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第2話 〜3年後〜

 

 ————3年後


「くっそ嫌な夢を見た……」


 3年前のあの日が夢で蘇った、今日。俺は目を擦りながらベットから起き上がる。


「あれからもう3年かよ。いいことか、悪いことか」


 ベッドの横に立て掛けている、神器(相棒)を見てから俺は、部屋を出る。部屋を出て直ぐにある階段を大きな欠伸をしながら下りて、1階へと着く。


「おはよう、俺の家」


 俺の有り余ったお金で作った、自慢の家。階段を下りた前に玄関があり、玄関の左隣には2つの正四角形の窓。俺は窓の手前にあるカーテンを開く。日差しが舞い込んできて、家の前を歩く人がちらほら。左側を向いて、昨日買った本を本棚から取り出し、部屋の中央辺にある、1メートルじゃくの丸机に本を置く。 1階には今は昔ほど使っていない、大きなカウンターキッチンが部屋の奥にあり、天井は特殊な草が生い茂っている。

 キッチンに入り、水道を一捻り。水が出てきて、顔を洗い、口にも水を含み——


「ぺっ」


 ——っと吐き、コップに1杯に水を入れて飲み干す。コップを水で軽く洗い、冷蔵庫を片目でチラッと見るが、直ぐに視線を丸机へと移す。


「やっぱり朝の読書は欠かせないよな」


 俺は3年前のあの日から色々と始めた。この贅沢なキッチンだって俺に取り憑いた亡霊を無くすものだ。その中でも本は俺の特別なものになった。特に喜劇にまつわる話は特段と好きだ。俺の何かを埋めてくれて、時々はははって笑うと心がとても軽くなる。


「笑うか……」


 さっきの夢を思い出し、今はもう顔を忘れた少女の笑顔の印象だけは憶えている。あの少女の笑顔は人を救う笑顔だ。あんな底なしの笑顔を見たことがない。笑顔の他には『かっこいい』か。


「俺に憧れて冒険者になる……つーこともあるのかも……。——いや有り得んな」


 俺は早々に戯言を止めて、まだ覚めきってない頭で本を読み始めた。この本は笑顔が素敵な少女が最強の先生に助けられて、悪者を目指す……ってどんなストーリーだよ。


(でも、俺はこういう系が1番好きだけどな)


 あべこべな少女と昔人間のおじいちゃん先生が、愛もありながらも厳しく少女を育てる。最後は1000年生きたドラゴンと戦って、少女がドラゴンと仲良くなる? それで第1章は終わり? 頓珍漢とんちんかんな話だな。


「ごめんくださーい!」


「あ?」


 玄関の扉が強く叩かれる。声色からは少女のように感じられる。俺は本を閉じようとするが、今は本当にいい場面。

 第2章に始まる1番大事な時だし、俺の家に訪ねる奴なんて見知った顔しかいない。俺の見知った顔にはいない、少女なんてロクなものじゃない。


「無視だ無視」


 俺は息を潜め、誰もいないことにする。うるさい音が止まって、俺は1ページを捲ろうとした時——


「いますかーー!」


「……まだやるか」


 ドンドンッと先程よりも強く扉を叩く音が俺の鼓膜を震わす。そんなに強く叩いたら扉が壊れるだろ。だが、俺は全てにおいてやり通すのが流儀だ。

 開けることはなく、少女が去るのを待つ。


「ごめんくださーい! いますかー!」


「ッ——!」


 今度は俺の窓を覗き込んできた。窓と地面は高低差があり、少女はジャンプをしないと覗けないらしく、ぴょんぴょんと茶色ブラウンの髪の毛と驚く程に白い肌が見える。

 白人系ヒューマンの少女か。


「ああ! いたーーーー!」


 ピキッ、俺の血管が破裂する音が聞こえた。俺の優雅な時間を邪魔しやがって。木の床が軋むように強く踏み込みながら玄関まで行き、俺は扉を開ける。


「あっ!」


 まだ地面から窓を覗こうとしていた少女が、扉を開けた俺に気づを玄関まで続く緩やかな坂を上ってくる。


「なんだ?」


 俺はイラついた声で、少女を見下ろす。少女は口を大きく開けて——


「私を貴方の教室に入れてくっ———!」


 少女の羨望の眼を見て、俺は少女の言葉半ばに優しくニコッと笑う。


「無理だ」


 バンッ! っと少女の言葉を全て聞かずに緑色の木の扉を強く閉める。そして直ぐに強く扉が叩かれ、頭の血管が3つほと破裂して、扉を開ける。


「あのぉ……」


 泣きべそをかきながら指をモジモジさせて、少女はまた「お願いします」と言ってくる。ここまで来たらしょうがない。


「絶対に無理だ。他を当たれ」


 ここまで来たら入れるものかと、もっともっと強く扉を閉める。玄関の横にある窓のカーテンを閉めて、壁に付いてあるボタンを押し電気を付ける。優しい光が1階を照らし、ちらりと扉を見る。叩かれなくなった扉に安心して、頭の血が下がる。

 また木の椅子に座り、本を開く。今度は第2章。最強先生に助けられた少女は様々な出会いと、勉強、特訓によってダンジョンに潜る。ダンジョンに入ったはいいが、ある人物に嵌められて1人で入ってしまったと。


「ふっ。昔を思い出すな。ダンジョンに無理やり糞ババアに潜らされたよ。普通死ぬぞ」


 少女は様々な困難の末にやっとのことでダンジョンの出口に辿り着いたが——ある難敵に。


 ————ぐぅ〜


 お腹が空いた。


「やっぱり、クライマックスの前には準備万端で読みたいよなっと」


 小一時間程、時計の針が進み、流石にお腹が減ってきた。俺は椅子から立ち上がり、キッチンへと行く。昔ほど凝った料理はしなくなったが、3年前に比べると容易に料理を作れるようにはなった。


「今の時間は9時か。コーヒーに合うのは——」


 カウンターに雑に置いてある3分の1となった1斤の食パンを包丁で程よい厚さに切る。後は冷蔵庫から卵を1個と厚いベーコンを取り出す。ベーコンをまな板の上へ置き、今日は太く切るかと少しの贅沢。ベーコンを切った後は、フライパンに油を少々。

 卵をフライパンの端で叩きフライパンにダイブ。あれ? ジューといい音が鳴らないな。


「いっけね。点火するの忘れてた」


 慌ててボタンを捻り、ボウッと青色の炎がフライパンを熱する。程なくしてから卵の白身が白く形づいてきた。卵が温まったところでベーコンもダイブ。2分程度時間が経ってから、食パン上にベーコンと卵を乗っける。


「お湯も湧いたな」


 赤色のマグカップに粉末コーヒーを入れて、お湯を垂らす。白と茶色が混じったような、コーヒーを淹れた時にしか出ない泡を見て、食パンを乗っけている白色のお皿と、マグカップを持って丸机へ。本が丸机の中央にあるのでマグカップとお皿を端っこに置いて、本を本棚へ避難させる。


 椅子に座り、まずは今の寒い季節にぴったりなホットコーヒーをひと啜り。


「あ〜、やっぱりコーヒーは美味いな」


 甘党だった3年前の俺に見せてやりたい光景だ。


「よしっ食べるか。いただきます」


 両手を合わして、何も無い胃袋へパンを入れようとした瞬間——


 ————ぐぅ〜〜!


「……?」


 窓の方から破裂音みたいな音が聞こえた。気のせいだろうか——


 ————ぐぅ〜〜〜っ!


「まさか……」


 俺は足早に玄関の扉を開けて、左右を見る。


「まだいたのか」


 体育座りで玄関まで来るための坂の端っこにあの少女が。

 こいつ30分以上もそうしていたのかよ。


「はぁ〜」


 俺は深い嘆息を吐く。さっきまではよく見ていなかったが、明らかに質素な服装。白色のシャツに、生脚を出した短パン。身長は……俺より低そうだな。そこだけは褒めてやる。鞄もなくて、お金もなさそうだ。さてはこいつ俺の”教室”で養って貰おうと思ってるな。

 ここ迷宮都市(ゼイウス)には、子供や大人をダンジョンで戦えるようにする為の施設が2つある。金持ちと優秀な人材が行くような私学校。お金も無く、優秀でもない人材が来る”教室”。教室の先生は教室の生徒に衣食住を提供し、教室は生徒がダンジョンを攻略出来るように育てる為にある。その代わり生徒はダンジョンで得た、お金の2割を卒業してからも教室に贈与するようになっている。先生次第でお金の上昇や貢がなくてもいいとも決められるらしいが。

 まあ俺のこの教室()は生徒1人もいない、名目上だけの教室だ。新しいことを始めようとしただけで、来るのは俺の神器”目当て”の奴ら。

 こいつは身なり的には前者だろうが、俺は生徒を取る気はない。


「他を行け。俺の教室はお前みたいな質素な奴は入れないんだ」


 棘のある言い方をして、俺の方を見向きもせず動こうとしなかった少女を最後に扉を閉める。

 パンが冷めきらないうちに食べなければ。俺は椅子に座り、今度こそパンを口に含もうとした時、嫌な声が聞こえた。


「あら? こんな所にいてどうしたの?」


 俺は頭を抱えてまたまた深い嘆息を吐く。次の瞬間には扉が蹴って開けられる。


「馬ーー鹿ーーバーーーアーーールゥーーー!」


 小麦色と褐色の中間の肌の色をした、赤く燃えるような耳かけショートヘアの俺の元仲間(元パーティー)のアイ・クリスタが鬼の形相で入ってきた。


1週間経ったと思って、早いな〜って投稿してみたら1週間経っていませんでした。何を勘違いしてんだ。


このお話の終盤に登場した、アイ・クリスタですが、彼女を題材とした短編、


【アイ・クリスタのブレイクタイム】という短編を書いているのでよろしかったらそちらも。第1章では説明されないアイの立ち位置などが説明されています。


まあそんなことはどうでもいい


どうだったでしょうか今回は!? 私的には大幅に小説を書くのが上手くなったと思います。人物の動きや、気持ち、家の構造など端的に説明するだけでも、ここまで背景の幅が広がるなんて。


次の投稿は金曜日です!

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