新盆
僕がまだ、幼かった頃の話をしよう。
その頃はまだ親戚達との付き合いも良く、毎年盆や、正月に祖父の実家に、子供──僕達も連れられ集まっていた。
実家周辺は、皆親戚のような、小さな集落だ。皆が皆、どこかの家と関係がある。なので、特に盆などは二階に子供達も集められ、幼かった僕も、従兄弟達と共に一緒の部屋で寝かされていた。
迎え火を焚く煙が四方から上る黄昏時、僕はただ天へと昇っていく煙を見ていた。死者は胡瓜の馬で早く訪れ、茄子の牛で後ろ髪を引かれるようにゆっくりと帰って行く。
その晩は、盛大に死者と共に酒を呑むように、夜遅くまで宴会が開かれる。僕達も、特別に夜遅くまで起きている事が許され、大人達の宴会から省かれた従兄弟達と共に、トランプのゲームに勤しんだものだ。
やがて、夜が更けると幼い順に段々と眠りに堕ちて行く。僕も、余り年上ではなかったので、七並べが終わった辺りに眠気に勝てず、眠ってしまった。
外からのノック音で目が覚めたのは、既に年上の従兄弟達も眠りに就いている頃だった。
「誰だろう?」
一階で呑んでいる大人達も、どうやら眠ったようで、誰もノックに答える気配はない。どうせ、呑み仲間を探す近所の家の者だろう。そう思い、布団を被った。
しかし、誰も出る事はない。
僕は恐る恐る、玄関のある一階へと下りていった。
玄関は、階段のすぐ下にある。しん、とした風の中で、僕は耳を澄ませると、どうやらノックは玄関からではなく、階段下の物置から聞こえてくるようだった。
ますます気味が悪い。しかし、勝ったのは好奇心だった。僕は、ノック音の響く物置の戸を引いた。
やはり、中には誰もいない。当たり前だ。誰が好き好んでこんな場所に潜むものか。しかし、
ノック音が止まることはなかった。
そればかりか、急に、激しいドンドンと言う音が顔のすぐ横で聞こえた。僕は流石に怖くなって、戸を閉めて、急いで階段を駆け上がり、従兄弟達の眠る部屋の隅で、布団を被った。
何だ何だ。今の音は。心臓の音は高まり、止まる事はない。
と、その時だった。
「おーい」
そんな声が、聞こえてきたのだ。僕は無視し続ける。しかし、その呼び声は段々と大きくなって行く。それは、二月に亡くなり、今年に新盆を迎える叔父の声に良く似ていた。
叔父は優しかった人で、怖くなどない。大丈夫だろう。幼い僕は、それに吊られるように、再び階段を下りていった。
すると、さっきまでなかった筈のラジオが、廊下に置いてあった。間違いない、叔父が使っていたラジオだ。その声は、そのスピーカー部分から聞こえてきていた。
「おーい」
声は聞こえてくる。段々と近付いて来るようにもみえる。廊下には僕一人だ。僕は怖かったが、勇気を出して、
「はーい」
そう、答えていた。
すると、その声は距離が縮まったように大きくなり、
「元気にしていたかー?」
「おばさんは元気かー?」
「お前も元気かー?」
などと、尋ねてきた。そうして最後に、
「そっちに行っても良いかー?」
そう言った。
怖い、怖い、怖い。再び恐怖が思考を支配する。僕は恐る恐る、言った。
「どうやって、来るの?」
すると、声が止んだ。僕は胸を撫で下ろす。
その時だった。背後から、叔父の声がした。
「こうやって、来るんだよ」
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