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 わたしが困っている原因を勘違いしたのか、姫鶴の隣にいた男性が彼女に声をかける。


「ほら、ひいちゃん、急に抱き着いたりして。彼女困ってるじゃない」


 ……??? 男性、だよな……? 見た目も声も、男、だよな……? 話し方やイントネーション、語調が完全に女っぽい。オネエさん、というやつだろうか。


 ……。……ッ!?

 わたしは思わず、男の顔を二度見してしまった。

 というか、彼、隠しルートキャラと噂のの湖黒じゃないか? 攻略サイトで顔の画像、見たことあるぞ?


 隠しルート、という情報自体はSNSで知った。でも、こんなキャラ……だっけ? わたしの記憶だと、もっと寡黙っていうか、無言の圧があるタイプのキャラだったはずなんだけど……。ルートに入ると二面性が発覚するのか? 本編ろくにやってないからちょっと分からないな。


「ごめんなさい、あまりにも、感極まってしまって」


 ゆっくりとわたしから離れた姫鶴は、ハンカチで涙をぬぐい、紙袋を渡してきた。


「学園祭の余りの材料で作ったもので悪いんだけど、これ、とりあえずのお礼よ。どうしても、すぐに何か礼をしたくて……。タジロン二つじゃ恰好つかないから、シルビオンも入れたんだけど、良ければ透さんと分けて食べて。絶対、後日改めてくるから!」


「はあ」


 状況がいまいち飲み込めないが、くれるというなら貰っておこう。こんなにも泣きながらお礼を言う彼女に突っぱねるのは悪い気がする。


「休校が決定して、本当は一週間は寮から出られないの。今はちょっと……抜け出してきたけど。だから、また、来週以降に顔を出すわ」


「アタシは反対したんだけど、どうしてもってひいちゃんが聞かなくて。あんな事件があって犯人が見つかってないんだもの。危ないじゃない」


 事件。なんだか危なそうだ。思い出せたらいいんだけれど、昨日店で意識を取り戻したときより前のことはすっぽり抜け落ちていて思い出せない。いや、前世のことは思い出せるけど。でも、『万結』が生まれてから、ここまで成長するまで要した時間の中の記憶はなにもない。

 適当に話を合わせていると、抜け出したのがバレないうちに戻らないといけないから、と申し訳なさそうにしながら、何度もお礼を述べて姫鶴と湖黒は帰って行った。


 わたしはその背中を見送る。とりあえず、わたしが昨日までの記憶をすっかりなくしていることには気が付かなかったようだ。……となると、『万結』も、『黎明のアルケミスト』のヒロインから少しずれている可能性があるな。共通ストーリーをやった印象だと、王道の乙女ゲーヒロイン、という感じだったはずだ。明るく、健気で、芯が通っているのにどこか抜けている可愛げもあるキャラクター。

 少なくとも、急に抱き着かれて困惑したまま生返事を繰り返すような性格ではない。


 これは……わたしの知っている、『万結』を演じたところで齟齬が出る可能性が浮上したな。

 嫌だなあ、バレないように行動するの。何か理由をつけて記憶喪失ということにしてしまった方が気が楽かもしれない。

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