【自称アンタレス星人】 今日は波動高めで 6
オリオン族の船団は大きな煌びやかな船だった。アンタレス星人のシンプルな色や形と違うため、係留を見に多くの人が迎えた。デッキから港を覗く顔は幼い子どもばかりで大人は国の役人と王族の一部だった。出迎えに手を振っている姫に対してネルは、
「ええ!姫ってあんなに幼いの?交流って何するのよ」
高いところにあるフロントデッキ管制塔で見守りながら、そう言った。数日前に着艦したミルもそれは不思議に思っていた。優勝者の彼だけの特典にしてもよかったのだ。
。。。狙われているのは、アンタレスなのか、彼なのか
心の中でミルはつぶやく。
珍しく武神将の姿のミルをネルはチラチラと見ては、ため息をついている。
「ほんと、いつもこのカッコしてくれたらいいのに」
などと呟いている。今日のミルの姿は男性で公式正装なので、長い黒髪を高い位置で縛り、金の髪飾りで留めている。耳飾りは植物の形のイヤーカフス。小手と脛当てもくり抜きが多い植物のデザインになっている。アンタレス星人は武神将のときは腕が6本あるため、全ての腕が装飾具で飾られていた。
シンプルな分、金装飾品を多く使うのがアンタレス式だ。
デスクネットの資料の顔と本人をコンピュータが認識をする。オールクリアだ。
「へぇー!ミルが付く優勝者はイケメンくんだな」
ネルの横から、金の装飾で着飾った中将のシノルヴァが声をかけた。茶色い髪を短く切り、頭に金の輪冠、太陽と月を形どった大きめのピアス。ピアスと同じく太陽と月のプロテクターの装備に、金の脛当て。6本の上腕に金の輪。金の小手。長い眉毛に少し垂れた目はいささかヘタレに見えるが、気のいいやつである。
デスクネットの画面に優勝者が大きく映し出される。
「ちょっ!シノ、画面デカすぎ」
と縮小しながら言う。ミルははっと驚いた。彼は見るかぎり、先日出会った子ではない。いや、同じかもしれない。なぜなら、彼は明らかに大きくなっていた。
「えー?子どもって言ってたよね、ミル」
ネルはミルの顔を見た。
「私が出会った時は10歳で、あんな感じではなかった」
身長、表情、身体の逞しさ。成人と言える大きさになっているのだ。
「まあ、あれは、10歳には見えんわな」
シノが続く。
。。。なぜ
ミルは顎に指を当てて考えた。
。。。そこまでして、成長を急ぐのはなぜ
いろいろ考えられることはあるが、本人に聞くのが一番と、踵を返し扉に向かう。
「あ〜ん、ミル!」
ネルの残念がる声が届く。
「ごめん、桟橋に降りて確認してみる。。。。何か、変な感じだ」
その声に、ええー?じゃ、俺も行こうかな〜、などとシノが悠長に言う声が扉が閉まる直前に聞こえた
ミルは桟橋に向かって通路を急いだ。
桟橋に降りると大将のギルティガが立ち会っていた。彼は同性からも羨ましがられる逞しさで、筋肉で厚みのあるからだを装飾のあるプロテクターで覆っている。短く切り揃えられた金髪に金の髪飾りをし、耳には自分の目と同じ色の紫色のピアス、左右の上腕には金の装飾の小手をしている。隣に立つと、体格の差がはっきりと分かる。
「ギル。どんな具合だ?」
二人とも6本ある腕を組んで、様子を見守る。
「まだ、なんとも言えないが。。。嫌な感じがする」
横目でギルをチラリと見て、ミルは
「指令部御大将の感想か。それは無視ができない発言だ」
ミルは顎に指を当て考えた。確かにドロドロとした感じがある。何かが触っていく感じだ。
2人で言葉を交わしていると、先発で下船しているものの中に成人になった少年を見つける。
今日のミルは中性的でも女性でもない姿にも関わらず、彼はまっすぐにミルのところへやって来た。成長したため、男性のミルよりも少しだけ目線が下になっている。
180センチ弱というところだろうか。
「はじめまして、少年。ミルはこの姿で君と会うのははじめてだと思うが、よくわかったな」
ギルが手を差し出したのと同時に
「リュカムイです!よろしくお願いします」
と先に名乗る。ミルもギルも動きが止まる。出された手を握りながら、リュカムイはにこやかに答えた。
「どんな姿でも見つけられます」
二人とも息を吐くとギルは
「よろしく」
と返した。
「しばらくは時間があるようだし、えー。。。リュカ。ミルの船でお茶でも飲まないか」
ギルのその言葉に、
「私の船でなのか?」
と、ミルは確認する。ギルは、ミルにウィンクをしてデッキからは見えない位置で後ろを指差す。ちらりとそちらを見ると、姫が乗り出してこちらを見ているのがわかる。ミルはリュカムイの肩に手を置き、
「随分、気に入られてるんだね」
と耳元で言う。ミルの長い髪が触った頬に手をやり、リュカムイは少し顔を赤くして
「行きましょう」
と先を急いだ。
ミルの小型船は、入口から入ってすぐに広めのスペース、そこには本棚や棚があり、窓際には大きめのソファとテーブルを置いていた。このソファで星を眺めながらウトウトするのが日常である。
キッチンに入って行ったミルを見て、ギルが声をかける。
「あれ。イトーくんは。。。」
ギルの言葉に、リュカムイが大きく反応する。一緒に住んでいる男がいるのかと考えているようだ。
「戻る予定では無かったから。。。多分」
ミルの声が返ってくる。ソワソワしているリュカムイを見て、ギルは
「イトーくんはとても働き者なんだ」
と、肩に手をやりニヤニヤする。少しショックそうな顔に満足したのか、
「家事ロボットだよ。。。黒猫型型式110号で、イトーくん。。。。リュカは本当に素直だ」
悔しそうにするリュカムイを見て、口元を緩め、からかって、ごめんよ、と右手を軽くあげる。
キッチンからミルがティーセットを持って机に置く。
ミルがお茶を入れている間に、ギルはテーブルの横にあった一人掛けの椅子に座る。リュカムイにソファを勧めると一礼をして彼は座った。ミルはリュカムイとギルにハーブティとまんじゅうを出し、自分はリュカムイの隣に座った。
「さて、ここには何もいない。疲れて見えるが大丈夫か」
ギルがリュカムイの頭からつま先まで見て言う。ミルはその質問をカップを傾けながら聞いた。
「大丈夫です」
リュカムイは先程と同じように笑っていう。ギルはじっと様子を観察するとまんじゅうを口に詰め込み、お茶を一気に飲み干した。その姿をリュカムイがあ然と見る横で、ミルはゆっくりとカップを傾けた。
「じゃ、あとは任せたぞ。リュカ、時間までゆっくりしてくれ」
と言うのを聞き、ミルは、了解と言うように手をヒラヒラとさせる。それを見て、ギルは笑顔で出ていった。
リュカムイは安心したように、ソファに体を深く沈めた。
2023/04/28編集