Episode7-4
「羽鳥大尉に会ったのは鹿児島が最後だったが、殆ど話す機会が無かったよ。でもあの人にはいろいろ奢ってもらった」
「上司として下に対しての行動だっんでしょうね。あと、じいちゃんはタバコをよく吸っていたんですね。今までの人の話にはタバコなんてあまり出てこなかったので愛煙家ということを知りました。」
あのころはタバコを吸ってない人間の方が珍しかったよと、岩倉は言うが本人がタバコを吸っているようには見えなかった。同期や同世代の話では出てくることのなかった上司としての羽鳥文彦をここまできてようやく知ることが出来たことに、侑人は今までのように実感を持つのではなくまた遠い存在のように感じた。
「俺も防大を目指しているんですが、やはり年上や入隊が速い人たちの上に立つのは大変なんですね」
「そうだな……俺は上に立ったことがないから分からないが、プレッシャーやらで大変だったんじゃないか?俺と羽鳥大尉は5歳差だが、部隊配属の時期はほぼ一緒だったからね」
5歳差が殆どタメだったと聞くと同年代の兵士は部隊では小隊の中ではそこそこの位置にいたのではないかと考えると、恐ろしく感じる。
侑人が防大に行き幹部になった場合も、高卒入隊者と4年もの月日が開き部隊に配属された頃には陸士の中でも上の方に在籍していることになる。幹部にならなくても高卒と大卒では同世代の立ち位置がしっかりと別れる。それは社会人として年齢より在籍年数を優先するからであるが、まだ社会に出たことの無い侑人にとっては不安が増える一方である。
思い詰めたような表情をしだした侑人を見て岩倉は面白そうに見つめる。
「そんなに難しく考えなくていいと思うよ。昔と違って今はそこまで新品に対して弄るほど余裕が無い時代じゃないんだから……まぁ、羽鳥大尉みたいに堂々と態度がでかいと思われるぐらいが一番いいかもね」
文彦は一体どれだけ態度が大きかったんだと思うほど、岩倉の印象に残っているようであるがそんな簡単な話じゃないだろうと侑人は溜息をこぼしてしまったが岩倉は気にしていないようで思うしろそうに侑人を見たままであった
「まぁ、まさか孫が聞きに来るなんて夢にも思ってなかったが、あの人は普通では無かったから数ヶ月しか一緒にいなかった俺なんかより南方に出てからあの人の部下たちの方が面白い話いっぱい話してくれると思うよ」
岩倉が横目で腕時計を確認している姿を見て、そろそろ別れの時間が近いのだと聞きたかったことを聞こうとノートにメモをした文字を見る
「最後にひとつ、羽鳥文彦は軍人としてどのような人でしたか?」
「……優れた人だったとは思うよ。勤勉で開放的な人だったが、協調性はあまりなかった人だから編隊を組んでるとおいて行かれそうになることが多かったな」
協調性はなしと書き込んだ文字を大きく囲んで、侑人は満足したのかノートを閉じ岩倉の方へ視線を向ける。元軍人は雰囲気や仕草で分かりやすいなと改めて思う。今まで会ってきた元軍人たちは皆年老いても背筋がよく、頭上からなにかに吊るされているかのように真っ直ぐ伸びているのが特徴的だった。
「本日はお忙しい中、お話を聞かせていただいてありがとうございました」
「いやいや、戦争の話を聞きたいなんて言ってくる人は余りいなかったからこちらも楽しかったよ」
帰りは下まで送ってもらい、ホテルの前で別れることとなった。改めて侑人が岩倉にお礼を言うと笑って返されたが、再度深く頭を下げ岩倉と別れ本日泊まる予定のホテルまで人並みに流されないように無心で歩いていった。
こぼれ話
・文彦は酒豪で愛煙家
・岩倉の息子は旅客機のパイロットで孫娘はCA
・田神は悪酔いして文彦に殴りかかったことがある




