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 眼の前に杖を突いた、ハゲ頭で白ヒゲの老人が立っている。


 白い布を羽織っていた。


 木造の広い部屋。


 ロウソクの薄暗い灯り。


 老人の後ろには20人ほどの男女が座っている。


 皆、西洋中世期の庶民のような格好だった。


「え…?」


 サラの眼が点になる。


 混乱していた。


 真っ先に思ったのは「これ夢かな?」であった。


 モデル事務所で菊正宗真一と話していたところから、そもそも夢だったのではないだろうか?


 しかし、いっこうに眼は覚めない。


 老人はサラをじっと見つめ、その後ろの人々は「おお!」と驚き、ざわざわと騒いでいる。


「やったぞ…青い蝶の力で本当に別世界の勇者様が現れなさった!」


 老人が大声を出す。


 歯がほとんど無い。


 老人の言葉に人々が一斉に歓声をあげる。


「勇者様!」


「勇者様だ!」


「え…ええ?」


 サラが慌てる。


「ちょっ…な、何これ!? ここ、どこなの!?」


「ここはわしらの村ですじゃ」


 老人が歯の無い口を開く。


「わしは村長のフガフガナス。勇者様の後ろにある青い蝶の宝石の力で、あなた様を呼び寄せたのですじゃ」


 サラが老人の指す背後を振り返る。


 そこには台に乗った青い蝶を模した美しい宝石と、白い本体に赤と青色の線が入った拳銃のような物が置かれていた。


「ん? んんん?」


 サラが首を傾げる。


 まったく状況が飲み込めない。


「あなたたちが…私を呼んだ?」


「そうですじゃ。実は3日ほど前、この近くに建つ吸血鬼の城に…あ、今はもう吸血鬼たちは住んで()らぬのですが…その空き城を占拠したサン=タクロッスという悪者が村の子供たちを全員、(さら)っていきまして。わしらも取り返そうと村人総出(むらびとそうで)で城へと攻め込んだのですが」


「………」


「サン=タクロッスの手下のムキムキトナカイ軍団にコテンパンにやられてしまい…どうしようもなくなり、村に大昔から伝わる青い蝶の勇者様のお力にすがったわけですのじゃ」


 老人にまくし立てられ、サラは余計に混乱した。


「ええーと…サン=タクロッス?」


「はい。サン=タクロッス。奴から子供たちを取り返してくだされ。どうかお願いいたしますじゃ」


 老人が杖を放り出し、その場に土下座した。


 それを見た他の村人たちも全員、平伏する。


 確かに子供が一人も居ない。


「勇者様! どうか! どうかお聞き届けを!」


 全員が床に額を付ける。


 状況が消化できないまま全力で頼まれ、サラは呆然と立ち尽くした。


「あ、あのー…私…普通の大学生なんです…雑誌モデルで…だから勇者じゃなくて…人違いだと思います…」


「おお! さすがは勇者様! わしらのまったく知らぬ言葉をお使いに! 伝承では青い蝶の勇者とだけ伝わっておりまして…お名前がザッシ=モデル様ですかな?」


「い、いえいえ! ち、違います! こ、困ったな、どう説明したら…」


 サラは困り果てた。


「とにかく私は勇者じゃありません!」


「いいえ。お身体の周りを翔ぶ2匹の蝶と髪飾りが、その証拠ですじゃ」


「え!?」


 サラが自分の周囲を見回すと、モデル事務所で現れた2匹の青い蝶が翔んでいた。


 付かず離れず漂っている。


 無意識に耳元の髪飾りに手を伸ばす。


 すると、ただの髪飾りだったはずが、2匹の蝶と同じく大きな羽を持った生きている蝶に変化していた。


 浮遊する2匹とは違い、ずっと髪に止まっている。


(ええ!? 何なの…これ?)


「それにそこにあります青い蝶の武器。それは勇者様しか使えませぬのじゃ。どうぞ、お手にお取りくだされ」


 老人が青い蝶の宝石の横にある拳銃を指す。


 サラは戸惑ったが、老人のあまりに真剣な眼差しに渋々、拳銃を手に取った。


 それだけで村人たちが感嘆の声をあげる。


「俺たちが触れることも出来ない武器を!」


「やっぱり勇者様だ!」


 若い男たちがどよめく。


 皆、その言葉に頷いている。


 サラは意外に軽い拳銃を手に、ますます勇者認定されていく流れに慌てた。


「ちょっ…ど、どうしよう?」


 







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