Episode4-3
羽鳥文彦たち70期生は入学が早まり12月入隊と今まででは異例なところを見ても、日本の世界における状況は災厄な状態であることが分かる。
普通に生活をしていれば分かりにくいが、軍にいる以上言葉で言われなくても雰囲気で察してしまうことが多い。日中戦争も終わりが見えない沼に足を踏み込んでいるようにしか思えない。しかも米国の動きが最近日本に対してのみいやらしい動きをしているようにしか見えず、そろそろ米国との戦争も避けることが出来ない状況になってきている軍靴の音が響く日々
「羽鳥さん、また軍帽の布しっかり張れてませんよ」
「ゲッ、うわーボクこれ嫌いだよ」
「そんなこと言わないでください。この白を目指して入る人も多いんですから」
地獄の江田島も上の代がいなくなり四学年となった羽鳥たちは、のびのびと暮らしていたが、問題も多く同期で同室の近藤郁が今までも体調不良が目立っていたが最近では痛みで痙攣を起こしたり気を失うほど悪化している状態だ。せっかく四学年まで一緒にやってきた仲間なだけあり同期一同、近藤と共に卒業したいと強く思っており、教官の中にはどうにか卒業まではさせてやりたいと動いてくれている心優しい人もおり、何とか課業に出ることが出来ているが、休憩中は部屋でモルヒネを使用しているが最近量が増えている為、打つときは誰かが近くにいることが暗黙の了解になっている。
今日は羽鳥と吉川が明日の休日外出から衣替えのため、帽子に白い布を張る作業を黙々としていた。プレスされた皺ひとつない白い布を帽子に皴が出来ないように張る作業は、羽鳥が苦手としている分類で実は羽鳥と吉川は手先が不器用で裁縫が大の苦手な吉川と白い布を張るのが苦手な羽鳥は結構同期のあいだでは有名で、時間が本当に無い時は縫物を皆が手伝ってくれることがある。
「近藤気分はどう?」
「明日の外出でほしいものはありますか?」
よし出来たと、帽子を張り終えた羽鳥がベットの上でボーとしている近藤に話しかけながら鏡の前で帽子の調整をしていた。吉川が近藤の隣に腰を掛け問いかけると、眼球だけが動き首を横に振る。
「近藤もつらいのは分かるけど、あまりモルヒネを打ちすぎるとモルヒネで死ぬぞ?本当につらいなら除隊して地元に帰るのもありだよ」
「そうですよ。最近、下の子たち全員を殴りすぎですよ」
近藤は情緒が不安定になるのか、特に四学年になるとよく後輩を殴っている姿が目立つようになった。下を殴る人間は結構おり、羽鳥たちが下っ端だった頃も理不尽に殴られることが多々あり、珍しいことでも無いが近藤は今まで手を出すような人間ではなかった為、周囲は一層心配をしているのである。
だが、近藤は故郷に残してきた許嫁のためにもどうしても兵学校だけは卒業したく、周りに迷惑をかけていることは承知の上気合いと根性でやり切ると決めていた。あまりにも決意の固い近藤に同期も心配をしながらも支えるところは支え協力し合いどうにか近藤は卒業をすることが出来た。
しかし、配属艦に乗って航路できる体ではない為、卒業とともに除隊することとなった。除隊し、地元に帰り療養することになったが同期はわざわざ三重の近藤の元へ顔を出すことがあった。
入学も卒業も速かった70期生たちはその後、空の戦士になったものが多く皆空の英雄として散っていった。初の特攻兵も近藤たちの期から選ばれており目まぐるしい速度で時代は動き、そして戦争と共にかけがえのない同期たちは空へと旅立っていった。
見舞いに来る同期たちが誰が死んだや行方不明など、教えてもらうたびに近藤は自分の無力さや早く健康だった頃に戻りたいと強く願った。
だが、近藤の願いもかなわず空襲などにより体を酷使することが増え、一向に軍に入るほどの体調になることなく終戦を迎えた。
羽鳥の死も同期が手紙で教えてくれ、その時は流石にあいつが死ぬなんて思わず信じられなかったことを近藤はいまだに覚えている。あと少しで終戦で、一緒に酒を飲みかわしたかったと静かに手紙を握りしめ涙した。




