「第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」参加作品シリーズ
仕事の後は缶コーヒーだよね
小高い丘の上から街を見下ろす少女。
その髪は冬空のような灰色で、吐く息は白く、チェックのマフラーが冷たい風に揺れている。
オレンジ色に染まる景色は夕日のせいだけではなく、ゴウゴウと燃え盛る街そのものでもあって。それなりに距離があるこの場所にも熱風が吹き付けてくる。
「……一歩遅かったかな」
ぽつりとつぶやく少女に中性的な声が応える。
『そうでもない。まだ生体反応は多数残っている。急ぐぞ夕那』
「うん……」
マフラーが翼のように広がり、滑空しながら猛スピードで丘を下る夕那。
『敵性反応……どうする?』
「接近してくるようなら迎撃、そうでないなら人命救助が優先」
『了解、飛行モード継続、目的地まで5秒、敵性反応多数、到着と同時に戦闘モードへ切り替える、油断するなよ』
「わかってるよエリマッキー」
『夕那……その呼び名……なんとかならないのか?』
「なんで?」
『いや、何でもない、来るぞ』
「視界共有オン、射程最大化、行くよエリマッキー」
突如飛来した夕那に大いに動揺する敵国の特殊部隊。
瞬時に体制を立て直して向かってくるところはさすがといったところだが、懐に飛び込まれたことで距離が近すぎること、武器も持たない普通の少女であることにさすがの精鋭にもわずかな隙が生まれる。
「シッ!!」
夕那のマフラーは最新鋭AI搭載のマフラー型人工生命体識別名『MF109』、伸縮自在の刃のごとく敵兵を瞬時に、そして複数同時に切り裂いてゆく。
『クソ、化け物がっ!!!』
建物の陰から敵兵が引き金を引く。
ガガガガッ!!
360度に展開されたマフラーによって夕那に死角は存在しない。
「……無差別に殺戮し破壊する……いったい化物はどっちだろうね」
膜のように広がったマフラーが弾丸をふわりと受け止め無効化し、包み込まれた弾丸は、そのエネルギーそのままに放たれた方向へ反射される。
『ガッ!?』
自ら放った弾丸によって倒れる兵士。
『お疲れ夕那、半径5キロ以内に敵性反応はない。要救助者をリスク順にリストアップ完了、急ごう』
「うん」
「ふう……仕事の後の缶コーヒーは沁み渡るね」
腰に手を当てぐびぐび喉を鳴らす夕那。
『缶コーヒーじゃなくてエネルギー缶だけどな』
「こういうのは気分が大事なの」
『お、おい、私で口を拭くな!』
「ほら早く次の現場行くよ」
『話を聞けえ!』
夕那は、女子高生型戦闘アンドロイド識別番号『YU-NA1107』
防衛省が誇る最強の秘密兵器である。