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力があっても。あるからこそ。


ダニエルと別れ、森の奥を進むアデレードの足取りは重かった。


ようやくスライサーの骸が残るところまで戻ると、状態を確認する為シーグリッドから降りる。


骨に僅かな皮と肉が付着するのみの遺骸は、キメラ化により既に悽惨を極め、今はもう普通に元の姿を感じられる。それが悼ましい。

元を正せば立派な体躯の牡鹿魔獣だ。


(……無駄な感傷だ)


害獣となった野生動物や魔物(かれら)もまた被害者であり、大事な資源……民とは違うし狩りもするが、同時に大切に扱わなければならない者達だ。


そう教育を受け、肌でそれを感じながら育ってきた。


故にユーストも当然同じ考えである。



魔道具でリモートによりスチュアートと連絡を取っているユーストは、ヘクターからの報告も含め、ランドルフと相談し指示変更を行っていた。


「魔元素が多く詰まっていると考えられる、中央から森西部にかけての範囲に於いて、今までホルン軍曹を筆頭に配備していた中継地点、つまり森中腹を戦闘区域として陣形を組むかたちでよろしいか?」


ランドルフはただの魔獣大発生(スタンピード)というよりも、多数の凶悪害獣の発生に備え、駆除の為に軍を進行配備するつもりだ。


「概ねそれでいい。 災害予測からの行動であれば、スタンピードの方が早いだろう。 群れを発見した場合、明らかに東に向かっている場合は無視し、東部隊に任せよ。 それ以外は城壁に追い込み捕縛、全体が瘴気に侵されている場合は速やかに駆除せよ」

「御意」


川の影響からか、領東に被害はほぼ出ていないとスチュアートから報告がなされている。スタンピードの一部が防衛本能からのモノである場合、東側森内ならば問題はない。東部隊への指示は駆除ではなく防衛。


また城壁内に追い込む方法は平時でもたまに行われ、城壁開口部は鉄柵で封鎖することができる。


一部が瘴気に侵された場合、群れは大体の場合喰われて瓦解する。瘴気による変化が遅くとも、これならば低リスクで判別可能であり、被害を最小限に食い止めることができる。


次にユーストは街側の警備駆除部隊である領騎士達へ、引き続きの警戒と数箇所に罠の設置、街に猟犬を放つ指示を行っている。



最高司令官ふたりは理解しているのでわざわざ口に出してはいないが、先の指示で言うところの『群れ』は、その性質が極めて本能的な生存戦略の場合……要は小動物である。


アデレードが出会した狼達のような場合は、自ずとまた違ってくる。

瘴気に侵されていないにせよ、どのみち簡単に捕縛とはいかないため、相手に戦意があれば戦うことにならざるを得ない。





勿論アデレードは指示変更を知らないが、今複雑な気持ちでいた。


今まで我武者羅に屠ってきた害獣達は明らかに瘴気に侵されており、躊躇すれは死ぬのはこちら……特に悔いなどない。

狼達に対してもそれは同じだった。


しかし、間近で元に戻る(・・・・)ところを見てしまった今、完全に同じ気持ちとはいかない。


狼達はかなりのイレギュラーと言えたが、それでも。


先の狼達に於いて最も不思議なのは、群全体が瘴気に侵されながらもその形態を維持できていたことだ。


瘴気に侵されるのは通常弱い個体からであり、害獣へと変化する中で力を求めて手近なモノを喰らう。スライサーとなった牡鹿がそうだったように、最早そこに自我などない。


知性が残るのは極稀であり、強い個体なればこそ。しかしその場合、群は維持していても害獣として変化は遂げていない。

そうでなければ瘴気に侵された個体により仲間が喰われるか、少なくとも群は瓦解している筈だ。


だが明らかに瘴気に侵されている様子だったにも関わらず、群を維持していた。


浄化が起きた際、倒れたのはリーダーだけではないことから、全ての狼が瘴気に侵されていたのが窺える。

だが通常発生するモノとは違えど瘴気溜まりの範囲と濃度を考えると、小動物ならまだしも狼達の群で全個体が瘴気に侵される可能性は低いように思えた。


(そういえばヤツらは魔力譲渡ができるんだっけ……もしかして、全体に瘴気を回して薄めたのか?)


狼達はおそらく、共喰いを拒んだのだ。


知力にも驚かされるがなにより驚かされるのは、強い仲間意識。

敵だったとはいえ、それだけで片付けられない感情は強く残る。


(……なにを余計なことを考えているんだ……今まで通りなるべく初手ですぐ斬り捨てるべき(・・)だ)


『自分に浄化の力があれば』


アデレードはそんな風に思ってしまい、唇を噛んだ。


まだダニエルに会えていないなら兎も角、無事を確認したことも余計な躊躇いが入り込む隙を作った原因のひとつだろう。


「ピュイッ!」

「──はっ?!」


シーグリッドの発する警戒音に我に返った時には、既にアデレードは足を取られていた。


「くっ……!」


(スライサーの血と体液からか!)


それはトレント。

滅多に出現することのない植物型――つまり、木が魔獣へと変化したもの。


ただでさえ瘴気の濃い森の中、シーグリッドの警戒音が遅れたのも当然のことだった。

アデレードは剣を抜く間もなく(つる)のような枝に腕も取られてしまい、宙吊りになっていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 触手展開キターーー!!!!(大歓喜)
[一言]  これは、クライマックスらしくなってきたなぁ。
[一言] アデレードちゃんが……! たしかに隙が生まれたからには違いありませんが…… そうやって迷うところが好き!
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