Episode5-3
「俺が羽鳥と会ったのはこれが最後だったよ。その後俺は戦況悪化とともに特攻に行かされ、運悪く機械トラブルで海面不時着しているところをアメリカ船に捕まり捕虜になったんだ。日本に帰って来たのは終戦後で、一体何人生き残っているのか調べることに必死だったよ。その時だよ、羽鳥の死を知ったのも」
本野はタバコを吸ってもいいかと聞き、喫煙席だったためどうぞと侑人の横に遭った灰皿を本野の前に出すと美味しそうにタバコを吸いだす。あまりにも幸せそうに吸っていたため見ていると本野は恥ずかしそうに
「息子や孫たちに健康のためにタバコをやめろと耳にタコができるくらい言われてまして、いやぁ、昔は吸っていない人の方が少なかったのに」
「心配されているということは愛されている証拠じゃないですか。祖父も結構無茶をしたと聞いて本当にヤンチャな人だったんだなと思いました。本野さんに会う前にも祖父の幼馴染や親友、兵学校の同期に祖父について聞くことが出来ましたが、どの時期を切り取っても祖父は人を投げ飛ばしてますね」
「あいつは普段は大人しかったんだぞ?静かだと思ったら隅のほうで教本を読んでいたよ。だからあいつは教官に教わる前の動きも予習し、さらに実践ではどう扱うのかをしっかりと考えていた」
文彦はどこに行っても、あまり本人のペースを変えることがない人物なのかもしれない。本当の羽鳥文彦の心情など本人にしかわからないが、本を読んでいるときは静かという認識がついている。特に集団生活ともなると何かを読んでいるときは隅のほうにいたという目撃情報があったらしい。本野によるとあいつは目立つからどこにいても誰かが居場所を把握していたということだ。よく戦闘機を破壊するが同期仲はそれほど悪くは無かったらしい。
今回の収穫は文彦は多くの戦闘機を破壊した破壊王であったこと、誰もが死んだと思ったというほど戦闘機が悲惨な状態になっても本人は逃げ出して無事だったということ、教本を熟読し自分のものにしていたことなど、ようやく軍人としての羽鳥文彦が出てきたことに侑人は嬉しい気持ちになりながらメモを取っていく。文彦のパイロットとして優れていたのかは、まだ聞けていないが着陸の時に破壊しても生き残っている時点で空中戦で必要な動体視力や反射神経はあったのだろうと思う。
「本日は遠いところからわざわざ、祖父のためにありがとうございました。兵学校時代のことは同期の方から聞いていましたが、戦闘機乗りの祖父のことを聞けて良かったです」
「そう言ってもらえてよかったよ。俺は結局、運良く生き残ってしまったがあいつは本土防衛のために散ったからな……そういえば羽鳥が部隊配属後すぐに部下になった男を知っているが知っているか?」
「戦友会に載っている方なら片っ端からお手紙を出させていただきましたが」
「なら、岩倉七郎のもとへ行くといい。岩倉は羽鳥が大分空から配属された隼部隊時の部下だ」
本野はメモを貸してほしいといい、侑人のメモ帳に名前と住所、電話番号を書いて侑人に渡した。羽鳥の名を出せば取り合ってくれるはずと言い、ここの料金は俺が払おうと飲み物代を出してもらい別れる時まで永遠に頭を下げお礼を言って別れた。




