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力が足りなくても。足りないからこそ。①


聖獣・フェンリル──その伝承は多少盛られているだろうが、果たしてどこまで合っているのだろうか。

それが気になったダニエルは、潜りながらリルに尋ねてみた。


「リルは瘴気を食べているの?」

《ん? 食べないよ!》


盛る盛らない以前に、既にそこから違っていた。

伝承に確実性を求めてはならんらしい。


(もっと詳しく話を聞くべきだった……でもそんなことしたら、時間がなかったかも)


最初だってそれなりにリルとの問答に時間は掛けているし、質問をいくら平たくしても、こちらの意図を正確に汲み取って答えてくれないことすらあった。

この『瘴気を食べない』も、実は正確ではない。リルの力となっているのはこの地の力なので、瘴気も含まれる。


だがいくらいい加減な答えだからといって、ダニエルは伝承の一番重要な部分──『北の森の守護者ガーディアン・オブ・ノースフォレスト』については全く疑ってはいない。

だからこそ、実際どうやってなにをしているのかを知る必要があるのだ。


(きっとランドルフ大佐は現在の状況と推察をヘクターに渡してくる。 その前に見ておかなきゃ)


「──リル。 今回、半分の力で僕の魔力を抜くことはできるかな?」

《ハンブン?》

「うん、君がどこでなにをしてるのか見たいから、起きてられるようにしてほしい。 この次からはもっと一緒に頑張らせて」


ダニエルはリルに対しても深く反省していた。


伝承の聖獣リルとの乖離は他にもあるが、一部はもしかしたらリルが未成熟──つまり成体ではない(・・・・・・)からのような気がして。


書物に描かれていたフェンリルは、もっと大きく、高い知性を持つがその分尊大な感じだった。

今のリルの情緒の幼さや語彙のなさ、契約者を間違えたこと、今も尚危機が続いているようであることも、まだ幼体(コドモ)だったからと考えるとしっくりくる。


《いっしょにがんばるの?》

「うん。 ごめんね、今まで任せっきりで」


それは心からの謝罪だった。

リルが幼体で自分が間違いから選ばれたにせよ、リルはダニエルに『よばれた』と言ったのだ。

そして先程のアデレードは、ダニエルがようやく見ることのできるようになった精霊を、この短時間で既にハッキリと見えるようになっていた。


危機を救う主人公にでもなったような気でいたけれど、今はもしかしたら自分がその機会を潰したのかもしれないとすら感じる。

アデレードかユーストが『主』に選ばれていたなら、もう既に事態は収束していたのかもしれない。


──だが、今更だ。


(僕の魔力でしかどうにもできないなら、それでどうにかするしかない……!)


どうにもならないことを悔やむのは、少なくとも今じゃない。

今できるのは、どうにかする為の方法を探ること。


リルはダニエルの気持ちなどあまりよくわからないが、『一緒に頑張る』が嬉しかったらしい。

《いいよ!》と快活に告げ、湖の底へ深く深く潜っていく。





魔力を抜かれる際、持っていかれそうになる感覚に抗いながら、なんとかリルの行動を見て必死にダニエルが頭を働かせていた頃。

上ではヘクターが城壁から戻っていた。


「やはりあの時仕留め損ねたのは、鳥型害獣だったようです。 群れをなして、街へ。 今竜騎士達と騎士団弓隊で駆除を。 その他森側中継部隊以降にいくつか駆除報告が。 今のところ手こずるような相手の出現報告はありませんが、時間の問題かと」

「街の害獣駆除が片付き次第、速やかに竜騎士達の一部をこちらと前線に回すよう──」

《ダメだよ》

「えっ?」


指示を遮る精霊の声に、アデレードは振り返った。


《そうそう》

《ダメっていうか、ムリ~》

《ココには来れないもん》

「……!!」


深い森の中でそれなりに開けた場所だが、スチュアートに渡された地図も、アタリをつけたおおまかな場所を丸で囲ってあっただけ。

彼の『上空から水源が確認されているこの辺り(・・・・)』という言葉と、この開けた地には矛盾がある。


(そうか、ココは聖域……)


「アデレード様?」


ヒラヒラと舞うように輝く精霊達に視線を向けていたアデレードは、訝しげに声を掛けるヘクターに視線を移す。


言わずもがな彼はカルヴァート傍系の青年だが、目と髪の色はアデレードと同じ。顔立ちにも血は色濃く出ていると言っていいだろう。

それに、ひたすら聖獣に畏怖を感じていたこの地の重鎮達とは違い、リルとすぐに仲良くなっている。


(精霊に気に入られた者や、資質……そして血が関わってくるのか)


《俺コイツきらーい》

《えー? アタシは好きー♡》


まあ精霊達には、髪を引っ張られたり頭に乗られたりしているし、評判も微妙ではあるが。(※そして見えてない)

資質は備わってそうである。


ヘクターの頭部周辺でふざけている精霊達に吹きそうになったのを堪え、誤魔化すように咳払いした。


「──ああ、スマン。……他の者達がココに辿り着けるかはわからんらしい。 だがクリフォードならイケるかもしれん、試しに連れてきてみてくれ」


クリフォードも傍系ではあるが、見た目的には血の濃さを感じない。

ただ、なんとなく精霊に好かれそうな気がするし、戦闘能力を考えると彼がいるのは心強い。


「こちらに入れないようなら、クリフォードは前線と合流させろ。 挟撃(きょうげき)は私とのタイミングになるので期待はするな。 一応前線部隊後衛には信号弾を」

「御意」

「森奥もかなり危険な状態だ。瘴気に耐えられる者を中心に前線を厚くし、編成はホルン軍曹に」


できるのはその程度の指示なのが歯痒いが、全体の指揮はランドルフが執っている。


「私もダニーが戻り、報告を受け次第出撃()る。 他になにかあるか?」

「コレをダニエル様に──これまでの報告書とケイジ卿の研究論文です」


リルに拐われて不在だったダニエルは、スチュアートの推測どころか彼が戻って来たことすら知らない。

その為ランドルフは気を利かせて、彼の研究論文に加え、ダニエルの潜在魔力についての推移と考察レポート、それに状況がわかるように、つい先程までの報告書をヘクターに持たせてくれていた。



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― 新着の感想 ―
[一言]  とりあえず目の前のできることから。ね。
[一言] ダニエルの半分は優しさで出来ている( ˘ω˘ )
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