ドラマなんて起きやしない
平凡な毎日が美しい。
「ドラマなんて起きやしない。」
僕は心の底から、そう思う。世の中には、たくさんのドラマがある。恋愛ドラマ、コメディドラマ、サスペンスドラマ、SFドラマ、ホラーやらミュージカルやら時代劇まで。うんざりする。ドラマじゃなくてもいい。映画や小説、舞台など、なんでもいい。もう、うんざりだ。
恋愛ものでは、輝かしい青春を送っていたヒロインが、病気であることを隠していて、その事実が主人公に明かされるころには、高確率でヒロインは死んでいるし、サスペンスやミステリーものでは、大抵、親友かストーリーの途中に出てくるエキストラみたいなやつが壮大な過去を経験し、犯人になっているのがお決まりのパターンだ。
そんな決まりきったドラマチックな展開、現実にはない。
恋人なんてだいたい1年やそこらで、お互い健康なまま別れるし、大きな事件に巻き込まれることもなく、何か特別な、有意義なことをしなければと思っているうちに、代わり映えのない日々が、目の前を流れていく。
だいたいそんなもんじゃないだろうか。ちなみに、僕はというと、もちろんそうだ。毎日、同じ時間に起きて、トイレに行き、歯を磨き、シャワーを浴びて、身支度をする。授業がある日は学校に行っていたし、働き始めた今なら職場へ。
休みの日であれば、午前中にカフェへ行き、仕事の資料を読み、適当なビジネス本か自己啓発本を読み、体を動かしにジムへ行く。午後には夕飯の食材を買いにスーパーへ行き夕飯をつくる。そして風呂に入り、本を読んで寝る。この生活のどこにドラマチックな展開などあろうか。当然ない。
今日も同じことの繰り返し。
唯一、いつもと違ったことと言えば、最近はまっていたドラマについてインスタグラムに投稿してみたことくらい。すると、中学校を卒業して以来、何年も連絡すら取っていなかった元同級生から「いいね」がきた。何の気なしに連絡してみたら、あのシーンが良かった、このシーンが良かった、この俳優はかっこいいだのかわいいだので、思いのほか会話が盛り上がった。気づけばカフェでドラマについて語ろうという約束までしていた。
翌日、カフェで待っていると、その子がやってきた。ドラマの話なんかそっちのけだった。中学を卒業して以来、何をしていたのか、今はどんな仕事をしているのか、はたまた学校に通っているのか、好きな曲は何なのか、好きな食べ物は何なのかなどについて、朝の日差しが眩しかったはずが、気づけば日陰の中で快適に会話を楽しんでいた。
その翌日には、映画館に行き、ベタな恋愛映画を見た。
そのまた翌日には、ドライブに行き、浜辺でギターを弾いた。
そのまたまた翌日には、公園に散歩に行った。
そんな日々を過ごしている間に、いつの間にか腹にぜい肉が付き、髪の毛も薄くなり、台所からは香ばしい匂いが、庭からは無邪気な声が聞こえてくる。いつもと変わらない日々、人、風景。
ほら見たことか。ドラマなんて起きやしない。