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『まさか……僕にこんな力が?!』などという実感は皆無。


ランドルフが握手の際に潜在魔力量を測ったことを暴露すると、ダニエルは困惑した。

魔力量を測られたことに対してではなく、その『量が多い』という評価にである。


「実は、以前測られたことがあるのです」

「え」

「ふむ……?」

「その時にはそんなことは言われませんでした」


ダニエルは伯爵家にいた幼少期、神殿で行われる洗礼及び魔力測定時に、既に潜在魔力の測定も行っていたのだ。

これはたまたま神殿に潜在魔力を測定できる者がいたことで、父であるブラック伯爵が第三子であるダニエルの将来を考えてついでにお願いしたことによる。

潜在魔力量の測定はあくまでも計算による概算値に過ぎないが、大幅な差異が出るとも考えにくい。


「……増えたと考えて良いでしょう」

「増えるモノなんですか?」

「研鑽し、能力が上がると共に使える顕在魔力は増えます。 潜在魔力は量の多い者が少な過ぎて研究が進んでおりませぬが、増えると考えるのが妥当かと」


ヨルブラントにランドルフが勧め、行わせたトレーニングも似たようなモノ。

ただし、こちらは顕在魔力。

ランドルフは、土属性で魔力操作の上手いヨルブラントに、顕在魔力を身体強化に使う事で一時的な体力値を上げ、その間に筋力と体力をつけさせたのだ。

ヨルブラントの顕在魔力は多くはなかったが、集中し難しい操作をすることで顕在魔力も増えて一石二鳥。


──まあその分、魔力切れによって倒れたことも一度や二度ではないのだが。

ついでに筋力トレーニングで倒れたことも一度や二度ではない。


好々爺ぶったところで、ランドルフは現役バリバリの軍人なのである。

辺境伯家の息子にも容赦はなかった。


「事実儂も、戦の後に己の成長を感じたことは度々あります。 あれはおそらく意識的に潜在魔力を使用したことによるのだろうと」

「常に循環している潜在魔力を意識的に使用することはできないのでは?」


ネイサンの疑問にゆっくりと頷いたあと、ランドルフは続ける。


「だが魔力に関わらず──例えば集中して聞き取りを行おうとした場合、耳を澄ますでしょう? 聴力増強の効果をもたらす潜在魔力の場合、結果としてだが耳という器官に集中することで、潜在魔力も意識的に使用したことになるのではないかと。 そういう意味では意識的……ふむ、区別をつけるため『無意識的過剰使用』とでも」

「あの……」


おずおずとダニエルは尋ねる。


「僕の潜在魔力とは……どんな効果があるのでしょうか? 自分では実感がないのですが」


そう、そこが問題だ。

ランドルフもネイサンもそこがわかりかねているのだから。


「──だが、いくつかヒントは得た」


ダニエルの潜在魔力量が後天的なモノであるなら過剰に使う機会があった筈だ。


「増強のきっかけは、王宮に召されたこと……でしょうか?」


彼の潜在魔力が『魅了に近いもの』ではないかという推測を語ったが、ダニエル自身はあまりピンとこない様子である。


「王宮に召されたことが増強に繋がったかは兎も角、『魅了云々』……は違う気がします。 僕の存在自体を不快に思う相手はいくらでもおりました。 ネイサンは知っているだろう? 変な物を盛られることも日常的にあったくらいだ」

「……──それです、若旦那様!」

「えっ?」


ダニエルが学生時代に研究した、毒素を分離し固形化すること。

それを思い出し、ネイサンは僅かに興奮した様子で続ける。


「意識を舌に集中した、少量の魔力での異物の分離……あれが潜在魔力の増強に繋がったのでは?」

「ええ?!」


そのエピソードを知らないランドルフに詳しく話すと、ダニエルの発想に感心しながら顎髭を撫で付けた。


「ふむ……ヨルブラント殿の潜在魔力を今一度測り直してみましょう。 自己の顕在魔力の体内使用が潜在魔力との結び付けであり、その放出に繋がったことで量が引き上げられたのならば、あの方の潜在魔力量も増えている筈だ」

「そうしましょう!」

「……」


ふたりは楽しそうだが、ダニエルはやや困惑気味。

それもその筈、話の内容は興味深いが、彼の目的は『強くなること』にある。


(まいった……話が逸れている)


結局自分の潜在魔力がどう役に立つのかわからない。鍛錬方法も一向に見えないままだ。


「ええと……大佐? 潜在魔力には驚きですが、とりあえず今できることを御指南頂けると……」

「おお、これは失敬! 手っ取り早い方法はいくつかございますが、いずれも厳しいですぞ。 如何されますかな……ああ、決意の問題ではなく、ご予定との兼ね合いも考慮してお答えくださらんと」

「僕の行動は特に制限されておりませんが……日中は今まで同様に励むべきだと考えております。 アデル様との交流も大事なので、夕餉の後や早朝など、一人で問題ない時間はできるだけ充てたいと思います」

「ほほう……? それはそれは……ではまず、そうですなぁ」


ランドルフの目がギラリと光る。

それは容赦ない鬼教官でもある辺境伯軍大佐のそれで、ダニエルはおもわず背筋を伸ばした。


「ダニエル殿の居住を移すことに致しましょうか」


それはあまりに大したことのなさそうな提案。


しかしランドルフは『手っ取り早い方法はあるが、いずれも厳しい』と、既に口にしている。──当然ながら、これも間違いなくそれである。


これはランドルフが鬼教官だからこそ発せられた、鬼のような提案だとダニエルは身体で理解することになる。


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― 新着の感想 ―
[良い点] うわぁ、シゴかれる予感。 頑張れダニー。
[一言] >鬼教官だからこそ発せられた、鬼のような提案  そんなに鬼鬼言わんでも(^^)
[一言] 怖い。スパルタ怖い。
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