第九幕:老人たちの物語
親切なおじいさんとおばあさんに、
育てられ、人として考えられる優男になっていきます。
やあ、君。あれから少し時間が経った。この時間が、まさにケモノの姿から人の姿になる準備期間になった。
人は言葉の獲得により、
人間になり、そして変われるんだ。
ボクは、それを見た。
第八幕では、人面の化け物エンキドゥが言葉を覚えた。
彼は哀れと愛を知る人間シャムハトにより、人の社会に行くための切符を与えられたんだ。
シャムハトは、森からギルガメッシュと瓜二つの男を連れ出した。
だけど、そのまま王に彼を差し出すことはしなかった。
なぜかって?
彼女は賢かったからさ。
ねえ、想像してごらん。
このままケモノもどきを、
謁見の間の玉座でふんぞりかえって、
退屈で死にそうな王の前に連れていく。毛むくじゃらで、身を屈めがちの王と同じ顔した彼を見たら--。
『ふざけた奴らだ。我を愚弄する気か!』とか。
『ウルクの王をなんと考えてる!?』
『どれ、顔の形を変えてやる。少しはマシになる』と笑いながら、シャムハトの愛するエンキドゥを、傷つけるに決まっていた。
「彼は傷つけさせない。アタシが守らなきゃ--」と森の中で、彼女は一人宣言をしていた。
そして、近くの村で彼女は親切な老夫婦に事情を説明した。
おとぎ話で、よく登場する『おじいさん』と『おばあさん』さ。
エンキドゥは彼らに預けられる。
シャムハトのようなお尻が桃のような女の人に連れられてね。
いまボクらは、その家にいる。
土のレンガを積んだような家。それだけさ。
床が地面そのままで、
時々、甲虫が這いずり回る。
貧しいけど、それなりに食べられた。
ケモノだったエンキドゥは、
彼らから知識を吸収していった。
彼は今では、美丈夫だ。ギルガメッシュ王とは違い、柔らかくなった。彼を初めて見た者は、ギルガメッシュ王だと思ったに違いない。
彼と違うのは、身長が少し低かった。
そして、ほんの少し華奢だった。
ここは貧乏で、
エンキドゥは老夫婦に遠慮して、
あまり食べられなかったからね。
彼は村を狼から守ることもしていた。
村のわずかは羊を守るため、
彼は棍棒をもって、
狼の群れに囲まれたことが何回もある。彼は、そのたびに生き延びた。
黒い髪は陽光に照らされて、
赤く見えた。
髪は短髪に刈り上げられ、
雌獅子を思わせた。
どことなく、
女の子を思わせるのがエンキドゥだ。
傷ついたケモノではなく、
四つん這いで森の中で口でモノを食べてた男ではなかった。
ある日、その家の中で、
老夫婦は、彼に物語を話した。
エンキドゥは足を崩して、
横たわり話に耳を傾けていた。
彼らの話だ。
ウルクの王が長年、王として留まり、人を不安にさせている話だ。
「人の上に立つ者が、下の者を不安にさせるとは、どういう事?」とエンキドゥは老夫婦にエンキドゥはたずねた。
「かつて、ウルクには英雄がいた。
だけど、それは遠い昔。
彼の名は、もう物語の中の名の一つだ。語られるのは、それだけ。
彼の神を妻にした物語も、戦いの記録さえも、もう私たちしか覚えていない。お前に話して聞かせた物語だよ。エンキドゥ。
英雄王ルガルバンダの物語だ。
だけど、お前が他の人に話すと、
この物語は危険を呼ぶ。
それが、不安だ。
この国の不安なんだ。」と老夫婦が話す。
「この国では、まだ愛する男から女をうばう法律が生きている。
神々の前で誓いあう二人の後ろに、彼は当然の如くいる。
エンキドゥ。
そんな顔をするな。
怒りを感じてるのか?
王が、そう定めている。
それが、不安だ。
この国の不安なんだ。」
老夫婦が語り終えた時、エンキドゥは仁王立ちとなった。
「なんて、恐ろしい王なのだろう。
なんて、恥知らずの王なのだろう!」
彼は拳を高く上げた。
「天の神々よ!ボクに力を!そのような悪逆は、ボクが終わらせる!
このエンキドゥの物語が始まる!」
唐突な宣言に、老夫婦は目を見開いた。
「ああ、命を惜しめ。彼は神の血が濃ゆい。ムダに命を危険に晒すだけだ。
私たちの話は、毒だった!」と老婆は狼狽した。
しばらくして、エンキドゥは村を出た。
古代メソポタミアの王、ウルクの王、ギルガメッシュ・F・ウルクを倒すために。
物語は、まだ始まったばかりだ。
(こうして、第九幕はケモノだった男の背中で幕を閉じる)
気づいた人は気づくだろうね。
これは、桃太郎なんだ。




