Episode7-2
本当に一緒にいた日々は少なかった。羽鳥大尉と出会ったのは鹿児島基地でのこと、多分だが羽鳥大尉と関わりが強いのは俺たち甲飛10期だったと思う。大尉は飛行学校卒業後すぐに俺たちの部隊の分隊長としてやってきた。実戦経験のない若い隊員しかない部隊で、まだ卒業したてのはずの大尉のもと日々厳しい錬成を行った。
大尉……羽鳥と出会ったのは航空隊ができて一か月ぐらいのときに俺たちの分隊長に今年卒業したてのヒヨコが来ると聞いて、なんだ全体的に新人しかいないじゃないかと軍の若年化を目の当たりにして肩を落としいたことを覚えている。気の弱そうなやつだったらとか、同期の中では新品分隊長をどうやって弄るかという話で持ち切りだったが、配属してやってきた羽鳥と対面した時からそんな気を起こす奴はいなかった。なんせ本当に新品士官なのか疑いたくなるほど最初から態度が大きかった。のちに一度再会した際にあの頃の態度は何だったのかと尋ねたら、舐められない様にするにはデカく行くことだろと笑われ、自分たちが考えていたことがすべてお見通しだったのだと思い恥ずかしくなったが歴代士官たちは部隊歴の長い部下たちに弄られてきた教訓なんだとその時思った。
羽鳥の錬成はほかの人たちが優しいと感じるほど厳しいものだったが、時間がなかった分ハードに行っていたのだろうとすべて終わった今だからこそわかることも多い。当時は士官にだけ情報が言っていて我々下の者は言われたらすぐに動くことしかできなかった。
上空のことだけでなく体力錬成も軍に入った当初のような厳しさがあり、駆け足で足を痛めるやつもいたが軍人たるものそんなことで訓練を休めるはずもなかったが、うちの部隊は運がいいことに医学の知識を持っている田神という同期がいて捻挫をした足を痛くないように固定したりしてくれ部隊の指揮も高かったように思う。
一緒にいる期間は長くなかったが、俺と田神は気に入られたのか一緒に外出することもあり奢りでいいものを食べさせてもらうことがあった。羽鳥は見た目に似合わず酒、たばこをよく飲み吸う人で好みはなかったようだが煙草をくわえている姿が一番印象に残っている。短い髪が気になるのか頭を触っている場面もよくあり、よく仲間と坊主でも似合ってますよというとにやりと笑い似合っていることは知ってると決め顔でいい俺たちが笑うというくだらないやり取りをよくして楽しかった。
そうだ、一度だけ写真を見せてもらったことがあったな。一人でひっそり酔い醒ましをしているのか夜風に吹かれながら兵舎の近くでタバコをふかしている羽鳥が見ていた写真を見せてもらえたんだ。その時初めてうちの分隊長が既婚者だと知り驚いたものだよ。兵学校卒業したばかりの人に嫁さんがいたなんて俺の酔いのほうがあの時一瞬で吹き飛んだ。
「次ぎ会えるのはいつになるかわからないが、あいつと一緒にいた証が残せたらいいな」
空に向かって煙を吐きながら言っていた羽鳥の耳には日本の戦況が最悪で再起の兆しがないことが分かっていたのだろう。現にこの年の四月に我々は南方へ前進し戦闘の日々を送ることになったが、あの時羽鳥が言っていた証がまさか俺の元までたどり着いたんだから運命ってものはわからないものだね。
鹿児島基地以降、羽鳥の隊で共に南方へ移動していた途中、未熟であった俺は羽鳥の列機からはぐれて別の島に上陸してしまい、次に会ったのはまた鹿児島で特攻の直掩機に任命され久しぶりに本土に帰ってきた時だった。
俺が羽鳥の死を聞いたのは結構早い段階で、未帰還の情報だけ入っていたんだ。あの人なら未帰還でも機械トラブルで海で漂流しているところを米軍にでも捕虜にされ生きて帰ってくるんだと思ったら、現在でも帰ってくることはなかった。
言い方は悪いが、あの人もちゃんと人だったんだなぁと思ったね。




