5
「私はマスターとお姉ちゃんとたまたまこの城に来たの。空いてたから休憩するのに丁度良くて。で、休んでると急にマスターが居なくなっちゃった」
「マスター…?」
「うん。たぶん、麻雀だと思うんだー。マスターは麻雀になると人が変わるから」
「は…はあ?」
「仕方ないからここで待ってたら、今度はアーシアお姉ちゃんも居なくなっちゃって。つまんないから私、地下の棺桶の中でひと眠りしてたの」
「か、棺桶で…?」
「そう。クッションがフカフカで気持ち良くて眠りすぎちゃった。気付いたら城に結界が張られてて、服がサンタモードになってたの。たぶん最初から城の中に居たから自動的に入城条件を満たす服に変わっちゃったんだと思う」
「そ、そうなんだ…」
「サラはどうしてここに?」
今度はリレミスが訊いた。
「私は…」
サラが全ての事情を話す。
「え!? 子供たちが!?」
リレミスの顔が曇った。
「それは許せないね。私は悪魔だけどサラに協力するよ」
「え!? あ、悪魔なの?」
「うん、悪魔だよ」
リレミスが頷く。
「………」
サラは絶句した。
しかし悪魔でも窮地を救ってくれたのは間違いない。
リレミスが隣の空間に突如出現した真っ暗な小さな穴の中に鞭を放り込む。
穴は出てきた時と同様に瞬時に消えて無くなった。
「え!? 今の何!?」
「異空間に物を収納できるの。好きな時にいろいろ出せて便利だよ。私は魔法も得意だから安心して。もうサン=タクロッスには勝ったも同然」
リレミスが「ふふん」と笑う。
「あれ?」
突然、リレミスが両手を耳に当てた。
耳を澄ましている。
「どうしたの?」とサラ。
「悪魔だからね。地獄耳なの」
「な…なるほど…」
「聞こえる。子供たちの泣き声よ。こっちから!」
リレミスが走りだす。
サラも慌てて後を追った。
玉座のある大広間にやって来た2人は、2頭のトナカイに捕まった5人の子供たちを見つけた。
その後ろにはサンタ衣装姿に端が尖ったサングラスをかけた、トナカイの倍はあろうかという巨体の男が両腕を組み、仁王立ちしている。
「ハハハハハハ!」
男が大笑いした。
「お前たちかバカな侵入者というのは? 手下を倒したくらいで調子に乗りおって」
「あなたがサン=タクロッスね! 子供たちを返しなさい!」
泣いている子供たちを見たサラが怒りの声をあげる。
銃をタクロッスに向けた。
「俺様に逆らうのはやめた方がいいぞ。子供たちがどうなってもいいのか!」
タクロッスが吼えるとトナカイ2頭が子供たちの顔に前脚の蹄を当てた。
「卑怯な…」
サラが唇を噛む。
「生意気な奴ー。私の大魔法で城ごとぶっ飛ばしてやろうかなー」
リレミスの言葉にサラが首を横に振る。
「駄目よ、リレミス。それだと子供たちが危ない」
「ちぇー」
リレミスが残念がる。
「女、武器を捨てろ」
タクロッスがサラの銃を指す。
「くっ…」
サラが床に銃を置いた。
「2人とも両手を挙げろ」
この指示にもサラは従った。
その様子を見たリレミスも両手を挙げる。
だが、何となくだらけた感じではある。
「銃を拾ってこい」
タクロッスがトナカイの片方に命じる。
トナカイは子供たちから離れ、伝説の武器に蹄を伸ばした。
蹄が銃に触れた瞬間。
銃から発した電撃がトナカイの身体を痺れさせ、自由を奪った。
それと同時にサラが叫んだ。
「リレミス!」
「オッケー!」
リレミスの隣の空中に穴が空き、瞬く間に鞭を取り出した。
唸りをあげる鞭が子供たちを見張るトナカイの鼻を打つ。
「ぬおっ!?」
慌てたタクロッスが子供たちに駆け寄ろうとするが。
その時すでにサラは床の銃を拾い上げていた。
片膝立ち、両手で構えた銃をタクロッスに向ける。
「当たってーーー!!」