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幼馴染にオリンピックの全種目を、一週間で制覇しようと言われた話

作者: 宮本XP


 ある夏の日。外では連日猛暑が続く中、俺はエアコンの効いた部屋でのんびりと読書を――


「大変だ、ハルト!」


 ――さっきまではのんびりと読書をしていた。


「なんだよサクラ……ノックもなしで」


 突然ドアをぶち破らんばかりの勢いで部屋に転がり込んできたのは、幼馴染のサクラだ。この炎天下を走ってきたのだろうか? 息は荒く、汗もかいている。


「ハルト! 大変だよハル――あぁ、ここは涼しいな……」


 全身でエアコンの冷気を浴びながら、ポケットからハンカチを取り出して汗をふき始めるサクラ。……あんまり大変そうでもないな。


「ハルトは何してたの?」


「え? あぁ、本読んでた」


「本?」


「おう。宮本XPって人の、チートルーレットって作品が――」


「そんなことはどうでもいいの! 大変なの!」


 えぇ……自分から聞いといてなんだよ……。せっかく宣伝しようと思ったのに……。


「大変って……何がだよ?」


「驚かないでね? なんとオリンピックが――――延期されるらしい」


「…………え?」


「やっぱり驚いた? けど本当なの」


「いや、嘘だろ……?」


 正直、驚いた。……驚いたのはもちろんオリンピックの延期ではなく、それを今の今まで知らなかったサクラにだ。


 え、ここまで知らずに過ごせるものなのか? 今日が七月二十三日。延期しなかったら今日が開会式だったんだが……。


「えーと……ちなみに、なんで延期なんだ?」


「コロナだよ。コロナ知らない?」


 コロナは知ってるのか、良かった。


「いや、知ってるけど……。サクラもコロナは知ってるんだな」


「お婆ちゃんに教えてもらった」


 お前、お婆ちゃんより情弱なのか……。


「あぁ、そういえばサクラもコロナ対策は一応しっかりしてたっけ?」


「うん。お婆ちゃんに言われて、マスクと手洗いうがいは、しっかりやっていた。あと……あれを、四密? あれも守ってた」


「そうか、凄いな……俺は三つまでしか知らないわ」


 あとの一密はなんだろうな? いや、下手したら四つとも俺の知らないやつかもしれない。


「悔しいな……。コロナのせいで私の大好きなオリンピックが延期なんて……楽しみにしていたのに」


 なんで、好きで楽しみにしていたのに延期を知らないんだよ……。


「でね、ハルト? 思ったんだ、私たち二人で――――オリンピックをやろう」


「ちょっと言っている意味が……というか、全然意味がわからない」


「出られなかった選手たちの無念を、私達二人で晴らすんだ!」


 俺の話も聞かずに、サクラは鼻息荒く、握りこぶしを作って意気込んでいる……。


「オリンピックをやるって、何をするんだよ?」


「オリンピックでやる競技をする」


「オリンピックでやる競技って言ってもたくさんあるだろ? ……お前、オリンピックで何種目やるか知ってるか?」


「知らない」


 お前、本当にオリンピック好きなのか?

 ……いや、まぁオリンピック好きでも難しい質問だったか? 確か毎回種目数も変わるんだよな?


「ちょっと待ってろ、今スマホで調べるから。えーと…………三百三十九種目だってよ、こんなにあるんだな?」


「全部やりたい」


「えぇ……。何ヶ月かかんだよ」


「できたら一週間くらいで終わらせたい」


「死ぬわ」


 てか、終わらせたいってなんだよ……。


「無茶言うなよ……お前、十種競技って知ってるだろ?」


「知らない」


「知らねぇのかよ……」


 お前、やっぱり別にオリンピック好きでもないだろ?


「十種競技ってのはな、二日間で十種目の競技やるんだ。すげぇ過酷で、そのチャンピオンは、キング・オブ・アスリートなんて呼ばれるくらいなんだよ」


「へー」


「プロのアスリートでも一日で五種目はつらいんだぞ? それをお前……一週間で三百三十九種だぞ? 一日五十種目近くやるのか? もう王どころじゃないな、神だよ神。ゴッド・オブ・アスリートだ」


「じゃあ私は女だからヴィーナス・オブ・アスリートだ」


 ゴッデスじゃねぇの?


「いや、ヴィーナスでもアフロディーテでもいいけどさ…………何照れてんだよ? いや、俺がお前をヴィーナスって呼んだわけじゃなくて、お前が自分で……おい聞けよ。……とにかくだ、数を絞ろう。全部は無理」


「そっかー……どんなのがあるの?」


 二人で肩を寄せ合って、俺のスマホに映ったオリンピックの種目を眺める。……できれば楽なのがいいけど、オリンピック競技で楽なものなんかないか?


 ――というか、いつの間にかやることになっていた。

 えぇ……嘘だろ? この暑い中やんのか? 死んじゃうぞ? ……できるだけ室内競技を探そう、じゃないと俺もサクラも死んでしまう。


「ウエイトリフティングやりたい」


「なんでいきなりそれ選んだ? ……まぁいいか、じゃあこれ貸してやるよ」


 俺は部屋に転がっていた三キロのダンベルをサクラに手渡した。

 何故か少し不満そうにダンベルカールを始めるサクラ――結局三回ほどでやめてしまう。


「なんか少し違う」


「気持ちはわかるけどさ……技術も道具もないんだから、しょうがないだろ。むしろ今のウエイトリフティングは、そこそこ『オリンピック競技をこなした』って言えるレベルだと思うけどな?」


「じゃあ……これやりたい。クレー射撃」


「無理だっての」


 どこでやるんだよ、というか免許とかいるんじゃねぇのかあれ?


「無理かな?」


「銃もないし、クレーも……クレー? あの円盤みたいのクレーっていうのか? ……まぁいいや、円盤もないし」


「エアガンとフリスビーでできないかな?」


「お前それは……有りだな」


 ちょっとそれ、やってみたくなってしまった。


「じゃあ早速……」


「まぁ残念ながらエアガン持ってないんだけどな……いくらくらいするんだエアガンって? あ、それよりこれいいな、水泳」


「水泳かー」


「今日も暑いし、プール行こうぜ」


「バタフライとかやったことないんだけど、大丈夫かな?」


 やめとけ。たぶん溺れていると勘違いした監視員に、救助されることになる。


 そんなわけでサクラを連れて市民プールへ向かうことにした。うん、プールいいねプール。これなら二人とも暑さで死んじゃうこともないだろう。


 ――こうして、俺とサクラによる、二人っきりのオリンピックが開催した。


 初日はウエイトリフティングに水泳の各種種目、ついでに行き帰りは自転車だったので、各種自転車競技もこなした計算だ。

 初日としてはまずまずじゃないか?



 ◇



「いよいよ、最終日だな」


「今日で二日目なんだけど……」


 サクラの言う通り、初日にプールで遊んだのが昨日のこと。今日が二日目にして最終日だ。


「無理言うなよ、キング・オブ・アスリートでも二日で限界だって話しただろ?」


「私はアフロディーテ・オブ・アスリートだから」


「もうそれでいいよ……けど無理だって。まぁ今日はサクラのやりたい競技に付き合うからさ」


「やりたい競技……」


 腕を組んで考え込むサクラ。個人的にはもう一回水泳でいい。今日も暑い、というか今日はヤバい。外は四十度近い気温だ、真剣にヤバい。


「マラソン」


「えぇ……」


「フルマラソン」


「ええぇ…………」


 絶対無理だよそれ……。なんでマラソン……。というか、本来ならこの時期に本物のオリンピックでもマラソンする予定だったんだよな? 大丈夫なのか?


「なぁサクラ、さすがに……」


「大丈夫」


「何がだよ?」


「会場は北海道だから」


「本物はな? てかそんなことは知ってんのか……」


 噂では北海道でも暑いんじゃないかって話だけど……どうなんだろ。


「いやさすがに四十二キロは無理だ、死んじゃう。本当に死んじゃうから……というか、たぶん十キロぐらいで死んじゃうから……」


「うーん……」


「せめて距離を短くするか……もしくは、もう少し涼しくなってからやろうぜ?」


「ねぇハルト……」


 妙に真剣な瞳で俺を見るサクラ。


「たった二人っきりでも、これはオリンピックなの」


「お、おう?」


「だったら延期はない。そうでしょう?」


 いや延期したけどな。


「……じゃあ距離縮めるぞ? 四キロでいいだろ。十分の一だけど……この暑さで素人には普通にヤバいレベルだと思う」


「わかった。四キロだと……家から二丁目のコンビニを往復するくらい?」


「そんなもんか……うわぁ、やりたくねぇ」


「けどこれは、多くのランナーが走りたくても走れなくなった夢の舞台……」


 別に多くのランナーは、コンビニまでダッシュで行って帰ってくるだけのパシリみたいなことを夢見てないだろ……。



 ◇



「おぉ……予想以上だなこれ」


 家から一歩外に出ると、まるでサウナだ。


「おいサクラ、大丈夫か」


「暑い……」


「知ってるよ。けど、本当に熱中症に気をつけてな? 気持ち悪くなったらすぐ止めることな?」


「うん。さっさと済まそう……」


 お前がやりたいって言ったんだからな?


「じゃあ行くか」


「うん。『位置についてー』……あ」


「どうした?」


「やり直す。『おん・ゆあ・まーく』」


 別にどっちでもいいけど……。


「『せっ』」


「……『セット』のことか?」


「『スタート』」


 仕方ないので走り出す俺。

 正直立っているだけで汗が吹き出してくるんだ。四キロ走ったら水分全部なくなっちゃうじゃないか? というか四百メートル走っただけで、もう頭がぼーっとしてきた。


 あぁけどサクラのことも気にしながら走らないとな――。


「えぇ……」


 振り返ってサクラの様子を伺ってみると、四十メートルほどで足を止めていた……。


 とりあえず小走りでサクラの元まで戻る俺。


「どうした?」


「暑くて、気持ち悪くなったからすぐ止めた」


「……うん。そうしろって言ったけどな?」


 俺に声を掛けてから止まってほしかった。下手したら俺一人でコンビニまでダッシュしてたぞ?


「私のことは構わず、ハルト一人だけでも行って?」


「いや、別に俺も走りたいわけじゃないし……」


「ガ○ガリ君買ってきてほしいんだけど?」


 本当にパシリじゃねぇか……。


「いや、もう家に戻ろうぜ?」


「いいの?」


「今日はもう暑いしな……他の競技も、もうちょっと涼しくなってからいろいろやろうぜ? そしたらすぐ一年経って本物のオリンピックだ。いろいろ体験したら、より本物も楽しめるかもな?」


「そうだね。私も二日間で、よりオリンピックを知れた気がする……」


 お前が二日間でやったのは、ダンベル三回に、チャリでプール行ったことと、四十メートル走っただけだがな。


 ……けどまぁ、来年のオリンピックまでに知らない競技に触れてみるのも、実際悪くないかもな。

 こいつと一緒なら、どの競技だって退屈することもないだろう。いろいろやってたら、一年なんてあっという間だ。そんでいよいよ本番になったら、一緒にテレビで見てもいいし、なんなら会場に行ったっていい。


 今年オリンピックがないのは残念だけど、来年を楽しみにしながら、二人で来年まで楽しめばいいさ――



「まぁ正直来年もコロナで中止だと、私は睨んでいる」


「お前……。せっかくいい感じで終われそうだったのに……」



 終

 結構前に書いたものなのですが、せっかくなら作中と同じ日に投稿しようと、七月二十三日に投稿。


 けど、現実ではまだそんなに暑くないですね……。梅雨すら明けていないし……。

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