一人の帰り道
ゲームセンターを出たあとの湊の足は、迷路に迷い込んだようにふらふらとしながらも駅前のスーパーへと向かっていた。
特に買いたいものがあったわけじゃない。ただ、真っすぐ家に帰る気にはなれなかった。
少し冷房の効いた食品売り場を、カゴを持ってのんびりと歩く。
「今夜は……冷凍餃子と冷凍炒飯でいいか」
なんとなく、そんな気分だった。
冷凍庫コーナーで商品を選んでいると、ふとさっきの風凛の顔が脳裏をよぎった。
明るく笑っていた彼女。純粋にゲームを楽しんでいた様子。
そして、2人でタイミングが合ったときに小さく上げたガッツポーズ。
(まいったな……楽しかった)
自分はもっと構えて臨むつもりだったのに、気づけば普通にゲームを楽しんでしまっていた。
あの短い時間が、なんだかすごく特別だったように思えてならない。
ペットボトルの麦茶、半額のサラダ、歯ブラシの替え――
ひとつひとつ買い物カゴに入れていくうちに、だんだん気持ちも落ち着いてきた。
けれど、帰り道。
自動ドアが閉まり、街灯に照らされた歩道を歩くうちに、また別の感情が浮かび上がってくる。
(……あれで、よかったのか?)
⸻
風呂を済ませ、餃子とサラダで簡単に夕飯を済ませた湊は、麦茶を飲みながら自室のローテーブルにもたれていた。
一人きりの部屋。
壁に掛けられたカレンダー、買うだけ買って放置されたビジネス書、そしてスマホ。
ベッドの上に転がりながら、今日一日の“反省会”が始まる。
「……まぁ、適切な距離は保ててた……よな」
自分から連絡先を聞くようなこともしていないし、終わったあとも一緒に遊ぼうとか誘ってない。
話し方もフランクすぎず、むしろちょっとよそよそしいくらいにしたつもりだった。
「距離を詰めすぎたとかはない…と思う。多分」
しかし――
「……いや、逆にそっけなさすぎたか?」
思い返してみれば、終わり際の自分の態度はあまりにもあっさりしていた。
「用事ある」なんて言ったけど、実際どこに行く予定があったわけでもない。
ただ、その場にこれ以上いるのが怖くなっただけだ。
冷たく見えたかもしれない。
風凛は何も言わなかったけど、内心がっかりしてたんじゃないか。
(……またやりましょーって、言ってたよな)
その声が、やけに耳に残っていた。
「……はぁ……」
湊は大きく息を吐いて、スマホを手に取る。
通知は来ていない。
LINEを開いても、風凛の名前は下のほうに沈んだままだ。
何かを送るべきか? いや、送らないほうがいいよな…?
――大人として、節度を保つなら。
でも、今日のあの笑顔を思い出すと、「これきり」にはしたくないという気持ちも、ほんの少し湧いてしまう。
「……困ったな、ほんとに」
湊は麦茶を飲み干し、スマホを伏せた。
部屋の中には、冷蔵庫のモーター音だけが静かに鳴っていた。