第3話 〜悪者との邂逅〜
◇◇◇◇◇
「貴方ねぇ! 3年間も教室を開いてるんだから生徒の1人ぐらい入れなさいよ!」
木の椅子に座り、朝食を頬張っている俺に手振りを大きくして怒ってくる、アイ。炎の国特有の褐色の肌が特徴的で可愛らしいとはいえない、美しく凛々しい顔立ちは今も昔も女性から人気が高い。もちろん、男性冒険者からも高い人気だ。耳掛けショートヘアの太陽のように燃える赤い髪。
稲妻のような目の色なのに優しい目をしているところが、アイの性格に出ている。俺を怒る時は怖いけど。白のニットに黒のサロペット、白色の上着を肩にかけて、煌びやかなイヤリング。身長は女性にしては恐ろしいぐらい高くて173センチ、俺と14センチ……差。
彼女は俺の冒険者時代の元仲間、今はカーチャルを設立し、冒険者50人程度を纏めている団長だ。カーチャルとは神器を使って商売や、冒険者をするのを生業とする人達が集まり出来た集団。お店を開いているカーチャルもあり、多種多様なカーチャルが迷宮都市にはある。
冒険者同様、カーチャルはランク別に区別されており、アイのカーチャル……名前は【炎の姫】。ランクはAランク。S、AAA、AA、A〜FランクまであるがAランクは相当高い部類に入る。
近々、AAランクになると張り切っている。
「アイに怒られたって入れないぞ。俺は1人ライフを満喫するんだ!」
「ばっかじゃないの!? 1人の子供を外で1時間以上も待たせるなんて1人ライフをする資格もないわよ!」
「それは……」
正論を言われ、確かに俺も大人気なかったとも思うが。
「試験ぐらい受けさせたらどうなの?」
アイは眉を弛めて言ってくる。玄関にバツが悪そうな顔をしている、少女をちらりと見て俺は何度目か分からない嘆息を吐く。
「お前、歳は?」
「14歳です」
「生まれは?」
「産まれた時に親に捨てられました。出身は一神教で教会育ちです」
「教会育ちの……神器は?」
「…………」
「お前……教会から逃げてきたのか?」
「逃げではっないです。置き手紙もしたし」
「それを逃げたっていうんだよ! 一番安定した職業を放り投げてきたのか!?」
少女は瞼を落とし、俺の叱咤に顔を俯く。
「今すぐ国に帰れ。金も渡してやる。こんな弱小教室にいるより【回復者】になった方が——」
「この世に”神”なんていないもん」
————心臓が大きく鼓動する。
聞いたことがあるフレーズ、忘れられないフレーズ。この世に神なんていない。あまつさえ一神教の国、しかも教会育ちの孤児とは思えない発言。なにか——俺はこいつの言葉に動かされてしまう。
「——分かった。試験だけは受けさせてやる」
アイの驚いた瞳と少女の驚いた顔。あんなに頑なだった俺が試験を受けさせると言ったがそんなに驚くことかよ。
「お前、名前は?」
「シャーロット!」
俺は口端を上げて、裏口へと歩き出す。
「来い、シャーロット。お前の実力を試してやる」
◇◇◇◇◇
「地面から1歩も動かない俺に、攻撃を与えたらお前の勝ちだ」
「はぁ!? そんなのダンジョンに潜ってないシャーロットちゃんが出来るわけないでしょ!? 意地悪バアル! 馬鹿バアルぅー!」
「うるせぇな。俺の教室なんだから勝手にさせろよ」
俺は程々に広い空き地のような、家の裏の訓練場の中央へ立つ。土の上に短い草が疎らに生えているここは、周りは隣人の家の壁に囲まれ、外からは誰からも見られないようなっている。
「1歩も動かないんだったら、私の攻撃当たると思うよー?」
冒険者を実力を見た事がない人の大抵はシャーロットみたいに言う。
「舐めるな。現役を退いたとしてもまだやれる」
俺はシャーロットを挑発するように手招きをする。アイが「シャーロットちゃん頑張って!」と無邪気に応援するが、どうせアイも分かっている。
———俺が勝つことを。
「行きますよ」
シャーロットが踏み出す1歩目、更に2歩目、後6歩でシャーロットは俺にたどり着き、拳をお見舞いする。その時に一度呼吸して、気がついたらシャーロットの目線は地面スレスレになる。
思った通りになったな。
「お前には才能がない」
「っ……馬鹿バアル」
シャーロットを見下ろし、侮蔑する。アイから鋭い眼差しが放たれてくるが無視だ無視。
「体の動きを熟知出来ていない。早く走る術、弱々しい握り拳。俺は才能がない奴を育てる気はない」
シャーロットは緩慢に起き上がり、怒りからかフルフルと身体を震わせる。そうでもしないとこいつは帰らない。例え、俺の見えるはずがない攻撃を”視認”出来ていても。危うくシャーロットの言葉に動かされたが、教会に帰れば、神を信じてなくても、回復者になる確率だってある。シャーロットの将来をここで終わらすわけにはいかない。
「お前を俺の所で腐らせる訳にはいかない。お前はヒーラーの素質がある。人をよく見て、人を気遣える。ちゃんとしたヒーラーになれる可能性がある。だから国にかえ——」
「えいっ!」
「あ?」
俺の太ももにか弱い少女の拳が当たる。
「やったーーー! 当たった当たったぁ! 私の勝ちだァーー!」
「いや、まてまてまてまてまてまてえええぇ! もう終わっただろ!? 説得ムードに入ってただろ!?」
俺の目が見開き、大声で叫ぶが、シャーロットは満面な笑みで笑い、小さいジャンプを繰り返す。
弁解して欲しいからアイの方を見る。
「アイ! なんとか言——」
「————〜〜〜〜っっっっ!」
アイは地面に蹲って地面を強く叩いて笑っているだけ。くそっ! 俺がこんな子供に駆け引きで負けた? 有り得ん!
「これで私も最強の”悪者”になれる!」
「————?」
シャーロット満面の笑み。俺の痛憤も静まるうな笑顔。何か既視感がある笑顔、今日の夢に出てきた……。
「一神教の国で、教会育ち? 確か助けた少女も教会……」
そして、忘れたくても忘れられないアイツの言葉と先程の神なんていない。
「お前、もしかして……俺が助けた……少女か?」
シャーロットはやっと気づいたみたいな微笑みながら、うんと頷く。俺は3秒ぐらい時間が止まったかの体が静止する。
「はははははっあははははは! なんだそうか! 今日はなんて日だよ!」
俺は顔に手を当てながら腹を抱えて哄笑してしまう。夢で出てきた少女、笑顔が特徴的な少女は確実に『かっこいい』と言っていた。アイツの言葉の次に忘れられない、俺を救ってくれた言葉だ。だけど、その言葉は俺じゃなくてアイツに投げかけた言葉だなんて。憧れているのが俺じゃなくて、悪者のアイツかよ。なんだ、なんかおかしくなってきたよ。
こんな面白い運命に従わなきゃ損だろ。
「分かった。俺はお前を最強の悪者にしてやる、アイツの信念を受け継いだ世界でただ1人のシャーロットに俺の全てを叩き込んでやる。音を上げても絶対に逃がさないからな」
「ほんとにーー!? うおおおぉーー! やったあーーー!」
思えば、思えば——
ここから始まったんだ。運命の巡り合わせが導いた1つのストーリーが。そして、俺に見せてくれたんだ。あの『本』の光景を。
アイ・クリスタの登場ですね。凄い裏話なのですが、初期の名前の案はアイ・クリスタではなくアイ・クリスタルでした。最初、変換でクリスタルって書いていたんですが、途中変換が変になりクリスタと変わり、クリスタの方がいいじゃんと思いクリスタにしました。そして、まだ裏話なのですがバアルはもっと先にシャーロットに気づく予定でしたが、最初の方がいいだろうと思い、最初に気づかせました。変革しすぎてめっちゃ支障出てますが、大丈夫でしょう。
まあそんなことはどうでもいい
どうだったでしょうか、今回は!? カーチャルという造語。一種のクランみたいなものです。カーチャルという意味も当然考えていて、後々分かります。
ちゃんとした戦闘シーンは待ってください、後にちゃんと詰め込みます。予定では3万文字のダンジョンの探検を書きます、後は……なんかあります。
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