その後
教室の窓から差し込む光が、ノートの上をゆらゆらと揺れていた。
授業中。
先生の声は耳に入っているようで入っていない。
教科書に線を引く手も、どこか上の空だった。
「最近さ、風凛ちょっと大人しくない?」
前の席で誰かがそう言って笑う。
聞こえないふりをする。
笑えるほど、まだ割り切れてない。
別に、恋だったわけじゃない。
ただの憧れ。
そう言い聞かせて、自分の中でも区切りをつけたつもりだった。
でも、たまに――本当にたまに。
急に、ふわっと思い出す瞬間がある。
放課後のホームで、電車を待っている時間。
コンビニのレジで、温かい缶コーヒーを見かけたとき。
静かな夕方、日が暮れる前の公園の景色。
「じゃあ、また明日の夕方に」
あのメッセージ。
ブランコに揺れながら語り合った、ちょっと不器用な言葉たち。
全部、思い出したくないのに、ちゃんと思い出せてしまう。
誰にも言わなかったけど、
スマホのアルバムには、プリクラが1枚だけ残っている。
消せない。消そうともしていない。
こんな気持ちになるとは、思っていなかった。
⸻
一方そのころ。
湊もまた、日常に戻っていた。
大学の昼休み。
学食のテーブルにトレーを置いたとき、友人の一人が軽い調子で言った。
「なあ、あのJK、どうなったんだよ。
付き合ってんのかと思ってたわ、マジで」
「……もう会わないことになった」
湊は箸を止めたまま、ぽつりとそう返す。
その背中が、どこか寂しげに見えたのか、
隣にいたもう一人が苦笑しながら肩を叩いた。
「……なんか、ごめん。変なこと聞いたな」
「いや、大丈夫。
もともと、そういう関係じゃなかったし」
そう言いながらも、ふっと視線を落とす湊。
風凛の笑い声。拗ねた顔。真剣な目。
全部が、胸の奥でまだ燻っていた。




