プロローグ
昔々あるところに、勢いで小説を投稿したはいいものの、それから何を書けばいいのかが分からず一年も作品を放置していた愚か者がいたらしい。
という訳で、よろしくお願いします。
その世界では昔、生物が生まれ、人間が生まれ、科学を発展させ、文明を築いていった。
しかし、今から500年前、突如として宇宙から邪神がやって来ることとなる。
そのおぞましい姿と強大な力に人々は恐怖したが、邪神達は支配の代わりに、人々に魔の力による可能性を与えた。
邪神の恩恵を受けた人々は邪神の支配下に入り、また、その中には邪神を信仰する者も現れた。
逆に邪神の力を恐れた人々は、科学の力と邪神の魔の力をも使って、邪神達に対抗する術を探した。
邪神たちは己の欲の為に、
人間たちは己の利益の為に、時に協力し時に敵対する。
こうして、それまで発達させてきた科学と邪神の魔の力が混ざり合い、全く新しい文明が誕生していった。
*****
「残念だが、お前は留年だ、新海。」
目の前で足を組みながら椅子に座り、そう俺に告げてきた彼女は、俺のいる学校の教師である。
今日は高校二年に進級して最初の日・・・・・だったはずなのだが、なんと俺は留年してしまったらしい。
「分かりました。残念ですが、この結果は重く受け止めます。」
そう言って立ち去ろうとする俺を、彼女が慌てた様子で呼び止める。
「待て待て!新海、今のはちょっとした冗談だ。・・・・・まったくお前のその、人を信じて絶対に疑わない性格は本当に何とかしたほうがいいぞ。」
どうやら、俺が留年して進級できないという話は、ただの冗談だったようだ。
彼女は、ふぅとため息をつき、近くにあった椅子を引っ張ってきて、俺に座るように目で促す。
最初は座る気の無かった俺も、有無を言わさぬ目力に気圧されてしまい渋々と席についた。
海城瑠璃絵
傍からすると全くそうは見えないかもしれないが、実は彼女は俺の母親の妹、つまりは俺の叔母に当たる人である。
また、彼女は歴史という自分が担当する教科を持っているにも関わらず、俺のいる特別学級に授業をしに来てくれるとても面倒見の良い人でもある。
そしてそれが彼女に課せられた条件でもあるのだが。
「すみません。いつもいろいろと迷惑をかけて・・・。」
「いい、気にするな。それよりも特別学級はどうだ?やっぱり、誰もいないクラスは居心地がわるいか?」
俺が彼女に対して謝ると、彼女も少し申し訳無さそうな顔をしながら、そう尋ねてくる。
「いえ、何も問題ないですよ。そもそも、こんな体質を持っている俺が学校に行けること自体、奇跡みたいなものなんですから。先生には感謝してもしきれません。」
それを聞いた彼女は、嬉しいような、困ったような、複雑な表情を浮かべる。
「触れた人を気絶させてしまう体質、か。・・・本当に、生きにくい力だな。」
「全然大丈夫ですよ、先生。この体質のことも、特別学級も、俺は大丈夫です。・・・一人は、慣れてますから。」
この言葉には、嘘も偽りも無い。
ある日突然この恐ろしい体質を手に入れて・・・・・それまでの全ての関係を失った。
他人から恐れられ、疎まれる。
誰とも話さず、何処へも行かない。
一日の殆どを家の中で、一人で過ごしていき、次第にその生活にも慣れていった。
だが、そんな風に現実から逃げていられたのは、ほんの短い間だけだった。
今俺がこうして過ごせているのは、そんな時に俺を助けてくれた人達のおかげだ。
目の前にいる彼女、海城先生もその内の一人であり、特に彼女は、ロクに中学校も行っていなかった俺に、この学校で生活できるようにいろいろと取り計らってくれた恩人でもある。
この特別学級とは、この学校で俺だけのために作られたクラスのことだ。
原因不明の危険な体質を持っている俺が、この学校に通う条件として学校が彼女に提示したのは、俺が学校の関係者に一切危害を加えないということと、俺に対しての授業はできる限り彼女が行うというものである。
そして、もしそれが破られた場合の責任は全て彼女がとるということ。
俺のためにそこまでの事をしてくれる彼女には本当に感謝しているし、彼女にここまでの苦労をかけていいものか、とも思うが、
「とにかく、特別学級とは言えお前は生徒だ! 新しいことをどんどん学べ。私も、できる限りのことを教えてやる!」
自信満々にそう言ってくれる彼女は、本当に頼りがいのある人だ、と心からそう思った。
*****
海城先生との話を終え、学校を後にする。
学校が終わった後特に何かする予定もないため、今向かっているのはいつもの家だ。
俺の家は、俺と海城先生と俺の母親の三人で暮らしているのだが、母親は仕事の都合上、家に帰ってくることが少ない。また、先生も遅くまで仕事があるため、家ではいつも夜まで一人でいることが多い。
学校から人通りの少ない道を15分程歩くと見慣れたいつもの家が見えてくる。
町中にある、至って普通の二階建ての一軒家だ。
いつもの様に家の鍵を開けようとするが、何故か鍵が掛かっていない。
家には誰もいないはず。海城先生が鍵を閉め忘れたのかと思いながらドアを開けてーーーー
「…っ!!」
思わず、声が出るところだった。
誰もいないはずの家の中にいた人に驚いたのではなく、その人の伸ばしている手が俺の目の前に迫ってきているのが見えて、驚いた為だ。
「おかえりー」
危うく、俺の体に触れるところだった当の本人は、全く動じた様子も無く、気の抜けるような声でそう言った。
「千華!頼むから触れないように気を付けてくれ、っていつも言ってるよな!?」
「えー、別に大丈夫だって。ウチが気絶したところなんて見たことある?」
少し遠ざかりながら、家の中にいた彼女をそう注意するも、全く反省の色が見られない。
「何度もあるから言ってるんだ!その度に、俺がどれだけ不安になったことか・・・。」
目の前で手を合わせながら、ごめんね、と謝る彼女の名前は火骸 千華だ。
俺の幼馴染であり、小学生のころからの付き合いである千華は、俺がこの体質を手に入れたときに真っ先に手を差し伸べてくれた人である。ー--のだが、好奇心が強く楽観的な性格の彼女は、これまでに何度も俺の体に触れて気絶してしまっているのだ。
一度俺の体に触れて気絶したら、少なくとも一時間、長ければ半日以上目を覚まさないこともある。その度に俺が、千華の命に何かあったらと心配している、と彼女に言っているのだが全く反省してくれない。
「まあいい。それより、どうして家に千華がいるんだ?」
家に上がってリビングに入り、ソファーに腰を降ろす。
「学園から帰っても、今日家に誰も居ないから暇なんだよねー。だからちょっとこの家で、暇つぶしをさせてもらおうと思ってたところー。」
「それは構わないが、・・・どうやって家の中に入った?」
と、千華に対して尋ねると彼女は不思議そうな顔をする。
「どうやって、って普通に鍵を使ったけど?ウチがこの家の合鍵を持ってるのは知ってるでしょ?」
「いや、初耳だ。」
どうやら俺の知らない間に、海城先生から合鍵を貰っていたらしい。
「この家にはゲームもマンガもあるからねー。」
と、千華が言う。
「千華の家には無いんだっけか。」
「うーん、ウチのおじいちゃんが厳しくてねー。」
実は、千華の苗字でもある火骸は、魔法の研究において日本の中でも、その名前が強い力を持つほど有名な家系なのだ。
その為、千華の祖父は彼女に対して勉強と研究を最優先させているらしく、ゲームやマンガといった娯楽品は許可されていないとのことらしい。
「おじいちゃんと言えば、さ・・・この前の事はごめんね。」
と、千華が気まずそうな顔をしたかと思えば、いきなり謝られたので驚いてしまった。
千華がそんな顔をしながら謝るとは珍しい。
この前の事と言えば、先月千華の実家に行った時のことだろう。
「気にしなくていい。俺も千華にはたくさん助けられてきたから。」
俺がそう言うと、千華はホッと息をつく。
「本当?良かったー。今まで言い出すタイミングが無かったけど、どうしても謝っておきたくてさー。」
言いたいことが言えてすっきりしたような千華の顔に、笑顔が戻り始めた時だった。
ピロン、という機械音が部屋に響くと同時に、それに気付いた千華がポケットからスマホを取り出す。
「どうかしたのか?」
「んーと、おじいちゃんから、今から魔法学園で研究発表をするからすぐに戻って来いって。・・・もー、何であの人はいきなりこんなことを言うのかなー。」
千華が口をとがらせながら文句を言う。
「もう行くのか?」
「うん。じゃないとおじいちゃんに怒られちゃうし。」
おじいちゃん怒ると怖いからなー、と言いながら靴を履く千華。
その後ろ姿を見ながら俺は千華に声をかける。
「なぁ、俺も途中までついて行ってもいいか?」
「いいよ、蛸。じゃあ少し、話ながら歩こっかー。ちょっとなら遅れても大丈夫だよーきっと。」
家のドアを開け、電車に乗るため駅へ向かう。
「千華の学園も、今日からスタートか?」
「うん。でもウチは春休み中も研究の為に行ってたけどねー。・・・魔法科学が本当に複雑でさー。」
「でも千華、前にテストで満点取ったって言ってなかった?」
「それは授業でやったところだから!自主研究課題はまた別なの!」
「そうか。俺はあまり魔法には詳しくないけど、千華が言うくらいだから難しいんだろうな。」
「そうなの!めっちゃ難しいんだから。」
そんな他愛の無い話をしていると、あっという間に駅についてしまった。
「じゃあね、蛸。また今度ね!」
そう言って千華が俺に手を振る。
「ああ、また今度。」
俺もそう言って手を振り返すと、千華は急ぎ足で人ごみの中に消えていった。
また一人になってしまったが、一先ずこの場を離れなけらばならない。
駅の周りは人が多く、誰かとぶつかりでもしたら一大事だ。
道行く人達に気を付けながら、人通りの少ない道を目指す。
これから何をしようかとか、そういえばお腹が空いたな、何か食べようかとか、そんなことを考えながら歩いている内に、気付けば、辺りに誰も居なくなっていた。
人が全然いないのではない。人が誰一人としていないのだ
人通りが少ない所に来たんだから当たり前だ、と思うかもしれないが、ここは田舎でもなく、少し離れたとは言え駅の近くだ。
周りに誰も居ないなんてことは異常だと言っていい。
心なしか肌寒く、不気味さすら感じられる。
いち早くここを立ち去りたいという思いと共に、空腹だったことも忘れて速足で家へと向かおうとする。が、それは姿なき声によって阻まれた。
「あなたが新海蛸ですね。」
その声が聞こえた途端、自然と足が止まった。
背後から、スタ、スタという足音が聞こえる。
怖いはずなのに、いや、それ故なのか顔を後ろに向けてしまう。
そこに立っていたのは、背は自分と同じくらいの、整った顔立ちの女の子。
「邪神クトゥルフの依代、新海蛸。」
しかしその目は、怖いほど鋭く、無機質だ。
その女の子は、少し離れた所で立ち止まり、俺に向かって一礼をし・・・・・・口を開いた。
「あなたを、暗殺しに来ました。」
投稿初心者で、書き溜めも無く勢いで書いているので、投稿頻度が遅いかと思いますが、これからよろしくお願いします。
ちなみに作中に出てきたスマホとは、スマートマジックフォンの略です。