7
子供たちと再会した村人たちは涙を流して喜んだ。
「勇者様、ありがとうですじゃ!」
村長がサラの両手を握り、頭を下げる。
村の広場。
城から戻ったサラは元の服に着替え、伝説の銃も青い蝶の宝石の隣に返した。
城の結界が解けたため、リレミスのサンタ服は元々着ていた露出の多いミニスカ魔女ファッションに変化している。
村人たちの後ろではサラとリレミスにクリスマスプレゼントを貰い、改心したサン=タクロッスがムキムキにする魔法を解除したトナカイたちと並んでいた。
迷惑をかけた分、これからは村のために働くと約束したタクロッスだった。
何度も礼を言い続ける村人たちに囲まれ、サラは何とか困難を乗り切ったことにホッとしていた。
とりあえず、この世界の勇者としての使命は果たせたようだ。
(はあ…でも、これからどうなるのかな? 元の世界に帰りたい…このままだと困るよ…)
そう思っていると。
眼の前を2匹の青い蝶が美しい光を発しつつ、何度も行き来した。
空間が歪みだす。
視界がぼんやりしてきた。
(あ! この感じ!)
こちらの世界に転移した時の感覚。
「あれ? サラ、元の世界に帰るの?」
かろうじてリレミスの声が聞こえる。
歪みがどんどん大きくなり、景色がグニャリと曲がった。
そして、一瞬の暗転。
サラはモデル事務所の一室に立っていた。
廊下から菊正宗真一が電話している声が聞こえる。
「………」
サラはしばらくキョトンとなり。
「やった! 戻れた!」
思わず大きな声を出した。
村人たちの願いを叶えたので、青い蝶の宝石の魔法が解けたのだろうか?
2匹の蝶の姿は無い。
耳元の蝶を触ってみると普通の髪飾りに戻っていた。
すなわち、向こうの世界へ飛ばされる前の状況だ。
廊下の声が消え、部屋のドアが開いた。
真一が入ってくる。
「サラちゃん、さっきの話の続きだけど…」
そこまで言った真一の丸眼鏡の奥の瞳がカッと見開いた。
「ええ!? そ、その娘は誰だい!?」
真一が驚きの声をあげる。
サラは何のことか分からず戸惑ったが、真一の視線が自分の背後に向いているのに気付き、振り返った。
「えーーー!? リ、リレミス!?」
「ハーイ」
リレミスが右手の指をヒラヒラさせて返事した。
「ど、どうして!?」
「ウフフ。サラの世界がどんなか気になって、少しだけ見学に来たの」
リレミスが笑う。
「え!? サラちゃんのお友達!?」
真一が訊く。
「え? あ…ええーっと…そ、そうです、お友達です!」
サラが慌てて答える。
「へー。いつの間にこの部屋に…? 入口には僕が居たのに…? あれ?」
真一が急に気付いた。
「こ、この娘、めちゃくちゃかわいいね!」
真一のテンションが上がる。
「格好からすると…コスプレイヤーかな? 君、モデルに興味ない!?」
真一がジャケットから名刺を出して、リレミスに渡す。
「僕は菊正宗真一。サラちゃんのマネージャーだよ。君のお名前を教えてくれない?」
「リレミス」
「リ、リレミス!? ってことは外国の方!? ハーフかな!?」
真一がさらに興奮する。
「もし少しでも興味があるなら、いつでも僕に連絡して! 君はすごく魅力的だよ!」
「ウフフ。この人、いい人だね、サラ」
リレミスが微笑む。
「あ! そうそう、さっきの大事な話! サラちゃん、とにかく勇気を出してチャレンジしようよ! 僕が全身全霊でサポートするから!」
(そうだ…新しいお仕事の話…)
サラは思い出した。
今の自分の実力に不安を覚え、大きな仕事に挑戦するのを躊躇っていた。
どうしても勇気が出なかった。