約束
ドンドンと叩かれていた扉が、急に静かになった。
まだ息が乱れていて、耳の奥がキーンとしていたけど、向こうの気配が少しずつ遠ざかっていくのが分かった。
「……明日、このことちゃんと話すから。逃げないでよ」
母の声が、呆れとも怒りともつかない調子でそう言った。
それきり、足音が遠ざかっていく。
風凛は、しばらくそのまま布団の中で目を閉じていた。
部屋が、ようやく静けさを取り戻す。
鼓動も、息も、少しずつ落ち着いていった。
さっき届いた湊のメッセージが、頭の奥にじんわり残っていた。
《ごめん。》
画面を見るのが、少し怖かったけど……もう一度だけ、そっとスマホを開いた。
湊さんの名前を見ただけで、さっきまでの涙が嘘みたいひいた。
悩みながら、ゆっくりと指を動かして打った。
《……私こそ、急に怒ってごめん。
いっぱい悩んでたのに、あんな言い方して、ごめんなさい。》
何度も打ち直して、ようやく送信ボタンを押した。
既読がついて、数十秒。
《俺もごめん。ちゃんと話さなきゃいけなかったのに、自分のことばっか考えてた。》
その言葉だけで、泣きそうになる。
でも、今は泣かない。
もう一度だけ。
本当に、もう一度だけでいい。
画面を見つめながら、風凛は小さく息を吸った。
《……最後に、もう一回だけ会いたい。
一緒に遊びたい。
それだけでいいから。》
指が震える。
言ってしまったら、戻れないかもしれないのに。
でも、今だけは心に嘘をつきたくなかった。
長い沈黙が訪れる。1分が30分に感じる程の
沈黙のあと…
返ってきたのは、短い返事だった。
《わかった。》
その言葉を見た瞬間、風凛はそっとスマホを胸に抱きしめた。
それがどんな結末に向かっていても、
「最後だけ」が、今の彼女にとって、十分すぎる希望だった。




