第七幕:物語の始動
長い暴君の世は長く続いた。
彼のやった事、全てが悪いこととは言わない。
それでも、物語としては最悪だったのさ。
なぜかって?
それはーー
やあ、君。とうとう、物語が動く事になる。ボクは長い間、見てたけど、ギルガメッシュ王に物語を支配されてさえ、何もしなかった。
語り部たる心構えを、教えてあげよう。決して、登場人物を助けたりしちゃダメだ。
その部分が、おかしくなる。
良い話にしようとして、一気にーーまあいいさ。話を進めよう。
ここはウルクの宮殿の謁見の間だ。
ギルガメッシュ王の玉座が置かれていて、長い間使われている。
かつては白かった床も薄汚れてきた。
そこに向かい合うようにして、
猟師がギルガメッシュ王に嘆願していた。
「森の中にいる知恵のあるケモノかーー」と彼はつまらなそうに、
玉座に身を沈めていた。
神の血により、
周辺国も叩きつけて、
半ば属国扱いにして、
彼は退屈していた。
身体の若さは失われてないが、
心が疲弊してたんだ。
「弓矢で仕留めたらいい」と始めは彼は言ったんだ。
「陛下。そのような事をして、ケモノに弓矢を使われたら、こちらの寿命が終わります」と猟師はいう。
「ははは!ケモノが弓を、矢を扱えるわけがない。ーーそれは人だ」
「陛下。そのケモノには、森の中のケモノたちが仲間なのです。人ではありません」と猟師。
「人がケモノと一緒?」と彼の頭は、物語を作り始めた。
「人か、ケモノか。試したいな」
彼はぶつぶつと呟くと彼の母のニンスンに仕えている女を呼びつけた。
彼女は名をシャムハトという。
シャムハトはギルガメッシュの母のような容姿をしていたが、母のように女神ではない。
彼のお気に入りでもあった。
豊かな黒髪はウェーブがかって、瞳は茶色で、身体の曲線美が強調された女だ。歩くだけで、ぼよーんと乳房が大きく弾む。
彼女はその豊満な身体を、
派手な布で包んでた。
猟師は彼女を見ると、
思わず生唾を飲むんだ。
ゴクリっとね。
それくらいの美女だ。
「我が美しいシャムハトよ。お前を手放すわけじゃない。ちょっと頼みがある。我がおさめる森に、人がケモノか分からぬ者がいる。お前の色香で、ケモノの彼を剥ぎ取り、我の前に連れてこい」と彼は淡々と話した。
最近の彼は覇気がなかったからだ。
前はシャムハトのような美女を一日に何回も相手をした。
なんで知ってるかって?
そりゃあ、君が気にする内容じゃない。物語を進めよう。
いまボクらがいるのは、ウルクの城壁から離れた森の中。木々が密集して、奥から何かが現れそうな気分になる。
昼の太陽の下でも、薄暗い。
そんな森の中の、
少しだけ開かれた場所に、
泉があった。
ケモノたちが、
ここにきて喉を潤すんだ。
森の奥の方から、四つん這いになって、やってくる人面の化け物がでてきた。シャムハトは!一瞬不快感を表した。でも、彼女は目が良かった。
毛むくじゃらのケモノの瞳、そして、顔、それはギルガメッシュ王と瓜二つだ。
彼女は、ギルガメッシュの孤独を理解している女だった。彼がどんなに悪王と言われても、彼が彼女に聞かせた寝物語は、彼女のかけがえのない宝だった。
化け物に対する哀れと愛が混み合ってくる。
彼女は、猟師が止めるのも気づかずにエンキドゥの前にやってきた。
彼は目を見開く。
女というものを初めて見たからだ。
二人は見つめあう。
言葉は要らなかった。
森のざわめきが止まり、
ケモノたちが息を潜めた。
エンキドゥの世界が初めて、
“見つめあう”という行為を学んだ。
(こうして、第七幕は二人の見つめあいで幕を閉じる)
醜いものを見た時に、
湧き上がる嫌悪感。
その中に少しの憐れみが、物語を進めていく。




