出会い
5月後半の平日の昼下がり、田舎にしては発展している駅前のアーケードは観光客の姿もまばらで、少し肌寒い風がビルの谷間を抜けていく。白のYシャツに黒のパンツを着た俺は、肩にかけたリュックを少し持ち上げながら、目の前の古びたゲームセンターの看板を見上げた。
「懐かしいな、こういう場所……」
出張の合間、少し時間が空いた。喫茶店で時間を潰すことも考えたが、ふと目に入ったこのゲームセンターに足が向いた。学生時代、授業をサボってまで通った音ゲー。今ではたまに休日にプレイする程度だが、指が覚えているあの譜面、心に刻まれたリズムはまだ鮮やかだった。
中に入ると、少し古びた内装に懐かしさを感じながらも、音楽ゲームの筐体が並ぶエリアへと自然に足が向いた。平日の昼ということもあり、客はまばら。湊は人気の音楽ゲーム「BEAT Revolution」の筐体にコインを入れる。イヤホンを差し込み、集中する。
(まだいけるな……)
久々ながらも思ったより指は滑らかに動き、ハイスコアとはいかずとも良いスコアを叩き出す。隣の筐体は空席のままだ。ふと画面から目を離すと、背後に誰かの気配を感じた。
「お兄さん、上手いですね。」
振り返ると、そこに立っていたのは制服姿の少女だった。黒髪を肩まで伸ばし、瞳はまっすぐでどこか無邪気な光を宿していた。
「え、ああ……ありがとう。」
「私もそのゲーム好きなんです。よかったら、一緒にやりませんか?」
俺は一瞬、戸惑った。年の差も、状況も、世間の目を考えると「良いよ」とは即答出来なかった。でも彼女の目には下心も怖れもなく、ただ「ゲームを一緒に楽しみたい」という純粋な気持ちがあった。
「……うん、じゃあ一緒にやろうか。」
少女はにっこり笑って、隣の筐体に立つ。
「私、リンって言います。高校一年生です。」
「俺は。えっと、湊…。」
「湊さん、よろしくお願いします!!」
はしゃぐように喋るリンに、湊は少しだけ苦笑いを浮かべる。プレイが始まると、ふたりは真剣な表情になり画面に集中した。リズムに合わせてノーツをタップし、音楽に乗る心拍。違う世界にいたはずのふたりの間に、少しずつ心が近づき始めている感覚があった。
ゲームが終わり、互いのスコアを見せ合って笑い合う。たった数曲のセッションだったが、不思議なほど心地よい時間だった。
「また……会えたら、やりましょうね。」
そう言ってリンはスマホを差し出す。
「連絡先、交換しませんか?」
湊はその申し出に戸惑った。そういう目で見ていた訳ではないが、24歳の俺と高校1年生が連絡先の交換をして良いものなのか。近頃、未成年とのスキャンダルで週刊誌の記事が盛り上がることが多い中本当に交換して良いものなのか…と悩んでいると。
「嫌ですか?」
湊は「その聞き方はずるい」と心の中でふと思ってしまった。
その思いに反して風凛は純粋な眼差しでこちらを見ながらそのように聞いてくる。湊はここで断ったら悲しい思いをさせると思いとっさに言ってしまった。
「良いよ。交換しよう。」
「やった!」
交換先のリストに「風凛」と追加される。
こうして、24歳の男と、JKの少女の小さな関係が、何気ない午後のゲーセンで始まった――。