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急用ができた

 屋上の床を打ち付ける風。発着場へと降りるカイ達に向けて、パイロット達がサムズアップしながら次へと向かう。過去の幾度にも及ぶ戦乱を経た今、航空戦力は多くの理由で貴重だ。輸送か、はたまた戦場か……彼らも次の舞台へと向かうのだ。

 

 カイはその意識を眩しいと思いながら、見送るしかない。我が身が数千とあれば、彼らを守れるかも知れないという傲慢な思いを恥じつつ……


 アニカとブレフトを連れているからだろう。ヘリが離れると同時に、本物の(・・・)装甲兵達が速やかな動きで展開しながら、二人に銃口を定める。只人風情が……と言うことはこの場合不可能だった。中央(セントラル)は旧来の技術と、異界の神秘を研究する場でもあるのだ。

 最新式の武装、それも絶対に他所へは支給されないパワードスーツ。それをまとった歴戦の兵士達は例え〈英雄〉にあらずとも、その戦力は決して馬鹿にできるようなものではなかった。


 そして、小さな影が階段を規律正しい音を響かせながら彼らの指揮官がやってきた。

 強力な〈英雄〉に統率される優れた装甲兵達という構図は、中央(セントラル)が目指す完成形とも言える。

 白髪と銀髪の中間のような鈍い色の髪をした女性こそが、彼らの指揮官。小柄でありながら、旧暦の軍服にも似た黒の装備が完全に調和を見せていた。



「カイチ様、お帰りをお待ちしておりました。予定より16日と22時間25分40秒早く再会が叶ったことを嬉しく思います」



 完璧な敬礼をもって出迎える美少女の名はライザという。やたらに細かい数字だが、適当に言ったわけではなく実際に彼女が測っていた。

 〈英雄〉達が集うこの地だが、〈英雄〉に規律を求めても無駄であるために正式な礼儀や制服は存在しない。戦闘能力や〈英雄特性(ヒロイズム)〉を効果的に発揮させるための役割分担としての組織構成はあるが、上下関係ではない。あえて言うならカイのように秘匿された情報を握っている者達が、上位者ということになる。

 ……つまり、ライザがやっていることは単なる趣味と好意である。

 


「ライザ……いつ会っても刺激的だなお前は……しかし、武装兵は呼んでいないが」

「左様ですが、戦闘記録を拝見しましたところ……そちらの男が貴方に傷を負わせたようなので、即刻ひき肉にしてからグリーンボックスにぶち込み、せめて次代の栄養にするべきかと思い態勢を整えていた次第です」



 歩く爆弾が言えば、兵士達がトリガーに指をかける。

 カイなどからすれば、どう考えても従いたくない人物だが、一部に奇妙な人気がある。この兵達もライザの私兵のようになっている感がある。カイは大仰にため息をつくポーズを取るしか無かった。



「しなくていい。〈英雄〉は貴重だし、二人とも従順だ」

「わたくしにとって、〈英雄〉というのはカイチ様ただお一人を指します」

「いや、お前も〈英雄〉だろ……」



 個人の性格を許容するおおらかなところがある中央(セントラル)にしても、限度がある。さらにライザは自分で考える脳みそが付いているので、あまり放置するとカイ以外の全てを撃ち殺しかねなかった。

 それはライザの〈英雄特性(ヒロイズム)〉を完全に発揮する環境があれば可能なのだ。対個人としてはライザはカイの影も踏めないが、対軍としてはカイよりはるかに優秀であった。



「まぁともかく俺の職権を濫用して、この二人に寛大な処置を頼む。せめて記憶消去措置は無しの方向でな。できるか」

「勿論。貴方に弓引いたざざむしの足と言えど、〈英雄〉として登録されていますから。そこに鶴の一声があれば幾らでも、まぁ首輪爆弾ぐらいですませてあげましょう」

「ざざむし……?」



 そんな極東のマイナーめの言葉を使われては、カイ以外はさっぱり理解できない。要は少なくとも食用になるぐらいには有用だと言っているのだが、どうにも悪意がある。

 ヘリが去って、装甲兵が前後を守る形で移動を開始した。カイはなんとなく遠足などがあった子供の頃、引率されてる時を思い出していた。



「それとケレ様には貴賓館をあてがいます。もちろん、カイチ様とは別の宿舎です。政治的配慮です」

「本人の前で政治的配慮とか言ったら駄目じゃねぇ!? 手配も意味が分からんし!」



 とうとうカイの態度も砕けだす。元々一般人であった時代がある彼は身内が多い中央(セントラル)において、本来の若者らしい性格でいることが多い……実際にはそこまで若くは無いのだが。

 自分と同行している時には見せなかった態度に、エルフの姫君はなんとはなしに不機嫌な気分を味わった。



「フッ……なに、同じ防塵シート(密室)で半日ほど過ごしたのだ。別に同じで部屋でも構わんぞ」

「即刻射殺。と言うとでも思っていましたか? 何を隠そう、このわたくしはオンリーワンよりナンバーワン派。そして、カイチ様とは密着した状態で一日過ごした経験すらあるのです……!」

「それ、お前を救助した時だろ。むしろ、ケレの方が何言ってんだ……」



 まだ戦乱冷めやらぬ時期、怪物による被害ではなくカイはライザを事故から救ったことがある。当時まだ〈英雄〉ではなかったライザにとって、その鮮烈な光景が今も輝きながら残っているのだ。


 ライザは〈英雄〉となった時期がかなり遅く、最後発組にあたる。その中では飛び抜けて強力な能力を持っている。

 ……ヨーロッパを支配した最凶の暴竜〈ファーヴニル〉。それを打倒した時から、怪物も強力な個体が減った。合わせるように〈英雄〉化する人間も減少傾向にある。表向きの平穏なのか、あるいは衰退期なのか。

 後者であって欲しいとカイは願うが、そうならないと半ば確信している。


 その時には〈英雄〉化も再び活性するだろうか? 人と神秘はバランスゲームのように思える時がある。あちらが強くなれば、こちらも強くなる。弱さもそうだ。

 とうとう訳が分からなくなってきたケレとライザの言い合いに辟易しつつ、真剣に悩んでいると階段を降り切ってしまった。


 そこに広がるのは清潔そのもののユートピア。それまで興った文化の影響を受けない、新造文明。道は直線、建物は円形。奇をてらうような町並みでも無く、ひたすらに人間であると主張している。それが〈英雄〉の都市である中央(セントラル)なのだ。

 カイはここに戻る度に、帰ってきたと感じる。今は遠く離れた故郷よりも強くそう思う。



「おい……首輪爆弾ってなんだよ! 従えば許されるんじゃ無かったのか!?」



 ブレフトが発した小声によって、郷愁の念は打ち切られてしまった。まだ分かっていないのか、アニカの方も心配そうである。仕方が無いので、ブレフト達の側に下がってカイも小声で応じた。



「いいか? 首輪爆弾を付けるのは対外的なポーズなんだ。ちゃんと処罰したっていう風に装うんだ。付けられる首輪には首の間に隙間がある。アニカなら影を首に巻き付けて、ブレフトなら素で良い。あくまで対人間用の爆弾だ。〈英雄〉にならどうとでもできる」

「そういうことはちゃんと説明してくれ! 処刑されるのかと思ったぞ!」

「ライザはちゃんと戦闘記録を閲覧して、お前たちの生命は助かる処分を提案したんだ。時々手に負えんが、悪い子ではない」



 まぁ死なないだけで、やたらに痛みの伴うことをやってくることもあるが……という言葉は内に秘めた。首輪爆弾は発動条件を設定し直すこともできることから、ライザとしても大甘な処置なのだ。


 そんなやり取りをしている間に、小型端末に文章が送られてくる。



「ライザ。後のことは任せる。俺はいつものことをしてくる」

「……はい。行ってらっしゃいませ……」

「なんだ、用事か何かがあるのか?」

「ああ。書類が溜まっているんだ。一ヶ月は会えないかもしれんので、ケレは身の振り方が決まったら好きにしてくれ。ここにいる間は最大の便宜が図られるからな。じゃあ、またな」

「あっ! おい……」


 

 ケレが憤慨しようとした時には既にカイの姿はない。まるで逃げるような消え去り方をされ、怒りは空振りに終わった。追いかけようとするもライザに首根っこを押さえられ、妨害された。



「なんだ、一体……お前もアイツも失礼ではないか」

「人に言えないことがあるということです。少しは一緒に過ごしたのなら、カイチ様があのような放り出し方をするには事情があると理解できるでしょう? さ、住居へご案内します」

「う。うむ……」



 聞き分けが急に良くなったライザの声に痛ましさを感じ、気まずい沈黙の案内にエルフは大人しく従うことにした。

・カイチ・アカザキ

英雄登録ナンバー121


保有する〈英雄特性(ヒロイズム)〉は〈最善〉

体調や負傷があろうとも、常に能力の最大値を発揮する。

出血しようと動きは鈍らず、喉を潰されようと会話ができる。


常時発動型

動きが初速から最大速度を発揮するため、格闘能力が高い相手や

反射神経に優れる者ほど撹乱される。


このような能力を持ちながら、前戦乱よりも何故かステータスが向上している。


身体強化度 B

攻撃力 B

防御力 C

機動力 B

爆発力 E

維持力 AA

特殊性 A

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