親の意見
「ただいま。」
玄関のドアを開けると、薄暗い廊下に母親の声がすぐ返ってきた。
「おかえり。」
リビングの明かりはすでに点いていて、テーブルの上にはちょうど晩ご飯の準備がされている所だった。
風凛は靴を脱ぎ、軽快なステップで自分の部屋に直行した。
「風凛!帰ったら手を洗いなさい!あと、もうじきご飯できるから!」
「はーい。」
ご飯を食べながら母親から問われる。
「いつもより遅かったけど今日はどこに行っていたの?」
「友達と遊んでた。ゲーセン行ったりしてたから。」
「……誰と?」
母の声が静かに鋭くなる。
「同級生?部活の子?」
「ううん、えっと……知り合いの人。」
「知り合い?」
風凛は視線を逸らしながら鞄を置く。
「高校生じゃない人?」
「……うん。ゲームセンターでたまたま知り合って……」
そこまで言うと、母の手がピタリと止まった。煮物の皿をテーブルの中央に置いたまま、じっと風凛を見据える。
「男の人?」
沈黙。風凛は頷いた。
「年は?」
「……24歳。」
空気が変わった。
「風凛。」
その一言には、警告が混じっていた。静かで、でも冷たい刃のような音だった。
「あなた、そんな年上の男とどこまで関わってるの?」
「何もしてないよ。ただ、ゲームが好きでたまたま話して……それだけ。」
「何もしてない。じゃあなぜ連絡先を交換して今日も会っていたの?」
「……楽しかったの。優しかったし、大人っぽくて、話もちゃんと聞いてくれて――」
「風凛。」
また、止めるように呼ばれた。
「その人は、あなたにとってただ“楽しい人”で済むかもしれない。でも、その人にとってあなたは?高校生。未成年。責任を取ることもできないのに、近づいてくるような人間の何を信じるの?」
「そんな人じゃない!」
反射的に声を上げてしまい自分でも驚いた。
母は少し目を見開いたあと、静かに言った。
「あなたの将来を考えてるだけ。何も悪いことはしていない。けれど、誤解は一瞬で生まれる。それに、それは一生を壊すのよ。」
風凛は何も言えなかった。呼び止められる声を無視して、ただ黙って、自室に戻りドアを閉める。
布団の中でスマホを取り出すと、そこには「ミナト」の名前が並んでいた。既読になっていない短いメッセージ。
《今日はありがとう。すごく楽しかった。また行こう。》
風凛はその文字を見つめながら、返事を打とうとして、途中で指を止めた。
(また行こう。……そう思うことがもうダメなのかな。)
見えない壁が、急に目の前に現れた気がした。
次は月曜日の夜に公開します。