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行くべき場所

 ハーピーの群れとフレスベルグを退けた中央(セントラル)は後片付けに追われていた。何しろハーピーと言えば、不潔な怪物として名を伝説に残しているほどの存在だ。

 真白の防菌服に身を包んだ隊員たちが、あらゆる消毒液をハーピーの痕跡に振りかけて行く。死骸そのものは“外”で焼かれ、埋められる手はずになっている。

 というか、その“外”で火葬の任を行っているのは、先の戦の殊勲者であるはずのカイだった。借りがあるはずのアニカやブレフトすら来ないまま、なぜかケレだけが着いてきている。



「ひどい臭いだ。よく耐えられるなお前は」

「耐えたくはないんだがなぁ。中央(セントラル)に人は多いが、“外”で活動経験が多いやつはそれほど多くないし……適材適所というものだな。というか篭手にした部分が治って無いから、こういう仕事で貢献する他ないから」



 〈神火〉を結晶化させて合一させた両腕は、黒く焦げ付いてズボラな人間のフライパンのようだった。〈最善〉の効果は幾らかあると見え、先のフレスベルグのような存在でもなければ戦闘も可能だろう。

 そのフレスベルグの魂は体内に取り込まれ、咀嚼している最中である。拝領の儀で下賜される火の結晶とは違い、同意を得た魂だ。好き勝手できるかと思えばそうでもない。フレスベルグの要素は強固で、その方面に利用するしか無いのだろう。



「で、どうだ? 神になった気分は?」

「感想は無いな。だが、感慨と期待は湧く。これでより多くの人々を守れることは確かだ。飛べるようになったのも、駆けつける速度という意味で頼もしい。しかし、使いこなせるようにならなければ……そのうち焦げたパンになるな」

「……私も〈英雄〉になれればな」

「そればっかりはめぐり合わせだな。お前さん方の歴史を紐解けば、エルフの〈英雄〉なんてのもいるだろうさ。俺の場合も突然〈英雄〉化して体を調べ回された挙げ句に、戦場送りだった。〈英雄〉になる条件も時期も不明なままだ」



 エルフの元姫君は〈英雄〉となって、戦場に出たいと考えている。元々戦士、いや狩人としての役割を果たしたいというケレ。それを理解する機会はもうカイには訪れない。


 初めて連れ去られた時の自分は、嫌いな歯医者に連れて行かれる子供のようだったと記憶している。

 それはそうだろう。いくら自分が強くなったと聞かされても、相手が自分より弱いと諭されようが、戦闘という行為自体が恐ろしかった。加害者にも被害者にもなりたくはない。 

 

 変化が嫌いな普通の人間だったはずだ。それが〈英雄〉となり、神人試作型となり、そして巨人とも融合した。それらを調和して使う技術を磨くため、内心では様々な語りかけを行っている。しかし、成果は見られず、〈最善〉の能力で無理矢理に稼働させている状態だ。



「〈英雄〉といえば聞こえは良いが、要は決死隊に過ぎない。むしろお前たちのように、強化されていない状態で戦う覚悟の方が尊いだろう」

「それは上から目線というものだな」

「そうかも。だが、ケレに関してはやれることが多い。ライザから説明聞いているだろう?」



 ケレは今まで客分という扱いであったが、カイの直属の部下という扱いに変わった。カイの性格とケレの気高さから、特に理不尽な突き上げも叩きつけも無いのは救いだ。最高幹部であるカイが拒否すれば、ケレに下る命令も打ち消すことが可能なのだから。

 それでも今回の作戦は必要なものだ。近隣のエルフ達と友誼を結び、そしていざというときに双方が連携可能な約定を取り付ける。同行する〈英雄〉はカイでは無く、序列5位のアデリーだ。


 

「ああ。私が行ってどうにかなるとも思えんが……」

「人種主義とくくる訳には行かないが、それでも試してみる価値はある。このあたりの住人はあの群れを見て、我々が生き残ったのを知ったはずだ。この死体になっているハーピー達のように、数が必要な場面は絶対に出てくる」



 現在の〈英雄〉は総勢で500人を切る。消息不明で減算して、更に年齢や能力を加味すれば、戦える人数は100程度に収まってしまう。

 対して、先のハーピー戦を考えれば敵はまさに軍勢の規模。どうにも神話の住人達は、自身から派生した幻想存在の指揮者になることが可能なようだ。

 今までの“神話の奔流(ストリーム)”で指揮官級という存在の位置づけは、種族的な上下関係が作用している。だからこそ〈ファーヴニル〉が欧州全ての怪物を統括できたのだ。


 それが変わる。神話に登場する怪物や神が闊歩することが、当たり前になっていく。その時までに、神々から見ても勢力と呼べる存在になっていなければ対話も何もあったものではない。



「俺もトロール族などの集落を回る。互いに実りが多いと良いな」



 少しだけカイは嘘をついた。

 トロール族と話すことに変わりは無いが、今のカイにはやるべきことがある。フレスベルグを吸収したことによりどこが敵になり、味方になるか。同盟や友好関係もまた生存手段の一つなのだ。


 ハーピー達との激戦があった地は旧ノルウェーに近い。南ノルウェーの山脈……すなわちヨトゥンヘイム山脈の調査である。

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