勇気
風凛は、ゲームセンターから帰ってきて制服のまま自室のベッドに倒れ込んだ。
何度もスマホを手に取っては戻し、画面を見ることすらためらっている。
ブラインドの隙間から街灯の光が、部屋の空気を心細そうに明るくしていた。
「……ちょっと、やりすぎたかも」
小さな声でつぶやいた言葉に、ベッドのシーツがかすかに反響した。
──今日はたまたま空いていた2人プレイ用の筐体で音ゲーを練習したくて、
──でも!一人じゃできなかったから…たまたま近くにいた人に声をかけただけで。
それだけだった。
声をかけた相手がまさか20代の男性だなんて思ってなかったし、別にそういう意味もなかった。
自分の行動はどう見えていただろう?
一人で来てた高校生が急に見知らぬ大人に話しかけてきた。
しかもいきなり「一緒にやりませんか?」なんて。
「……変な子、って思われたかな」
つぶやきながら、無意識にスマホを開く。
ミナト──さっき連絡先を交換した人の名前が表示されたままのトーク画面に、新しい通知はない。
自分が送ったスタンプが、ぽつんと浮いていた。
「別に、返事ほしいわけじゃないけども……」
ちょっとだけ気になってしまう。
(練習したくて誘っただけだから!わかってくれているよね!)
もちろん今日一緒にやれたのは嬉しかった。
確かに一人でも楽しかった。でも、2人でのプレイは格段に楽しかった!
あの人はどう思ったんだろう。
ただの暇つぶしに付き合ってくれただけ?
迷惑だったのに断りきれなかっただけかもしれない…
そんなことを思えば思うほど、体の中にじわじわと後悔が染みてくる。
(やっぱり、迷惑だったのかな……)
それでもあの時間は楽しかったのだ。
初めは確かに緊張した。どう見られているのかも気になった。初対面の人だったからなおさらだ。でも、何だろう…
何かがうまく“噛み合った”気がして、あの感覚をもう一度味わいたいと思ってしまった。
「もう一回だけ、やりたいな。誘ってみようかな…」
練習のためだから!あの感覚をもう一度味わいたいだけ!
ただ、それだけ…
いや、でも、うーん…
もし、もう一度あの人が付き合ってくれるなら――
その時は、ちゃんと「迷惑じゃなかったか」聞いてみよう!
それだけ言えば自分の気持ちも少しは軽くなる気がした。
風凛はスマホの画面に短くメッセージを打ち込んだ。
≪湊さん、今週の日曜また三重来ますか?一緒にゲーセンでゲームしたいです。≫
送信。
指先がほんの少し震えていた。