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chapter 7「もしも私が彼女に出会えていたら...(正)」 Ⅴ

「―――私はね、許せなかったんだ。アイツは誰よりも正しかった。誰よりも努力をしていた。口だけ適当なこと言って何もしない連中よりも何十倍も何百倍も価値があると思ってしまった。そんなヤツが報われないのはおかしいと思ってしまったんだ。

 でも、普通ならセカイの理不尽さを呪うことしかできない。

 でも、”私”は普通じゃなかった。

 あっちの”私”はもう一つのセカイを知っている。

 圧倒的な才能が学院の中心に君臨しているセカイを、ね。

 私が最初に思いついたのはGWC(GATE WORK CLOUD)を同じように使うことができないか、だった。あのシステムがあればヒューマンパワーの問題はほとんど解決したようなものだし。

 だから、単刀直入にあっちの葵井蛍に聞いたよ。

 そうしたらそんなものはない、と言われた。あっちでは葵井蛍が生徒会に入っていないからGWCが完成していなかったんだ。諦めきれない私はGWCについて知っている限りのことを教えた。あのシステムは画期的だし、あっちの葵井蛍にとっても間違いなく利益になるから身を乗り出して聞いていた。説得は9割9分成功しかけていたんだ。

『ちなみにそれは何のために使うんだ?』

 その質問に私はバカ正直に生徒会の運営のためだと答えてしまった。そうしたらあの社長サマ、サッと顔色を変えて『協力はしない』と言いやがった。理由はよくわからない。というか、その辺のことは思い出そうとする靄がかかってみたいになるんだ。まあどうせうちの生徒会長と何かあったんでしょう、どうでもいいけど。

 けれど、私も残念なことにそんなことで諦められる女じゃない。何度も何度もしつこく頼み込んで、いよいよ脅しのネタでも掴むかと思いかけたとき、あの男が折れた。

『協力をする気は金輪際ないが、GWCのプロトタイプはくれてやる。学院のネットワークに組み込むぐらいはやってやるが、あとはおまえが全部何とかしろ』

 同じ生徒会副会長だし、あの男も悪いヤツじゃないんだろうね。あのクセの強い内部ネットワークにわざわざ律儀に組み込んでくれたわけだし。もっともそのときご丁寧にも私のIDを使ってくれやがったおかげでこうしてアンタに捕まってしまったわけだけど。

 とにかくGWC(GATE WORK CLOUD)は手に入れることはできた。けれど、現実世界のGWCを再現するなんて土台な無理な話だった。私もITには強いつもりだったが、文字通り次元が違い過ぎる。ここでも諦める機会はあったわけだけど、私はがんばってしまった。はあ…………、なんでがんばっちゃったんだろうねえ、あっちの私よ。

 途方に暮れた私はそもそもの発想を変えてみることにした。

 GWCのAIとしての特徴は大きく二つある。一つは強力なディープラーニング機能、もう一つは学院のような最適化されていない環境での効率的な処理能力、細かいことは後でそっちの副会長さんに聞けばいいけど、並列接続した既存のネットワークにタスクを振り分ける能力といえばいいかな? 自分で全部やるのではなく、他の人にできることは他の人にやってもらうみたいな? 

 私がやったことはこの二つの機能のリミッターを外すこととGWCプロトタイプの上位に君臨するプログラムを作り出すことだった。

 ―――そう、それこそが『N0Nam|Ξ』だ。 

 といってもプロでもないただの女子高生に作れたのはせいぜいスパムメールを送るぐらいが関の山だけどね。ネズミ講めいた情報の収集方法だって本当に苦肉の策。

 それでも私の『N0Nam|Ξ』は予想をはるかに超えてうまくいった。学院内に蔓延させたスパムを利用して私たちに敵対する生徒やトラブルの種をみんな刈り取ってやった。私としてはそれだけで十分。足を引っ張られなければ元々私たちだけで何とかなったわけだし。まあGWCが本来可能とする学院生活とは程遠いけど、誰もそんなことは気にしやしない。だって、それを知っているのは私だけだもん。

 こうしてあっちの”私”は危機を乗り越え、生徒会はつつがなく続くことになったとさ。

 ここまでがユメの話。ひっどいユメだよねー? 私もユメの中とはいえ、もう一人の自分の病み具合にドン引きしたわ。どんだけ愛が重いのかっーつーの」


「―――でも、ユメはユメで終わってくれなかった。

 現実世界でモノクロな日々を過ごしているとふと生徒たちの会話から『ノーネーム』という単語を耳にした。まさか、とも思わなかった。そんな名前どこでも出てきそうだし。秘密が暴露されていると聞いても結びつけることもなかった。まあそういうのもあるでしょ、ぐらいな。とにかく私はこっちの世界に全く興味がなかったから。アンタたち生徒会がどれだけバカなことをやったとしても私には硝子の向こう側の話だったんだ。

 だから、”それ”に気がついたときは完全に手遅れだった。

 あのスパムメールが自分のところに届いたときの衝撃たるや。全身の毛という毛が逆立ったよ。人間、理解の範疇を超えた出来事に遭遇するとああいう反応をするんだなと頭のどこかの冷静な自分がそんなことを思ったよ。

 たった一度だけ、確認のために『ノーネーム』にアクセスしてみた。こっちの世界では私しか知らない管理者用パスワード。通るわけがない…………でも、通ってしまった。

 後の顛末はアンタたちの知っての通りかな。私がやったのはせいぜい管理者用のパスを永井火風花(かふか)と津島夢呂栖(めろす)に流したことぐらい。アイツらはあっちのセカイで私たちの足をうんざりりするほど引っ張ってきたヤツらだからね、『ノーネーム』の存在を知ったら悪用するのは100パー決まっている。実際、見事なまでに潰しあったみたいだし。ザマーミロってんだ。

 さて、これで私の話はおしまい。全ては私の妄想。

 …………なんか話していたら疲れちゃった。後はもう全部アンタたちに任せるよ。私の妄想と「ノーネーム」の出現がどう関係あるのかは私には皆目わからないし、興味もない…………本当にどうでもいいんだ」


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