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A05 鐘の音

しばらくこちらの話が続きます。お付き合い下さい。

「お前、レオン・ザン・アルトリア第四王子だな」


「…………はい、そうですけど……」


「…………」


 睨み付けるようにこちらを見てくるガイウスに、内心で少したじろぐ。

 燃えるような真っ赤な瞳はそれこそ文字通りに苛立ちが燃えているように見え、そしてそれが自分に向けられているものだとすぐに分かった。


 …俺、何かしたっけ?


 まず思ったのは、それ。

 それはそうだろう。なにせ、彼とは初対面なのだから。

 遠目に見かけたことがある…どころの話ではなく、直接見たのは先の入学式が初めてで、グランバルト帝国という親交深い大国の皇子ということで名前を知っていた程度のものなのだ。

 だからこそ、こんな睨みつけられる由縁はないと思い、戸惑っていた。


「あの…」


「チッ。そこに突っ立てると邪魔だ。退け」


 何か気に障るようなことしましたか。

 と、聞こうとした瞬間、ドスの効いた低い声でそう言われ、俺は言葉を詰まらせつつも横に退く。

 すると、その様子をガイウスは一際強く睨み付けてきて、しかしそれ以上何かを言ってくることもなく、自分の席へと歩いていった。


「えぇ……」


 本当に何かしてしまったのだろうか?自分の知らないところで。

 だとしたら申し訳ないのだが、正直会うのが初めてレベルなのに既に何かやらかしているとは思いたくない。

 自分の関わった何かが、間接的に彼の機嫌を損ねるような何かへと繋がったとか?

 ……それこそ、そんな苛立たれても…としか言いようがない。そういうのは言ってくれないと分からない。

 あるいは、本当にただ邪魔になっていてイラつかせてしまったのか。


 ……さすがに、そのくらいであんなに怒る…か?

 先程舞台上で見た彼は、もっと誠実で正しく王子様って感じの雰囲気をしてたのだが…。

 人前だと猫をかぶるタイプなのだろうか。そう言う人は多い…というかそういう人ばっかりな印象はあるが、それなら尚更、初対面で他国の王子である俺にいきなりあんな態度は取らないと思う。

 舌打ちされたし…。


 うーん、考えてもよく分からないな。

 とりあえず、後で何か気に障ったか聞いて謝ろうか。

 せっかくこれから学園生活が始まると言うのに、いきなりクラスメイトに嫌われたくはない。

 もう既に嫌われているのでは?というレベルで睨まれていたけど……まぁ、まだ仲良くなれると信じたい。


 そう思い、席に座るグラウスを見ていたところ、俺は再び声をかけられて振り向いた。


「ねぇ、そこ退いてもらえる?」


 言葉だけで見ればトゲがありそうだが、しかしただ単にそういう口調なだけなのだろうと察せられる優しい声音で話しかけてきたのは、黒髪の少女だった。


 腰まで届きそうな長い黒髪の一部のみを横にまとめた、いわゆるサイドテールのアレンジのような髪が特徴的な黒髪赤目の少女。


「あぁ、ごめん」


「ありがと」


 言われた通りに退くと、その横を通ってすぐ前の席へと歩いていく。

 俺はガイウスに睨まれて扉の前から退いたわけだが、そのために廊下側の通り道を塞いでしまっていたらしい。

 その少女は、俺が扉のすぐ横に立っていたために目の前の自分の席に行けなかったというわけだ。


「貴方も席に座ったら?もうそろそろ時間よ」


 自分も席に座りつつそう言ってくる少女に従い、俺は周囲を見る。

 すると、つい今しがたまでは各々が自由に行動していたように思えたのに、今ではそのほとんどが席に座っていたり、あるいは自分の席なのだろう場所の近くにいたりしていた。

 思えば、リュアレの歩調に合わせて講堂からはかなりのんびりと歩いてきたし、伝えられている時間を考えればもうそろそろだろう。


 ────そう思っていた時、不意にコーーン…という耳心地の良い鐘の音が響いた。


「ほらね?」


 以前にも言ったが、この世界の科学力はかなり低い。

 魔法に頼っている節があるため精密機器なんかは特に見ない。

 それ故に、時計だって滅多にない。

 いや、見ることはあるのだが、それは王城や街中の時計台などの重要な場所に大きなものがあるくらいだ。

 当然、前世のように日常的に小型の機械式時計があるような生活はなく、ほとんどの人は、一定時間毎に鳴る鐘の音によって報されていた。

 例えば王都だと、六時間毎に僅かずつ音の高さを変えて鳴らされていた。


 この学園でもそれは同じで、敷地中央に巨大な時計台があるものの、基本的には鐘の音。

 ここは王都よりも早く、一時間ごとに鳴る、と言っていたな。


 一度のみの高い音は予鈴…だったか。

 ちなみに鐘の音は魔法によって増幅されているらしく、基本的に範囲内ならどこにいても一定以上の音量で聴こえる。


「あぁ、そうさせてもらうよ。ありがとう」


「いいわよこれくらい」


 黒髪赤目の少女にそう言って、自分の席へと歩き出す。

 そういえば、名前を聞いていなかった。

 父上や兄上などは、王子たるもの自ら名乗るのでは格好がつかない…とかなんとか言っていたりもするが、それは時と場合によると思う。

 まぁ自分から名乗ることが格好つかないことなのか自体、そもそも疑問なのだが。


 声をかけられた時に、名乗りつつ挨拶しておけば良かった。これで他国の王女様とかだったらどうしようか。とりあえず、あんな適当な態度をとってしまったことを謝らないとな。


 そう思いつつ自分の席に着くと、それとほぼ同時に本鈴だろう鐘の音が鳴った。高くも低くもない鐘の音が二回連続して響く。

 ……ちょっと、予鈴と本鈴の間が短すぎないだろうか?こういうのって数分くらい空けるものではないだろうか。

 前世の学校を基準にしてはいけないか。

 ……いや、それにしても短すぎると思う。


「あの…」


 あまりにも早く本鈴が鳴ったことに驚いていると、不意に横から声がかかる。

 俺の席は窓際の一番端なので、横と言っても右に座っている人だけなのだが。


 かけられた声の方を見る。

 案の定、こちらを見てきているのはすぐ隣に座っている子だった。


 黒髪黒目の少女。ざっくり言うならそんな感じ。

 この国では珍しく日本人風な顔立ちで、髪も目もその通りに黒い。

 こうも真っ黒なのはこの国だと珍しいので、最初にこの教室に入った時にも目に入った。

 ヤマト帝国は黒髪黒目が多いと本で読んだ記憶があるが、そこの人だろうか?


「レオン王子殿下…ですよね?お初にお目にかかります、イロハです」


「あぁ、どうも…初めまして。レオンです。…あー、イロハさんは、どこ出身の人?」


 かなり直球な気もしたが、気になったし、流れ的にはそう違和感もないからまぁいいだろう。

 イロハ、と言うからにはやはりヤマト帝国の子なのだろうか。

 ……いや、名前が日本人風だからって日本のような雰囲気を感じる国と結び付けるのは良くないか。

 突飛な憶測すぎるだろう。


「…あー、えっと、私は平民です」


「平民…ってことは…あっ、この国(うち)の…」


 やはり突飛な憶測だったらしい。

 だが、正直この憶測をするのも仕方ないと思う。

 改めて、彼女の姿をよく見てみる。


 肩にかかる程度の長さの黒髪はサラサラとして艶やかで、その髪よりも深く黒い瞳は青みがかっているようにも見える。

 顔立ちはキリリとしているが大和なでしこを感じる日本人らしさのある整った顔で、控えめに言っても綺麗だ。

 そして、やはりアルトリア王国出身っぽさを感じない。


 俺もそうだが、この国の人は全体的に顔立ちがシュッとしていて鼻が高い。

 こうも純日本人風な、鼻が小さく落ち着いた顔立ちの人はそうはいない。


「あの…なんでしょう?」


「えっ!?…あぁ〜、いや、平民でこの学園に入れるなんて凄いな、と思ってさ」


 見つめていた理由を誤魔化すように、咄嗟にそういう。

 流石に、見た目がアルトリア王国人っぽくなくて見つめていた、なんて失礼なことは言えないだろう。


 とはいえ、実際平民でこの学園に入れるのはかなり凄いことらしいので、そういう意味で彼女が平民であることに驚いていたのも嘘ではない。


 らしい、というのは、俺も詳しくは知らないからだ。

 ここは学園ということで、当然ながら通うには学費を支払う必要もある。

 で、その学費というのが、そこそこ以上に裕福でなければとてもでは無いが払えない額らしい。

 だが、魔法や武術など何かしらの分野で才能があると認められれば、その辺の諸々を一部あるいは全て免除して特別に入学できるとかなんとか。


 なので、彼女が本当に平民なのだとしたら、少なくとも一部を免除してもらえるくらいには才能のある優秀な人物であるということなのだ。


「あぁ、それは…」


 俺が賞賛したことに対して何か言おうとしていたイロハだったが、その言葉は教室の前方より発生したカツカツという硬い音によって遮られる。

 気がついて音の鳴った方を見ると、ゆったりとしたローブを着た老人がなにやら黒板に文字を書いているところだった。

 恐らく教師だろう。


「話はまたあとでにしよう」


「あ、はい」


 そういえば、もう本鈴は鳴っていたのだった。

 イロハに声をかけて前を向く。


 ついに、学園生活の最初の一歩が始まろうとしていた。

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