第一夜
私は森の中で目を覚ました。
森…多分森であってると思う…。でも私はココを知らない。知らない冷たさだった。
頭が痛い。身体が重い。意識が朦朧とする…
そういえば…
「私ってなんだっけ…。」
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雨の降る薄暗い森をしばらく歩いていると、知らない洋館が見えてきた。
とても寂れた洋館だった。暗い森と深い紫の空に合うような、それでいて妙に高級感のある、まるで死者でも取り憑いているかのような暗い雰囲気の洋館だ。
私は何の躊躇いもなく館の古びた重そうな扉を押してみた。開かない。
扉を見るとゴツい鍵穴が付いていた。もしかして鍵が必要なのかと思いながら今度は引いてみた。開いた。意外とあっさり開いた。鍵は必要なかったようだ。
明かりのついていない玄関に一歩足を踏み入れると「ぺた」という音がした。ふと自分の足を見る。どうやら私は靴を履いていなかったらしい。裸足で館に入るのは気が引けるので、私は玄関にあった適当なショートブーツをいただくことにした。
(靴を盗むのもどうかと思うが…)
なんとなく手に取った靴は私にぴったりだった。
靴も手に入れて準備万端。私は館を探索することにした。
ぐるっと辺りを見渡してみる。豪華な館だった。何処がどう豪華なのかというと……私の持ちうる語彙でここの豪華さを表現するのは悲しい事に不可能である…。
だが、今目の前にある事実をそのまま述べるとすると…これでもかという程縦横に広い部屋。暗い色で統一された家具たち。一つ一つ細かな細工が施された扉。艶やかなカーテンの掛かったガラス張りの窓。見上げれば天井にはいくらするんだという華美なシャンデリアが吊り下がっている。
そして玄関から見て真正面には、黒く塗り潰された巨大な絵画が飾られていた。
なんとなく気味が悪かった。やっぱり幽霊屋敷みたいだなと思った。
ふと、居心地が悪くなったので私は2階へと続く階段に足を向ける事にした。
カツ…カツ…カツ…
ショートブーツのせいで無駄に大きくなった足音が無駄に広い部屋に反響して耳に入ってくる。それがより静寂を強調させる。気味悪い。
ようやく階段を登り終えた。
2階も豪華だった。1つのフロアに6つほど扉がある。だが、扉の姿形はそれぞれだった。
私は1番近くにあった扉に手をかけた。その扉を見ると「憂」と書かれたプレートが掛けられていた。
そういえば自分の名前ってなんだっけ?と思った。扉から手を離し、少しの間思案のポーズをとる。が、思い出せない…
「まあ良いか。」
私はそのまま扉を開けた。
豪華な館とは対照的に、とても生活感のある、言わば質素な部屋だった。
(どんな煌びやかな部屋がくるかと構えていたから拍子抜けだ。)
一歩足を部屋に踏み入れると、妙にしっくりくる感じがした。
白、黒、紫でまとめられたシンプルな部屋。家具は、ベッド、小さなクローゼット、壁にかけられた少し高級そうな鏡、ブラウン管テレビとその棚、小さな机と椅子。それらが窓から深紫の空と2つの月に照らされていて幻想的だ。
昔聴いた曲を朧げに思い出しているような、夢から覚めた時のような、そんな感じがした。
「ちょっとだけ休もうかな。」
そう言って私は小さいが十分寝られそうなふわふわなベットに腰を下ろした。するとその時クシャッという音がした。驚いてベットから飛び降りる。先程一瞬自身が座っていた所を見ると何やら一枚の紙が置いてあった。
それは私の【写真付きの資料】だった。
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〈(超可愛い主人公の写真)〉
勿月憂
年齢・16歳
身長、体重・156cm、42kg
視力・右1.0 左1.2
備考・〇〇〇症 不定期に〇〇〇〇〇〇〇〇。
〇〇〇〇〇の為、〇〇〇〇〇〇〇〇ように。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇。
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…らしい。下の方の文字は滲んでいて目を凝らしても読めなかった。まあ、読めなくても支障はないだろう。取り敢えず自分の名前が「憂」であることがわかった。(全く記憶にないが…)
頭の片隅にあったことが1つ解決して憂は少し頭がすっきりした。すっきりしたところで眠気が憂を襲った。急に湧いてきた眠気に勝てるはずも無く憂はベットに吸い込まれるように倒れた。
間も無く憂の意識は2つの月と共に夜の闇に沈んだ。
【今日の収穫】自身の名前、ショートブーツ




