表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/87

与えられただけではない、自分の役どころ。

※読み飛ばしても特に問題ない王族姉弟回です。




「ふう……」

「お流石です、殿下」


森の浅い付近まで瘴気溜まりの発生は広がっていたが、ローズとオスカー両殿下の活躍により、その進行は食い止められていた。


「ですが、少しお休みになってください」

「お言葉に甘えさせて頂くわ。 また私でも消せるレベルのモノがあったら声を掛けて」

「ありがとうございます」


ローズと遣り取りをしているのはフローレンス・モルゾフ中尉。ランドルフに憧れて出奔してきたという、アデレードに負けず劣らずジャジャ馬の元御令嬢……現在は嬢とは言えないご年齢の美魔女である。

『中尉と書いて姐御と読む』と言われるモルゾフ中尉の案内で、ローズは休息用の天幕に入った。


「姉上」

「オスカー」


そこにいたのは、同じように浄化をしている王太子。

悪くもないが良くもない仲の姉弟だが、それなりにざっくばらんに話す程度には親しい。


「姉上があんなこと言い出すなんて思いませんでした……本来アレは、私が言うべきことでした」

「はァ? 何言ってんのよ。 むしろアナタは帰るべきだったんじゃないの?」


オスカー殿下は王太子でまだ14。

国は平和で辺境伯(ユースト)と国王陛下の仲が良いとは言え、有事ならば留まるべきではない。

ローズの言う通り、姉を残し警備を厚くして帰るのが正しい判断だろう。


「そこはわかってますよ。 詳しく言うと『王家からは浄化人員としてシエルローズを残し、私は戻り陛下に報告する』と言うべきでした」

「うっわ、酷い……!」

「それが最適解かと」


オスカーがそれをしなかったのは、姉を舐めて下に見ていたからである。

だから本当はふたりで戻る(・・・・・・)つもりだった。


だが姉の決断に驚き、出遅れたのだ。


「貴女から言われてしまったのでは、私が『帰る』とも言えないでしょう」


不貞腐れたようにそう言ってはいるが、それは本心ではない。

確かに面目は大事だが、誰もまだ自分にそんなものや最適解など求めちゃいないのも、オスカーは知っていた。

だから己の為に、ここにいる。


「……そもそも姉上はここへも来れない筈だったのです。 ただ、ブランドルに請われて」

「ダットンに?」


ダットン・ブランドルはローズの新たな婚約者となった騎士。

繊細な顔立ちの割にズケズケ物を言う彼だが、決して脳筋ではない。

『察知』と拗らせた潔癖さから、相手の思う自分を演じてしまいがちなローズが心を開いたのは、彼がローズに表裏を使い分けなかったからだ。


「ええ、『ローズ殿下はなにも考えてません。 ただブラック卿の幸せを見届けたいだけです』と」

「前の一文が余計だわ!」

「正しいでしょう──姉上は王族に向いていない。 環境のせいもあるでしょうが、今更です」


ローズは言葉の裏が読めても、適切な対応はできない。それが主立った理由ではないにせよ、適切な教育を施すにも『察知』は繊細過ぎて耐えられなかっただろうことを鑑みると、教育から外すのは強ち間違った判断とは言えなかった。


(でも、それを姉上自身が弁えているとしたら)


ダニエルを重用してるとすら思っていたオスカーがなにより衝撃だったのは、辺境の皆のダニエルへの信頼。


ローズに政治的役割などなく、相応の知識もないし、なにより上手く立ち回れない──確かにダニエルは彼女には過ぎた男だ。

だが、ここまでとは思っていなかった。


オスカーはずっと、姉をただの愚か者だと思っていたけれど、ダニエルの真価をわかっていたならそうじゃないかもしれない。


やり方は褒められたモノじゃないが、姉のダニエルへの評価や行動のなにもかもが、結果としては正しかったことになる。


その中にどんなにくだらない打算や保身があったとしても、それはオスカーにとってささいな問題だ。

これからの自分にとって一番必要なのは、『人を見る目』なのだから。


姉にもダニエルにも、その点に彼なりの反省があった。


「お陰様でもうすぐ『正しい王族』でもなくなるわ。 でしょ?」


婚約者は決まったが、夫となる男に土地と爵位を与え臣籍降下するにも、相手は伯爵家の次男坊で騎士。

立場としてはダニエルと似たようなモノだが、突然であるが故にローズの処遇はまだ決まっていない。


ただ当の本人達は地位や権力へのこだわりのなさから、楽観的である。

これでもう表舞台には出なくてすむだろう……そんな風に思っているくらいなものだ。


姉の言葉にオスカーは年齢にそぐわないシニカルな顔で笑う。


「だから残ることに?」

「散々やらかしたもの。 最後くらいはそれらしいことをしとこうと思っただけ。 ふふ、確かに『なにも考えてない』かもね」


そう笑うローズの言葉は相変わらず卑屈とも取れるが、その表情は清々しい。


ローズにとってダニエルは尊敬できる人だったけれど『虫も殺せないような男』と思っていたのも事実。

そしてそれが間違いだったとは欠片も思っていない。


(変わったのだわ、ダニーは)


だから、きっとそうなのだ。



ダニエルが変わったのなら自分も変われる筈──



「ローズ殿下、よろしいでしょうか」

「すぐ行くわ! じゃあね、オスカー」


モルゾフ中尉に呼ばれ、嬉々として席を立つシエルローズ。

表情もそうだが、こんなに生き生きしている姉を見るのは初めてだった。


(役割が人を作るのか……いや、考えるのは後だ)


「私も行きます!」


残ったからには、王族としてできる今の最適解がそれ。やや腹黒い王太子少年も、年相応のあどけない表情で姉の後に続いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ラインではああ言ったけど、この回入れたの、すながさんらしいなって思いました! よきよき! ローズちゃんの新しい婚約者さんもいい人ですね。ちゃんとローズちゃんのアホなところをわかっていつつ 『…
[良い点] ここまで一気に読みました。 最後に向かっているのだなぁと思うと、ローズの回さえ愛おしく感じてくる。 私も少しローズは苦手なタイプですね。 劣等感を理由に責務を放棄して自分の気持ちが大事な人…
[一言] こういう他者視点が入ると、エンディングが始まったって感じがする( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ