Episode7-3
「この戦いに終わりはあるのですか?」
文彦の奢りで酒屋に来ていた仲間の中で田神が酒を煽り、顔を赤くしながら文彦を見つめる。
満州事変から日中戦争ときて今回の戦いだ。どれも終わらず長引き拡大してしまった戦争の行く末なんて上層部ですらもう分からないところまで来ていることを新米大尉に聞いても分かるはずが無い。そんなことは分かっていても田神は聞きたくなるほど、先行き不透明の現状を不安に思っていた。
「そうだなぁ……貴様たちには酷だと思うがまだまだ終わらないだろうな。だが、我々が頑張ればその分早まる可能性もある。だからボクたちは本土にいれる今のうちに練度を積む必要がある」
当時、士官たちの耳には南方での敗北の噂はよく耳に入るようになり、正式に上から知らされる訳ではなく同期たちの情報により噂として知っていたが、まだ入りたての下士官に現状の惨劇を教え、戦意喪失されてはたまったものではないため、士官の間でできるだけ噂を下には回さないように努めていたが下士官には下士官の情報ルートがあり、知っているものは知っているといった状態になっていた。
文彦は素知らぬ顔で酒を飲みながら田神を見つめていたが、田神は納得がいっていないような表情をしていた。まだまだ終わることがないという言葉を上官からはっきり言われたのが嫌だったのかもしれない。
「……一つ情報を上げよう。近いうちに我々隼部隊はテニアンへ移動することになる。激戦地である南方へ行くんだ。そのことを強く受け止め、明日からの錬成は今まで以上に尽力してもらう。長距離飛行できるよう体力錬成も強化するから」
南への進行と文彦がさらりと言ったため、顔色を悪くしたものや動揺したものもいたが皆、軍に入った時から覚悟は決まっているため酒で本心を飲み込んだ。岩倉はあまりどんちゃん騒ぎが得意ではないため、少し離れたところで話を聞いていたが先に帰ろうとしていた文彦の後を追うことにした。
「さっき言っていた移動って本当なんですか?」
「あぁ、トラック島やマリアナ諸島が攻撃され始めたからな……移動したらもう本土に帰ってこれないかもな」
文彦はなにも感じていないのか胸ポケットから煙草を出し吸出し岩倉にいるかと向けてきたため、岩倉は有難く火までもらい一服する。横にいる文彦を少し見上げ一緒に歩いていると、前だけ見ていた文彦と目が合い驚いた岩倉は視線をわざとらしくそらした為、笑われてしまった。
「羽鳥大尉は怖くはないんですか?南方へ行くことに対して」
「そうだなー、同期の何人かもう空で戦って戦果を挙げたや散ったって話を耳にするたびに、ボクは早く空で獲物に食らいつきたいと思っているんだ」
「……聞く相手を間違えましたね、戦闘狂の分隊長に聞くことじゃなかったです」
「本当に貴様らボクのこと上官だと思ってないな」
「課業中は皆尊敬してますよ、それ以外は無礼講にしたのはあなたでしょ」
岩倉が誤魔化すように文彦に思っていたことを聞くと、返答が案の定のもので心の底から聞く相手を間違えたと顔に書かれていて文彦は苦笑いをしてまぁいいかと気にしていないそぶりをした。兵舎に着くまであまり会話をせずただ黙々と歩き、兵舎につくと岩倉は振り向き
「俺は絶対あなたについて行きますからね」
「岩倉の操縦技術は上手いからな、期待しているよ」
文彦は少し驚いた様子だったが、煙草をくわえたまま手を挙げこぶしを掲げた。岩倉は操縦技術を褒められたことが嬉しく、夜であるにも関わらず大きな声でお礼を言い兵舎の中に急いで入った。そのとき、文彦は腹を抱えて笑っていたように思うが、恥ずかしさのほうが勝りさっさと自身の部屋に入り同室の人間たちにどうしたと聞かれるも無視してしっかりとセットしていた布団にくるまってしまった。
岩倉は文彦指揮官の元、テニアンに向かったが途中、手前の島に不時着してしまいその後何とかほかの人間とたどり着いた時には岩倉の指揮官は文彦から違う人間に移されしまっていた。その後、所属が変わってしまい文彦について行くことができなくなった。
岩倉はその後、南方で撃墜王となり内地で特攻の直掩機の任務に就いた際、文彦と再会したのだがあまり会話をすることもなく文彦は未帰還となった。




