大人
数日後、大阪のファミレスで湊と昔馴染みの2人、門松と菱は昼食をとった後くつろぎながら談笑していた。
「……で?その子、いくつつった?」
向かいのテーブルでは門松がニヤつきながら訊いてきた。小学校からの付き合いだが、こういう話題になると、やけにテンションが上がる。
「高校一年。15とか、16とか……」
湊は俯き気味に答える。
「いやいや、アウトやん!下手すりゃお前、通報案件だぞ?!」
そう茶化すのはもう一人の菱。こちらは眼鏡をかけた穏やかなタイプで、年齢も同じだがどこか落ち着いた雰囲気がある。
「いや、何かあったわけじゃない。ただ、一緒にゲームして連絡先交換しただけだ。」
「それがすでに事件の入口だっつーの。24歳、社会人。JK、未成年。はい、赤信号。」
門松の声は冗談混じりだが、湊の中ではその言葉が重く響いていた。頭ではわかっている。道徳的にも、法的にも、年齢差の壁はあまりにも高い。
「……でも、なんだろうな。あの子といると、なんか自分がちゃんと“生きている”感じがするんだよ。俺、24じゃん。ずっと遊んでばっかで楽しかった昔と比べて<“楽しいこと”って何だ?>って思うことあるだろ。」
「それはまぁ……あるけど。」
「あの子といると、それを思い出せるんだよ。ただ、そういう気持ちを感じる自分が気持ち悪くもあってさ。」
菱がゆっくりと息を吐いた。
「湊。お前、真面目すぎるんだよな。」
「は?」
「いや、褒めてるんだ。そういう“葛藤”をちゃんと感じてる時点でたぶんお前は踏み外さない人間なんだと思う。ただ……」
「ただ?」
「その線の引き方を間違えると大切なものを失うこともある。だから、お前がどうしたいのかちゃんと決めろよ。周囲がどうとか、世間がどうとかじゃなくて。」
湊はその言葉に、何も言い返せなかった。
気づけば時間は21時を回っていた。門松が背中をぽんと叩いて言った。
「ま、風凛ちゃん?だっけ。かわいいなら、写真だけ送ってくれや。」
「バカ言ってんじゃねえ。笑」
湊はそう言って、机の上にスマホを置く。画面には、風凛からのメッセージの通知がいくつか並んでいた。
「今日もゲーセン行きました!」「あの曲、練習してます!」「湊さんって、休日は何してるんですか?」
《湊さん、今週の日曜、また三重来ますか?一緒にゲーセンでゲームしたいです。》
その言葉ひとつひとつが、気がつけば心に引っかかって離れない。
返信する指が一瞬止まる。
「行く」と答えるのは簡単だった。だが、その先にある感情を、自分は本当に制御できるのか。いやできるはずだ。そう思っているが…自信を持ちきれない自分がいる。
俺はスマホをポケットにしまい、駅のホームに向かって歩き出した。
(これは“何でもない関係”のままでいられるか、自分自身との勝負かもしれない)
遠くで電車の音が近づいていた。
いつも「24歳とJK」をご愛読くださりありがとうございます。次回は月曜日の夜に投稿します。