表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/23

帰り道

ゲームセンターを出たのは、夕暮れが空を染め始めた頃だった。風凛の制服の袖が風に揺れ、俺はその横顔をちらりと見た。夕焼けに照らされた彼女の笑顔が輝いていた。オレンジ色の空、ほどよい風、制服を見てノスタルジックな雰囲気に襲われた。スマホの通知を確認すると、登録されたばかりの彼女の名前「風凛」が、どこか現実感のない響きで胸の中に残っていた。


「湊さん、スーツ姿ですけどどこで働かれているんですか?」


「えっと…普段は大阪で働いていて出張でたまたま三重に来ているんだ。」


「ふーん……じゃあ、もう三重にはあまり来ないんですか?」


風凛の声にはどこか寂しさが混じっていた。だが俺は戸惑いながら、笑ってごまかす。


「また来ると思うよ。その時は、また一緒にしようか。」


「絶対ですよ!」


風凛はパッと笑顔になり、小さくガッツポーズをする。その様子が、年齢差を忘れさせるほどまぶしくて、湊はつい目をそらした。


(……これは、どういう関係なんだ?)


自問する。何かしらの「線引き」が必要だと湊は思っていた。たとえそれが、ゲームを共にプレイしただけの一瞬のつながりだったとしても。「線引き」について考えているところに風凛が尋ねる。


「湊さんは電車で通っているんですか?」


「ああ、そうだよ。A駅から。」


「そうなんだ。私はB駅なんで違いますね...」


「じゃあ、A駅まで送るよ。」


「えっ、いいんですか?」


「少し暗くなってきたしね。」


やってしまった。「線引き」を引こうとした矢先にカッコつけてしまった...後悔の念はあるが今は忘れようと思った。

そうしてふたりは並んで歩き出す。会話は他愛もないものばかりだった。好きなアーティストの話、学校のイベント、仕事の大変さ。それでも不思議と、話は途切れなかった。そのときばかりは楽しさ故に周囲の目を忘れていた。駅に着くと、改札前で立ち止まる風凛が、少しだけ口を尖らせた。


「もっと……遊びたいな。」


「また会えば遊べるさ。」


「……うん、そうですね。」


駅の構内アナウンスが鳴る中、風凛は一歩だけ湊に近づいた。そして、ぽそりと小さな声で言った。


「連絡……本当にしてくれます?」


その一言に、湊の胸の奥で何かが小さく鳴った。


「するよ。約束する。」


彼女は満足そうに笑って、手を振りながら改札を抜けていった。見送る湊は、ポケットの中でスマホを握りしめる。


帰り際にスマホの画面を見た。さっき登録したばかりの「風凛」の名前。通知はまだ来ていない。それがなぜか安心した。と同時に今日の出来事を想起し無意識にはにかんでいた。しばらくして現実に戻される。「自分は喜んでいるのか?これで良かったのか。」家に帰るまで暗い気持ちを抱えながら疑問を反芻していた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ