例えられない、そのような瞳。


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