Episode6-2
Episode4-3新しくしました!
私には4人の兄と姉の末っ子として羽鳥家に生まれ、特に5歳上の姉より8歳年上の兄によく可愛がってもらったことを今でも鮮明に覚えてます。
1929年は私が生まれた年で、丁度世界恐慌が起こった年であり、日本があの戦争へ向かって行くきっかけともなりました。皮肉なことに一番好きだった兄はあの戦争帰らぬ人となりました。
文兄のことは戦後、多くの方が実家に訪ねに来て下さり線香とともに私たち家族の知らない文兄の姿や、逆に軍人ではなかった頃の文兄のことを聞きに来る方たちもいました。文兄による他者との交流は今でも続き、文兄の同僚のお子さんだったりお孫さんが命日に線香や墓参りに来てくれて文兄の偉大さと軍人さんたちの絆の深さにまだ若かったわたしは毎回感服しました。
実を言うと文兄は私たち兄弟の中で1番優秀な人だったのではないかと思ってます。落ち着きがなくヤンチャな文兄より上の落ち着いていて品行方正な一兄の方ができた子と周囲から言われていましたが、一兄曰く文武どれも文兄に勝ったことがなかったそうです。唯一勝てたことは文兄より早く生まれてきたことだといつも言ってました。
私が言うのはなんですが、兄弟仲はとても良かったように感じます末っ子である私を皆可愛がってくれましたし、文兄も姉にはよく甘えていました。今でも強く覚えてる一兄の姿は文兄の悲報が家に届いた時に電報を強く握り締め、「俺が大学に行きたいなどと言わなければあいつは今でも生きてたかもしれない。俺よりも行くべきであったはずのあいつを俺は殺したんだ」と夜中まで泣いていた姿でした。
もし、文兄が生きていたら流石の一兄も殴られていたんじゃないかしら?確かに軍人になったのは経済的理由でしたが、次男である文兄は軍人にならない人生なんてあの時代無かったのだから……
我々家族は文兄が米軍の捕虜になってても構わないから、家に帰ってきて欲しかった。
私自身男勝りなところがあり、姉や一兄から文兄と性格が似ているとよく言われたものです。本をよく読んでいた兄ですが、私が誘えば嫌な顔ひとつせずにニヤリと笑い一緒に走り回ったものです。川遊びがしたいと言うと兄の後ろに乗せてもらいケッタで遊びに行きました。いつも最後には遊び疲れて寝てしまった私をおぶって兄は家まで連れて帰ってくれました。幼なじみに文兄の話をするといつも私をおぶっていた人と認識しているのだから人の記憶とは面白いものです。性格はそっくりなのに顔は文兄と私は似ておらず父と一兄とよく似てると言われることが昔から多く、小さい頃は親戚の集まりの時によく父と似ていると頻繁に言われ、父と似ていることが嫌で号泣してしまったことがありました。その時はいつも一兄は困った顔をし、文兄に抱きしめられながら慰めてくれてました。文兄と姉たちはよく似てました。3人とも美人で顔は似てましたが1番上の姉は目元が母似のタレ目で、文兄と2番目の姉は父似の猫目で目元だけで雰囲気が全く違いました。
文兄は本当に猫のような目をしてて、父似と言いましたがあの目つきの悪さとは似ても似つかない目をしてました。私はよく地域の人達が文兄の容姿で盛り上がっている姿を見て自分の事のように嬉しく、自慢げな顔をしては隣にいた文兄に笑いながら優しく頭を叩かれたものです。
文兄は私のことをそんなに叱ることはありませんでしたか、橋から川へ飛び込む遊びと兵隊ごっこだけはやらせて貰えませんでした。こっそり川への飛び込みをやった日には誰に聞いたのか文兄は不機嫌そうに玄関におり、私が帰ってきたと分かると正座させられコンコンと叱られました。文兄は本ばかり読んでるかと思うといつの間にか家から出て近所の子と喧嘩してましたし、怪我をして帰ってくることも多々あり兄妹である私から見ても二面性が強い人だったと思います。
兵学校へ進学されてからは最初の方は本当に寂しかった事を覚えてます。長期休暇になると家に帰ってきてくれますが、いつも休暇の初日から数日は大阪に嫁いだ一番上の姉の家に行ってしまうし、帰ってきても学校に顔を出したり同期の元へ行ったりと忙しなく動いていて私に全然構ってくれなくて怒ったこともありました。夏に帰ってくると真っ白な制服が真夏と陽射しを反射して本当に眩しくてかっこよかった。軍服姿で家に帰ってくる文兄は私たち兄妹の誇りでした。
最後に文兄に会ったのは、文兄から現在群馬にいると手紙を受けた時でした。ちょうどこの時、文兄の奥さんである幸子さんが風邪で倒れており、一つ上の姉が看病しておくから行ってこいと背中を押してもらい、短く書かれた群馬の文字に母とともに急いで電車に乗ったことを覚えてます。いつ文兄がまた遠くに行ってしまうか分からず、群馬に着くまではまだ文兄はいるのかと焦る気持ちでいっぱいでした。
着くと面会所に通され、文兄が来るのを今か今かと忙しない気持ちで待っているとゆったりとした足音が近づきドアが開かれると、最後に私が見た坊主に純白姿が茶色の飛行服に身を包み髪の毛は伸びしっかりと整えられた文兄の姿があり、一瞬知らない人に思え戸惑っていると母が「文彦、元気そうで安心したわ」というと先ほどまでの軍人らしい表情から私も知っている母に甘える時の文兄の顔になり、母を抱きしめた姿が1番印象に残っていおり羽鳥文彦らしいと私は感じています。




