式神とは
清一が居間に戻ると、清之進が机の上で何やら細かな作業を行っている。
その背中に何げなく近づき、手元を覗き込んだ。
「オヤジ、なにやってんだ?」
清之進は顔を上げ、ちょうどいいとばかりに手招きをした。
「そこへ座って」
「ああ」
コロッ
清之進の指から弾丸が転がり落ちる。
「重要な説明をするから、ちゃんと聞きなさい」
「……あ、ああ」
普段は冗談ばかり言う子供っぽい面がある清之進だが、いつにもなく真面目な面持ちで語り掛けてきたので、清一は畏まって話を聞く体制を取った。
「お前には、まだ早いと思って式神の話をしていなかったな」
清之進は、視線を弾丸に向け、それをくるくると指で回し始めた。
「色々事情があるだろうが、式神を使いだしたのは事実だからな」
視線を上げ、清一を真っすぐにとらえる。
「そもそも式神には、思念など無から制作するタイプ、紙、藁人形、ぬいぐるみなど既存の物に霊力を宿らせたタイプ、元々暴れている妖怪や鬼、悪魔などを捕まえて使役するタイプがある」
「ジュヌヴィエーヴ――フィギュアは二番目か」
「ああ、そうだ」
清一の答えに清之進は頷く。
「無から作るのは難しく、法力の他、時間と想像力が必要だ。既存の物に霊力を宿す方が難易度は易いが、現代の役者やキャラなどならば、解釈違いというのかな、チョット違うが起きやすいかな」
「同じもの見てても、人によって見方が違うからな」
「そうだな。私と清一でも違うだろう。その辺はすり合わせが大切だな」
「色々大変そうだな」
「世の中そんなもんだ」
「次に人に宿る法力、まあ向こうで言う魔力はだな、当たり前だがゼロでも寝れば全回復するものではない。回復は少しずつ、これは分かっているだろう」
清一が頷くと清之進は話を進める。
「式神の具現化を維持するのにも使用者の法力がいる。また式神が術やら呪文やらを使用すると、その分使用者から法力が消耗される」
「えっ」
「そう驚くな。使用者は財布のようなものだ。一日で法力がどれだけ補充されるか、式神を呼ぶとしたら何体か、維持するのにどれだけ法力が掛かるか、使用者はどれだけ術を使うか、式神も術を使うのか」
「収入と支出を計算し、常に法力がマイナスにならないよう苦慮しつつ、あまらせて捨てるのももったいないので、このように物に宿したり、お札を作ったりする。武器に関してはいざという時に法力の消費を抑えるための備えだ」
「それは、法力で戦うと、消耗していずれ底をつくから、法力をなるべく使わない戦い方をして粘れって事か」
「おおよそはそうだ」
清之進は満足そうに微笑む。
「お札や御守りなどの神社の物やお祓いなどは、まあ何で必要か説明するまでも無いだろう。あまりその手の話は良くないしな」
そう言って鼻を掻いた。
「八百万の神や妖精、精霊など、我が国、異国に関わらず、お力を賜るのは、とても大切なことだからそれも忘れないように」
「賜る? 法力? それとも何か具体的な力?」
「法力だ。例えば法力が60あったとしよう。1分10法力が消費されるとしてどれだけ持つ」
「そりゃあ、6分だ」
「なら、神様から法力を5賜りながら同じ戦いをしたらどうだ」
「それなら11分かな」
「ああ、そうだ。12分と答えるかと思って心配したぞ」
「あれだろ、法力貰えばそんだけ時間稼ぎができるってことだろ」
「合っているが言葉!」
「あ、ごめん、神様に対して失礼だよな」
清之進は苦笑いをした。
「戦いは連戦も考えられるので、あまり無駄に法力を消費しないような癖をつけた方がいい」
「ああ」
「そのことは、あのヨーロッパのフィギュアの娘にも教えておいた方がいい」
「わかった」
「知らないと無駄使いしてしまうだろう」
「それと、亡くなった千歳から、お前あての式神を預かっているのだが、渡すのはまだ先になりそうだな」
「お袋から?」
驚く清一を見て嬉しそうに目を細めた。
「清香の魔狐も千歳が作ったものだ」
「そうなのか」
「ああ、千歳は子供たち二人分、式神を制作していたんだ」
(そっか、どうりでオヤジは修行となると厳しかったわけだ)
母への約束を守るためと知って清一は今までの事がチョットばかり腑に落ちた。
「ああ、高校を卒業したら渡そうかと思っていたのだが……なかなか予定通りには行かないものだな」
「お袋の形見だろ。受け取るよ」
「いや、今のお前にはそのような余裕はないだろう」
「大丈夫だって。今までだって……」
「お前まで、千歳のように失う訳にはいかないのだ。そう千歳と約束したのだから」
「……オヤジ」
「もう遅い、お前はよく寝坊をするから早く寝なさい」
「わかった、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
部屋へ向かって歩みだす。
振り返ると、気のせいかオヤジの背中が小さく見えた。




