第二幕: 孤独の神血、母の微笑み
やあ、君。また来たね。古代メソポタミアの風土が君を呼ぶのかもしれないね。第一幕では、ギルガメッシュ王子が、彼の父ルガルバンダを超えてやると宣言した後、女神である母に呼ばれたところまで見た。
やあ、君。また来たね。古代メソポタミアの風土が君を呼ぶのかもしれないね。
第一幕では、ギルガメッシュ王子が、彼の父ルガルバンダを超えてやると宣言した後、女神である母に呼ばれたところまで見た。
母に呼ばれた彼は、宮殿の廊下を歩きながらぶつぶつと呟く。彼は常に何かを語っていた。
彼は王子で、一人っ子だ。
それに神の血をひいている。
ここまで言えばわかるけど、
彼には誰も友と呼べる者はいない。
彼は他の少年とも違った。
体格も、彼はがっしりしていた。
ムダに肩幅は広く、華奢とは言えない。
子どもたちで集まって、ホッケーみたいな遊びにも、仲間として入れてもらえない。
もし遊び仲間として迎えられたら!
まるで、ちっちゃなお猿さんの群れに、品種がまったく違うゴリラを置いたぐらい変だ。
神さまの血は、英雄ルガルバンダもひいていたが、血の薄さが彼を人にし、結果的に、人として迎え入れられた。
神の血の濃さが、ギルガメッシュ王子を孤独にした。
物語を進めよう。
ウルクの宮殿の一室、薄絹のカーテンが揺れる。ボクらの視線の先に知恵と美の女神ニンスンの姿がうつる。
彼女の部屋の出入り口で、彼を待っていた。
彼女をどう言いあらわそう?
凡人である事が、こんな時に足を引っぱるんだ。
彼女の髪は、夜の闇。
その闇が揺らぐようにして、
肩から背中へと波打つ。
カーテン越しから陽の光が、その髪を照らすと、青白く光る。
彼女の瞳は、深く澄んだ琥珀色。
見つめすぎると、
琥珀の中に吸い込まれて、
永遠の中に閉じ込められそう。
高く整った鼻と、
薄く紅を帯びた唇はーーまあいいさ。
彼女の身体を完璧さ。
なぜかって?
女神さまだからさ!
ギルガメッシュは母親を見つめた。
母の美しさに、息を呑んだ。
だが、その心はすぐに嵐のように揺れ動く。彼は声に出した。
「母よ。貴女は美しい。神として、民の崇敬を集める存在だ。だが、我が母でもある。」
息子の言葉を、
ニンスンはうなづく。
彼女の目には慈愛が込められている。
「この血、この運命……我が身に流れる神の血は、母から受け継いだもの。もし、母が我の子を孕んだなら……後世の者たちは何と囁く? 禁忌か、神々の新たな系譜か? 」
ニンスンは口を押さえて、ふふふと笑う。
「くそっ、そんなことを考える我は何だ!」と彼は苛立ちを抑えきれない。
「後世だと? 我のいない世界の話など、何の意味がある! 神々は永遠を生きると言うのに、我はどうだ? 三分の二が神でありながら、死すべき定めを持つ人間の身。父を超え、神に迫る力を示さねば、この魂は満たされぬ!」と、母の前で彼は語る。
こんな風に毎日、彼は母に語っていた。
ニンスンは静かに微笑む。
息子の肩に手を置いた。
「ギルガメッシュ、
汝の心はすでに遠くを見ている。
だが、焦るな。
神々の試練は、
汝の力を試すためにある。
父を超え、運命を切り開くのは、
汝自身の歩みだ。」
彼の顔は、ひきつった。
だが、すぐに元に戻る。
“いつもの事だったからだ。”
彼の母は女神だ。
彼を愛するが、愛し方が違うんだ。
哀れだ。神は人とは違うのにーー。
(こうして、第二幕は女神の微笑みで、幕を閉じる。)
(こうして、第二幕は女神の微笑みで、幕を閉じる。)