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神威発動

 銃声と笑い声。

 その映像はただそれだけのものに成り果てた。



『あっははははぁ~~!』



 よりによって最後はその間抜けた声だけが聞こえた。

 人造の翼で復讐者となった彼らは唱和するように、高らかに笑いながら地獄か天国か、各々が信じるところに逝ってしまった。


 追いつかれないはずのモノが堕ちた。つまり釣り餌たるヘリと兵士を破壊したのは、ハーピーではなかった。

 おまけに中型は予想通りのハルピュイア三姉妹だったが、こちらは餌には食い付かず、人間の住処を襲っているところだ。



「大型の速度は本気では無かったようだね」

「ああ、最後の瞬間を静止してみよう」



 そうして映し出された光景の一つに、マッドは顔をしかめた。機内のカメラなのだろうが、爆笑中であった操縦士の生首が映っている。

 そこで見るのを止めなかったのが、マッドが昔よりも成長した証だった。操縦士の顔面の横にかすかに映っているモノ。それは操縦士の胴体をくらおうとしている巨大な何か。


 手がかりができたと、機体の各所に映るヒントを基に推測を重ねていく。



「これはクチバシ。これは羽毛。そして、この……心霊写真のような影……」



 それらが示されてしまえば推測するにも簡単過ぎる。敵は鳥である。

 10位の発言を信じるならハルピュイア三姉妹が逃げ回るしかない鳥ということになるが、それも正体を示すための鍵になっていく。神話が違うという推測とここがどこかを踏まえれば……



「ハルピュイアというギリシア神話の存在に対する鳥。北欧神話ならフギンとムニン、あるいはヴィゾフニル……」

「心霊写真転じて死者のような影と読めば、フレスベルグではないかな? 確か、“死体を飲み込む鳥”だろう?」

「だとすれば厄介だ。能力が分からない」



 能力が分かれば正体も分かりやすくなり、正体が掴めれば弱点が分かる。

 オーディンが片目であるように、バルドルが不死身だがヤドリギに弱いように。しかし、人間が紡いだ……状況を考えれば記録してきた伝説は当然に、主役とその敵役ほど克明に描かれる。反面、他の存在は資料をたどることさえ覚束なくなる。

 それを2位が代弁した。



「それは仕方も無かろう。いかに強大な存在であれ、照明が当てられなければ端役に過ぎん。そして、端役を倒せずして主役は倒せん。さて、どうしたものか……生憎と我々の頼もしき〈英雄〉達はハルピュイアにかかりきりだ。伝承に従えば奴らは二人の〈英雄〉を相手に命乞いをしたはずだが、なかなかどうして。それとも、先人に比べては我らも劣化した存在にすぎんと言うことかな」



 第2位は皮肉屋で現実的だが、その幻想的な貴族風の外見に違わずロマンチストでもあった。

 ゆえにこと、ここに至ってその矛盾を突き刺した。


 〈英雄〉とは本来、偉業を成した存在や成そうとした存在が、文字通りに在り方を讃えられて成るものだ。断じて、超常の力を持つもの全般を指す意味ではない。

 新しく生まれた存在、人類の神秘を取り戻した先駆者。そう言えば聞こえこそ良いものの、それを〈英雄〉と呼ぶのはいささか行き過ぎであると唱えている。

 力の大小だけを語るなら核ミサイルや細菌兵器だって〈英雄〉と呼べるだろう。


 その言葉にカイは不思議と共感した。確かにそのとおりだと。

 カイが真に〈英雄〉と思うのは、既に散っていった者たちと“彼女”ぐらいのもの。自分がその名に似合う働きができたとは、到底思えない。


 後ろ向きの感情を燃料に、カイは立ち上がった。



「……俺が出る。元よりその予定だった。空を飛んでいる以上は、アデリーも力を出しきれないだろう。すまないけれど、あとを頼む」

「貴様が? 貴様とて翼が生えているわけではなかろう」



 多くの意味で〈最善〉は地に足が付いた能力だ。確かに強力だが、その神秘は肉体に限定されており、他者への影響力が小さい。どんな場面であろうと役に立つが、決定打にはなり得ない。〈ファーヴニル〉を相手取った時に、カイ自身がそれを痛感している。

 だから、答えは簡単だった。



生えている(・・・・・)。俺は飛べる」



 断言したカイを、仲間たちは見送る。

 彼は変化する道を選んだと知っている。ならばその覚悟に水を差すような真似はしない。ただ友人として痛ましく思うだけだ。


/


 街がシェルターと変わってから久しく、それによって人々は当たり前に共有していた技術が散逸することとなる。一番分かりやすいのが航空技術で、持ってない地域こそ無いが格差は徐々に大きくなっている。

 中央(セントラル)も例外ではない。英雄派遣の見返りにもたらされる技術も一世代前のものだと知っている。ヘリコプターはともかく、ジェット機や戦闘機は不足していた。


 それを中央(セントラル)が強引に解決した方法がある。大型の砲弾に、肉体強化度が高い〈英雄〉を詰めて発射するという方式だ。狂気にも思えるが、モジュール式脱出装置の亜種である。片道切符のロケットとも言える。


 中央(セントラル)からその人間砲弾が一つ撃ち出された。それは下で戦っているライザやブレフト達が、ようやく視認できる速度で放たれている。あっさりとフレスベルグの高度まで到達した。

 砲弾自体をフレスベルグに当てようが、効果は無いだろう。しかし、代わりを務める者が一瞬を見切って飛び降りる。


 それまで、ただ悠々と飛ぶだけでハーピー達を蹂躙し、ヘリまで叩き壊したフレスベルグは初めて目線を上へ向けた。何かおぞましい存在が来ると感じたのだ。



「――届け、全ての人々に。届け、全ての苦難に――〈神紅の腕(デルグ・ラム)〉」



 凶兆の通りに、それは落ちてきた。風圧をものともせず、願いを口ずさみながら降りてくる。


 朱がきらめく。掟破りの常時発動型と異能発動型の二重奏。

 拝領された神火による肉体強化を土台として、その後に蓄えられた火の結晶があらゆる法則を鼻で笑いながら、発動者の存在を変貌させていく。


 世界中の人々に“彼女”の輝きを知ってほしい。与えて欲しい、その輝きを守れなかった己の無様を祓う全てを。

 守られないために守り戦う。矛盾した精神の爆発がカイの位階を凄まじい勢いで押し上げていく。


 神人試作型(ジークフリート・β)は形を見出す。バルムンクでは誰かの手を掴めない。


 〈銀の腕(アガートラーム)〉ならぬ〈神紅の腕(デルグ・ラム)〉。古代へと戻った人間がとうとう神の域へと指をかけた。

 真紅の結晶で作られた篭手がカイの両腕を覆い、そこから炎の翼が顕現する。


 この日、フレスベルグは初めて敵と呼べる存在と相対した。巨大な鷲が戦の挨拶めいた咆哮を上げた。

 

 纏う色が黒と赤に分かれ、サイズ差も歴然と示されていたが、この域に至ればそんな要素は意味を持たない。



「オオオオォオオッ!」



 カイは応えるように雄叫びを上げながら突撃する。奇しくも似た形を採った、鉤爪と鉤爪が轟音より速くぶつかりあった。

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