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第1話 〜3年前〜

 ————神なんているわけないじゃん

 それが私の口癖。私は記憶もない赤ちゃんの時に捨てられ、ここの教会の神父様に育てられた。 私が住んでいる国は一神教のクロノス。8つの国で1番、神の信仰が厚くてそれ以外の神を崇めたら死刑とされている国。なにも一神教の国はそんなに厳しい国ではない。他の神を崇めたらダメなだけで、信仰が薄くても罰される対象じゃない。でもちゃんと信仰してないと——

「私達は神を信仰することによって国王様から神器じんぎを授かることが出来ます。そこで【回復者ヒーラー】が誕生し、世界から引く手数多の存在になるのです」

 神父様は綺麗な修道服を着て、教壇に立ち熱弁する。神父様は洗脳しようとしてるんじゃなくて、私達を独立させようとしてくれる。神器を授かって【回復者】になれば安定して稼げて、一般以上の生活が出来る。私は一緒の長机に座っている同じ孤児の皆を見る。皆、目を煌めかせ将来を見ている。こんな狭い教会や、不味いご飯を食べない未来を。でも、私は皆と違くて神を”信じない”。

「はい。今日の授業はここまでです。今日の昼食は外で食べますよー! 皆さん準備してください」

「神父様、ほんとー!? やったーーー!!」

 私は満面の笑みになり、椅子の上に立ちぴょんぴょんと跳ねる。

「”シャーロット”、お行儀が悪いですよ」

 長い白ひげを触りながら、鋭い眼光を放ってくる神父様に私はしょんぼりしてしまう。神父様はため息混じりに、

「まあいいでしょう。では、授業は終わりです。皆さん喋っていいですよ」

「「「「はーーい!」」」」

 私は【勉強モード】から【普段モード】に切り替える。

「今日のご飯は美味しいそうだな〜。なんだろー、スープかな? パンかな? もしかしてお肉!?」

 あ〜美味しいそうだな〜。ヨダレがいっぱい出てきちゃった。皆も今日の昼食が楽しみなようで、話に花を咲かせているし。

「おい、シャーロット。ご飯がもっと美味しくなる方法を知ってるか?」

 私の隣に座っていたライアットが、私の肩を叩いて言ってきた。ご飯がもっと美味しくなる方法!?

「えぇー!? そんな方法があるの!?」

「簡単だよ。ある”部屋に入るんだ”」

「何それ何それー! ある部屋ってなにー!? ライアットって頭いいなー!」

 ライアットは白髪の短髪の後頭部を恥ずかしそうに手で触り、私の手を握る。

「付いてこい」

「——うんっ!」

 私はライアットに連れられ、教会の奥へ進んでいく。ライアットの握る手はいつもより強くて、私の手に痕が出来るぐらい痛かった。

「ここだ」

「え……ここって……?」

 ライアットに”反省室”の前に立たされる。ここにくるだけで、私の身体中から汗という汗が出てくる。神父様の前で神なんているわけないじゃんって言った時に、ここの中に入れられて。この中は何も無いんだ。暗くて、音もなくて。

(ひゃー! 今思い出しても怖すぎる)

 私は頬は引き攣り、ライアットの顔を覗く。

「ライアット、ここに何があるのー?」

 ライアットはニコっと笑い——

「ここの中に入るんだ」

「……なんでー?」

 ライアットが何故か持っている鍵で反省室の錠を開けて、重厚な扉を開ける。廊下が明るくても中が真っ暗な反省室を見て顔が強ばる。

「俺が絶対に出してやるから、ほら入れよ。なっ?」

 ライアットは私の腕を引き、無理やり反省室の中に入れる。

「——えっ? ライっ」

 一瞬の出来事だった。この闇を見ると怖くて、私は頭が真っ白になっちゃうんだ。ガチャンと不快な音が、懐かしい音が私の鼓膜を震わせる。

「え……やだやだやだー! 開けてよライアット! ライアットっ!」

 私は扉があるであろう場所をガンガンと叩くが、外からの音が聞こえない。怖い、闇が私を包んでくる。

「ライアット……! ライアットぉ……! なんで”いっつも”こんなことするのぉ———?」

 弱々しく私の声は衰弱していく。冷たい、地面が冷たい。空気が冷たい。心が、私の心が冷たくなってく。だからここは嫌いなんだ。声が出ない、私の荒々しい咽びだけが聞こえる。

「神父様ぁ……! 助けてよ……助けて」

 ◇◇◇◇◇

 ————後にこの日は大災害と呼ばれる

 理由は明白。世界3恐と呼ばれるようになった1人の魔人が、迷宮都市を突破し、数々の街を壊し、森を焼き払い、一神教の国の首都へと向かっていった。そこの通過点には運悪く、1つの町があった。

「逃げろおおおおおおぉぉっ————!」

 町中に警鐘が鳴り響く。耳を塞ぎたくなるような音に住民達は焦る。

「皆さん! 早く教会から出なさい!」

 教会から出ていく、少年少女達。神父が人数を数え終え、”1人”居ないことを気づく。教会にまた入ろうとした神父にライアットは、

「シャーロットなら先に飯屋に行っちまったよ」と嘘をつく。

 神父を眉を顰め、神に問う。シャーロットと合流しない私の行動を許してくださいと。

「皆さん逃げますよ! 早く!」

 神父は教会から出た子供たちの先導して走っていく、ライアットは最後に教会をちらりと見て神父について行った。程なくして、住人が1人しかいない町に”炎の雷が落ちる”。雷鳴が轟き、この街の半分の建物が半壊した。

「痛い……痛」

 雷の落ちた衝撃によって崩れる教会。運良く床の底が抜け、瓦礫の隙間に入り込み、膝を擦りむいた程度の怪我を負ったシャーロットは光がある方へ進む。堅牢な反省室から出たシャーロットの目には炎が見えていた。肺が焼けるような高温の火が街を埋めつくしていた。外へ出るとそこは今まで育ってきた街ではない。炎のメラメラという音が聞こえる、まるで地獄だ。

「何故……笑うんだ?」

 どこからか声が聞こえた。シャーロットは声音が聞こえた方向を振り向く。そこには身長2メートル以上の長身、背中には黒い羽があり、頭部には2つの赤い角。つり上がった目の色は蒼色、身体中を覆う黒の毛、後は圧倒的な威圧。人間とは呼び難い化け物。シャーロットの肺は炎で焼け焦げるのではなく、威圧で押し潰される気がした。いつの間にか呼吸は荒くなり、空気を多く取り入れて長く生きようと本能的に努力する。

「何故……笑っている? 君はなんでそんな笑顔が出来る?」

 この街を一撃で取り返しのつかないことにした元凶が、シャーロットに再度問う。答えられない。歯がガチガチ鳴っていて答えられない。魔人を目尻更に引き上げ、1歩だけ近づく。街に鳴り響いた警鐘よりも、激しく、うるさい心臓の音《警鐘》が胸を打つ。

「……怖いか。そうだよ……怖いよな。ありがとう、気づかせてくれて」

 蒼穹を思い浮かべるような蒼色の目が、シャーロットの顔を見て、瞳越しの自分を見て確信させた。自分は化け物なんだと。だから、殺さないといけない。魔人はシャーロットの首を掴み、体を宙に浮かせる。

「がっ!? ——ぐっっ!?」

 シャーロットは苦しそうな顔をして、それでも笑顔のまま。魔人は下唇を弱く噛みながら、手に力を入れようとした瞬間——

「やめろおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっっ————!」

 上空から飛んできた1人の若い男が、槍型の神器を持って魔人の頭を捉える。魔人はシャーロットから手を離し、翼を広げて後ろへ避ける。

「がはっっはああ……!」

 長い時間、吸えなかった空気をシャーロットは肺を埋め尽くすように入れる。まだ目の焦点が合わない中、助けてくれた目の前の背の低い男の人を見る。

「来た、やっぱり来た。バアル」

 魔人は吐息のように言葉を漏らし破顔する。その笑顔にバアルは嘆息をして、気持ちの入った言葉を喋る。

「ジルベルク……やっっっっっと、覚悟が出来たよ」

「なんの覚悟?」

「お前を殺す、——覚悟だ」

 黒髪のマッシュヘアを揺らし、ジルベルクよりも綺麗な蒼玉サファイア色の双眸を殺意に塗らす。ジルベルクは瞼を閉じて、「僕もだよ」と言う。

「お前、そこから1歩も動くな。1歩でも動いたら死ぬぞ」

 黒のロングコートが神器《槍》を振ったことで揺れ、魔人が翼をバサバサと揺らす。バアルの刺がある言葉が無くてもシャーロットは動けない。シャーロットは体を震わせて目の前の、歴史に残る戦いを見る。

「ふぅーーーーーーーーーーーーー!」

 2人は目を合わせて、バアルは息を吐き、吸う。そして何も言わずに——消えた。シャーロットの目には2人の動きは一切目で追えない。見えるのは時々見える、黒色の血と赤の鮮血。

「こ、殺しあってるんだ」

 シャーロットが見る初めての死闘。人が化け物を殺める生々しい現場。

「【落ちろ】」

 天空から赤色の稲妻。地面を砕き、弾丸と化した岩がシャーロットへ。

「危ねぇな!」

 バアルが鎖に繋がれた槍の矛先を”飛ばし”、岩を砕く。矛先が無くなり、隙を見せたバアルに魔人の蹴りが食らいつく。肋骨なんてくれてやると笑うバアルが魔人の脚を左腕で掴む。魔人の豪勇な角がバアルの頭を擦過した時、それすらも”予想済み”のバアルの一撃が魔人を刺した。鎖で繋がれた矛先がうねり、魔人の左脇腹を突き刺さす。長く続いた戦いは終わりに近づく。

「最後は全力でやろう、ジルベルク!」

「ああ、僕も全ての力を使うよ!」

 両者瀕死状態で距離を置き、片方 詠唱、片方 魔力のつぎ込みに時間をかける。

「【神器 バアルよ 崇高なるソナタのメモリーを呼び起こし 友に恥じぬ渾身の一撃を】」

 ここで歴史が決まる。ここで世界の命運が決まる。バアルの神器は蒼色のオーラを纏い、ジルベルクの右手も蒼色に光る。殺伐とした光景を見ていたシャーロットには、2人が悲しいんでいるように見えた。涙を堪えているように見えた。

「やめて……悲しい戦いなんて見たくないよ!」

 シャーロットのか弱い言葉が届かぬまま戦いは結末に。

「【喰神ジキガミいいいいぃぃぃぃぃぃぃ】!」

「【爆ぜろおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ】!」

 蒼色の流星が魔人が放った蒼い雷撃に向かう。目を焼き尽くすような一撃と、歴史が決まった一撃。蒼色の流星が、魔人の心臓を穿つ。突き刺さった黄金の矛先、魔人の体がバアルに寄りかかり、魔人の体が脱力する。

「バアル、大丈夫か!?」

「馬鹿バアル!?」

 そこへ冒険者が集まってきた。総勢100人程度、全員が体に深手を負い満身創痍。魔人は人が集まったことを見計らって、俺を見ていると喜色の顔になる。

「この世に神なんていねぇ!」

 魔人が吠える。バアルの胸の中で、血だらけのバアルの胸で。

「この世は腐ってる! 誰もが人を見下し! 誰もが人を差別する! この間違った世界には絶対的悪が必要だ! 間違った正義を変える、”正しい”悪が必要だ!」

 魔人の叫喚する姿は、ゾロゾロとバアルの増援に来たエルフや、赤髪の女性、沢山の猛者の冒険者の前で語られる。彼らは何を言っているんだと嘲笑する中、彼と向き合った1人の男だけが目尻に雫を垂らしている。

「俺の正義は必ず受け継がれる! 待ってろよクソ野郎共! 俺は世界を変えてやるッッッッ————!!」

 魔人は口から黒色の血を吐き出し、瞼を重く閉じる。

「—————!」

「—————!」

 シャーロットだけが見えた、2人が会話をしている姿。最後に魔人は微笑んでいた。世界を恐慌させた魔人は黒色灰へと変わっていき、死んでいく。

「勝った……」

「勝ったんだ!」

「「「「よっしゃぁぁぁぁぁあああああッッッッ!」」」」

 大歓声。沢山の人が泣き崩れ、恐ろしい1日は終わったと、魘される日々は終わったと体を振り回し、喜びを分かち合う。歴史は刻まれ、変わった。ジルベルク。彼は後に世界2恐の中に入り、それは世界3恐は呼ばれるようになった。ジルベルクは後世に恐ろしかったと語り継がれていく。そして、1人の女の子を変えた男性もここに居る。バアルは相好をクシャクシャにしながら、血を垂らしながらシャーロットに近づいて優しく頭を撫でた。

「頑張ったな。俺たちの勝ちだ」

 鼻をすすりながらとてもさっきまで、鬼気迫る迫力があった者じゃない。だが、シャーロットはバアルの顔を見て『かっこいい』と言った。

「ありがとな。ありがとう」

 その言葉が心をまた崩したのか大粒の涙を流す。大勢から見たら歓喜の涙。仲間からしたら何かある涙。シャーロットは感謝される意味が分からず、底なしの笑顔になりながら「うん!」と大きく頷く。

(あ〜! かっこよかったな〜! あの”黒かった人!”)

私は後書きめっちゃ書いている人の自称1位になりたいので、後書きは適当なこと書いています。飛ばしてください。


前書きには週一投稿と書きましたが、結構気まぐれで週2投稿もします。予定としては2月初めまでには第1章完結。末から5月にかけて第2章を展開出来たらいいかなと思っています。やろうと思えば毎日投稿は容易なのですが、それでは品質が格段に下がると経験済みなので毎日投稿はしません。


まあそんなことはどうでもいい


今回のお話は過去回なので、神器って何? 魔人って何? 冒険者ってどんな立ち位置? バアルって誰? 第1章ではちゃんと説明します。ですが、詳しく説明出来ないのも多多ありますし、オリジナリティが多い作品なのでなんじゃこれ? と思われるかもしれません。


次の投稿は9日です!




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