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「あー…でもやっぱり怖いかもー…」
右手に銃を持ったサラが暗闇の城内を進む。
村人たちに約束したものの、いざ1人でおどろおどろしい城の中に入ると不安が再び頭をもたげてくる。
城内は闇に包まれているが、サラの周りを翔ぶ2匹の蝶と髪の毛に止まった蝶の青い光が灯りの代わりになった。
「済みませーん! サン=タクロッスさーん!」
サラが大声で呼ぶ。
「子供たちを返してくださーい!」
何度か呼びかけるが反応はない。
城内には豪華な調度品が並んでいた。
しかし全てが埃を被っており、人の住んでいる形跡は感じられない。
(困ったなー…とにかく全部回って子供たちを捜すしかないかな…)
サラがそう考えて歩いていると。
ホールの前方に複数の大きな影が現れた。
「え!? 何、何!?」
サラが慌てる。
青い光の中を進んでくるのは、身長3mはあろうかという後ろ脚で2脚歩行する筋肉質なトナカイたちだった。
皆、サンタ帽を被り、はち切れそうなサンタ服を着ている。
眼が真っ赤で鼻息が荒い。
「ええ!? 私が思ってたトナカイと違ーう!!」
サラが悲鳴をあげた。
トナカイたちはサラに向かってどんどん近付いてくる。
「あー! そ、そだ、撃たないと!」
サラが慌てて銃を構える。
震える指で引き金を引いた。
銃から発射された青い稲妻は、ろくに狙いもつけてはいなかったものの幸運にも先頭のトナカイに命中した。
「グアー!!」
直撃を受けたトナカイが叫ぶ。
生きてはいるが、身体が帯電して痺れているようだ。
トナカイはその場に倒れ、動けなくなった。
「わ! やった! すごい!」
トナカイたちは仲間の突然の戦闘不能に怯んでいる。
その隙にサラは2頭目に狙いをつけた。
引き金を引く。
2頭目も痺れさせる。
続いて3頭目。
するとそれまで混乱していたトナカイたちが闘志を取り戻し、再び迫ってきた。
サラの背後にもトナカイたちが現れ、逃げ場がない。
サラは奮闘して何頭かは倒したが、どんどん包囲が狭まってくる。
「わー! ちょっと待って、ちょっと待って!」
サラがパニクる。
トナカイの最前列がサラに毛むくじゃらの前脚を伸ばす。
蹄が、もう少しで届く。
「キャーッ!!」
サラが悲鳴をあげた。
その刹那。
暗闇から突如飛来した黒い鞭がトナカイの鼻先を強烈に打った。
大きな獣が悶絶し、倒れる。
翻った鞭は次々とトナカイたちを動けなくしていく。
あっという間に、20頭近く居たトナカイが全て床に這いつくばる。
「え?」
突然の事態にサラがキョトンとしていると。
暗闇の中をかわいらしい少女が近付いてきた。
サラと同じくサンタ帽とサンタ服を身に着けているが、少々デザインが違い、金色の模様が施されている。
腰の紫色の帯にも金色の六芒星が描かれていた。
眼の覚めるような美しい金髪と大きく真っ赤な瞳。
背中からコウモリに似た羽が生えている。
赤いブーツまでスラリと伸びた健康的な美脚が眩しい。
「ウフフ」
少女が笑った。
「これで終わりー」
少女が手にした鞭で、まだ少々動いているトナカイの尻をペシッと一撃した。
「闘いって…楽しんじゃいけないかも知れないけど、楽しいのよね~♪」
そう言うとイタズラっぽく舌を出す。
「あ、あなたは?」
サラが訊いた。
「ん? 私はリレミス・ヴェイン・ディオエルト。リレミスって呼んで」
「リレミス…」
「そうそう。あなたは?」
「私はサラ。リレミスはどうしてここに?」