再会
日曜日の午後5時。三重の駅の改札口に現れた湊はオフィスカジュアルな格好だった。
(こっちに用事があったからついでと思ってOKしてしまった…よかったのだろうか。今更不安になってきた…)
少し人混みを避けるように立っていると、「湊さーん!」という明るい声が響いた。
「あっ、久しぶり。」
駆け寄ってくる風凛は、制服だった。
「お待たせしました!」
「日曜日なのに制服ってことは部活でもあったの?」
「そうです!そうです!吹部の練習があって。早く行きましょう!」
風凛はうれしそうに笑った。そして、ふたりは駅前のアーケードを歩きながら、あの日と同じゲームセンターへ向かった。
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「今日、けっこういい感じじゃないですか?!」
風凛は自分の思ったよりいいスコアが取れたのか驚いたように言った。
「ほんとにびっくりした…めちゃくちゃ成長してて」
湊と風凛は、2人プレイの音ゲー筐体の前で肩を並べていた。
序盤こそ少しぎこちなさを感じていた湊だったが、1曲、2曲と進むにつれ、純粋にプレイを楽しんでいる自分に気づいていた。
風凛はタイミングもリズムも明らかに上達していた。
「やっぱ、2人でやるとテンション違いますよね~。」
「そうだね。2人プレイって、やっぱ面白いわ。」
画面が次の選曲に移る。
湊はふと、彼女の笑顔を見ていた。
無邪気で屈託がない――悪気も、下心もまったく感じないその態度に、逆に自分の方が意識してしまう。
(……こうしてると、ほんとに普通にゲーム好きの子なんだよな)
2人で協力してSランクを取ったとき、風凛が「やったー!」と小さくガッツポーズをした。
その姿を見て、湊も自然と笑っていた。
(……うん、楽しかった)
けれど、何回か遊んで待合の椅子に座った瞬間――
湊はふと、次に何をすべきかを迷っていた。
このまま、もう少し一緒に過ごしてもいいのか?
ジュースでも飲みながらちょっと喋る?
でも、何かが引っかかっていた。
それは理屈ではなく、ただの「なんとなく」だった。
このあと余計なことになるのは避けた方がいい――そんな直感。
だから、口をついて出たのは深い考えのない一言だった。
「……あ、そろそろ行かないと。ちょっと用事あってさ」
「あ、そうなんですね…了解です!」
風凛は意表を突かれたような表情をしたが、すぐあっけらかんと笑って頷いた。
「今日はありがとうございました! めっちゃ楽しかったです!」
「ああ、俺も。……じゃあ、またな。」
そう言って軽く手を振ると、湊はその場を後にした。
去り際、風凛が「またゲームやりましょー」と小さく言っているのが聞こえた。
俺は笑顔で手を振った。そして、俺は雑踏に消えていった。
湊は少しだけ立ち止まり、振り返らずにスマホを取り出して画面を見た。
特に誰からも通知はない。
(楽しかった。それだけでいい……はず)
そう自分に言い聞かせながら、湊は人混みに溶けていった。