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再会は衝撃と共に。


ヘクターの案内で、ようやくアデレードは目的地としていたところに辿り着いた。


それは聞いていた通り、いや聞いていた以上に澄んだ空気で。

今もすぐそこに見える森が濃い瘴気に覆われていることが、まるで悪い冗談のような気さえしてくる程。


「凄い……」


みるみるうちに身体が回復していくのを感じ、アデレードは思わずそう漏らした。



清涼な空気によって回復するのではなく、回復はあくまでも自分の身体の力による。


瘴気は病に近いと言っていい。

狼達がそうであったように外部瘴気を生命力の一部とする魔獣であれ、体内で御しきれない程の瘴気を浴びた場合、不具合をきたす。


憶測に過ぎないが、スライサーとは違い狼達がまだ完全に取り込まれてはいなかったのは、複数体へと分散された為ひとつひとつの威力は弱かったからではないかと思われる。

今回の光による浄化らしき事柄を病風に言うならば、『瘴気』という病理の『切離が早かった』ことが功を奏したかたちであり、進行が早く癒着が酷かった場合どうにもならなかっただろう。


瘴気を持たない人間が外部瘴気に取り込まれることはないが、纏わりつき回復力を著しく下げる為、当然外傷の治りも悪くなる。


アデレードの場合、回復力や抗体にあたる潜在魔力量が元々多い。

この空気はそれを補填、促進しているのだ。



竜達に目を向けると、荒ぶっていたのが嘘のように穏やかな顔になっている。


「神気は魔物を避けると考えられていたが……少し違うのかもしれない」

「そうですね……まあ神気の定義も曖昧で不明な部分も多いですから、そもそもこの空気がそれとはやや異なるのかもしれませんが」


ヘクターは「私にはなんとも」と苦笑する。


『共感』と呼んでいたダニエルの潜在魔力に対するランドルフの憶測は、それなりに正しいのだろう。

だが獣達が安らいでいたのは『共感』とはまた違う能力なのかもしれない……そんなことをフト思う。


ヘクター同様にアデレードも苦笑し、考えを止めた。


「さて……」


気を取り直し「少し探索をしてからダニエルと聖獣を探そう」……そうアデレードが言い掛けた時だった。


──ザバッ!


「「!」」


激しい水音に振り返ると、そこにはダニエルを背負った聖獣(リル)が湖の中心に現れていた。


実のところ、潜水の時間自体はそう長くないのである。ダニエルから抜いた魔力をリルが一気に放出してしまうので、長いのはほぼほぼ回復の時間の方。

こうしてアデレード達と早くに出会(でくわ)すのもそう不思議なことではない。





「ダニー!?」


しかし、そもそも『魔元素の浄化分離』が水の中に潜って行なわれていることなど知らないアデレード達は突然の事態に焦った。

なんせ、水の中から出てきたのだ……想定外も想定外。


「ダニー!!」


急いで再び竜に跨って小島まで渡り、リルを押し退ける。


《うわっ! イキナリなにするの!?》

「ダニーィィィッ!!」


駆け寄り揺さぶるも……意識がない!(※アデレード視点)


「大変だ! 意識がない!!」

「溺れたに違いありません! 私が心臓マッサージを、アデレード様は人工呼吸を!」

「じっ人工呼吸だと?!」


いやその前にまず『呼吸と心音の確認』だろ、などというツッコミを入れられる者は皆無。

本来ヘクターの役割な筈だが、彼もまだ『ナイフを主に投げちゃったショック』から立ち直ってはいなかったのだ。


「そそそそれはつまり口と口を」

「私は嫌です! その点もう、一応おふたりは婚姻した身……いきますよ!」


ダニエルが一切濡れてないことにも気付かず、ヘクターは心臓マッサージをするべく彼の胸に手を当て──力を込めて押す。


「──フグゥッ?!」


疲労困憊のダニエルの身に、走る衝撃。

なにが起こったのかサッパリわからないまま、その圧に目を覚ました。


「あっ?!」

「ダニー!!!!」

「うう……っ、なに……?」


しかし回復していないので、胸を抑えて縮こまるのがやっと。


「ダニーィィィィィィッ!!」

「ファッ?!」


だがそんなのは関係なく、感極まったアデレードは(うずくま)っているダニエルに抱き着いた。


勢いで転げるふたりの横で、安堵から目を潤ませるヘクター、排除すべきなのかわからずウロウロするリル。(くつろ)ぎ出した竜達。そして笑うようにさざめく木々と光。


絶賛寝起きであるダニエルは、まだ自分の身になにが起こっているのかわからないまま。

わかるのはなにかが被さっていること。

土と埃と血の匂いの中に、馬車で膝枕をして貰った時と同じアデレードの匂いを感じて、ようやく少しだけ状況を理解した。


「あっアデルさま……ッ?!」

「ダニー……」


ようやく身を起こしたアデレードの後ろで纏めただけの長い髪が、サラリと頬を掠める。ぱたぱたっと落ちる、雫。


「良かった……無事で」

「──」


ダニエルは衝撃のあまり、言葉を失った。

それは先程の不意討ち的なヘクターの心臓マッサージなど、比ではない。


何故ならその顔は──


「キース君……?!?!」

「あっ」


──そう、ようやくここにきて『アデレード=キース』ということに気付いたのである。





そしてアデレードの方も、今更ながらスッピンだったことに気が付いた。


「いいいいやだなァ~、そうともボクはキースだとも!」


動揺したまま強引に誤魔化しにかかるも、流石に誤魔化される訳もない。

しかも暫く『キース』をやってなかったせいで『キース』時の一人称も間違える始末。(※キースと通常時のアデレードは『私』、ウッカリ辺境の姫君キャラ時のアデレードは『(わらわ)』)


「キース君はアデル様……」

「違っ……ヘクター! ヘクター!!」


ヘクターに助けを求めるが、ヘクターは生温かい瞳を湛えた無表情のまま『もういいだろ』とばかりに首を振った。


「キース君はアデル様……」


その間もダニエルは魅入られたようにアデレードを見詰め続け、うわ言のように繰り返す。


ダニエルにしてみれば、それはあまりにも信じられないことだった。


信じられないのは『アデレード=キース』だったことにではなく、今まで気付かなかったことに、である。


(見れば見る程ソックリだ……声も同じ)


それもその筈、同一人物。

未だ回復途中なこともあり、頭が上手く回っていない。


「キース君はアデルさ……」

「『キース』だっつってんだろぉっ?!」


あまりにもしつこい呟きに動揺がピークに達したアデレードは思わずそう叫び、身体を起こしつつあったダニエルに勢いで肩パンする。


「へぶっ?!」


元々弱く回復中の無防備なダニエルは、元々強く脅威の回復力のアデレードの肩パンをまともに喰らい、思い切り倒れた。


「うわああぁぁダニー!?」

「なにやってるんですかアデレード様!」

《ダニー!!》

《ダメダメ、邪魔しちゃ》

《ニンゲンおもしろー》

「──!」

「──」

《──》


《──》



急に賑やかになった周囲の声は、徐々に遠くなっていく。

ダニエルの意識は再び暗転した。


そして次に目が覚めた時に『二度目のアデレードの膝枕』という更なる衝撃を味わうことになるのを、ダニエルはまだ知らない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ヘクター 人工呼吸をすっごく嫌がるのは家臣として如何なもんかな? [一言] 「ニンゲンおもしろー」 アデルを基準にしないで。
[一言] ???「人間って……面白!!」
[一言] ついにきた……! いやあ良かったですねー。アデレードちゃんの照れっぷりが可愛いなぁ。にまにま。
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