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翌日。
これからどうしたらいいのか、さっぱりだ。なんというか、生きる目標みたいなものがない。
使命がないのだ。
よく見るネット小説だと、悪役令嬢だったら死亡フラグや人生終了ルートを回避するべく行動するだろうし、推しが死亡キャラなら救済のために奔走するだろうし、はたまた、魔王的な存在を倒したりしなければいけなかったり、元の世界に戻るために頑張ったりするのかもしれないが――全部当てはまらない。
わたしはあくまでヒロインの『万結』であって悪役令嬢でライバルヒロインの『姫鶴』ではないし、このゲームに推しキャラとかいないし、そもそも死ぬのかどうかも分からない。ストーリーパートは経営パートが始まるまでの攻略キャラのルートに入っていない共通ぶぶんしかやってないから、魔王とかラスボスとかいるのか知らないし、元の世界に戻るとしたって十中八九、わたし死んでるし。
ぽん、と生まれ変わったところで、急に何をしろとも言われず、何かを行動するのは無理だ。
乙女ゲームなのだから、キャラを攻略すればいいのか? とちょっと思ったけれど、別に攻略したいキャラがいるわけでもないし、そもそもくっついたところで、この世界がゲームとして終わらないのならば、わたしの人生は死ぬまで続くのだからあんまり意味がないように思う。
というかそもそも、なんだかこの世界、『黎明のアルケミスト』に瓜二つなだけで、微妙に違うみたいだし。
自分こそがヒロインなのだと気が付いたあの後、店内を物色してみて、この店がヒロインの祖父が経営していた店であることも、見て分かった。伝票の担当者欄にヒロインの名前である『万結』の字があったのだ。
ゲーム内の背景と全く同じ家だったから、そうだろうな、とは思っていたけれど、これで確定だ。
同時に『透』と書かれたものも見つけたが……一体誰だろうか? ヒロインの祖父の名前ではないが、他に従業員が雇われていた描写もなかったように思う。
いやまあ、わたしはストーリーパートをやっていないから、実はストーリーの後半に出るんだよ、とか言われたら何も言い返せないのだが。でも、公式サイトは一応見たから、そこにもいない名前だというのは分かる。
家の、居住スペースと思われる場所には、ヒロインの祖父の遺影が飾られていたし、女性が住んでいる形跡もあったので、おそらくは『万結』が継いだのだとは思う。伝票の担当者は、ここ一年近く、ずっと『万結』と『透』の二人だけだし、生活必需品が女性のもの一種類しかない。
ただ、家をくまなく探しても、黎明学園の制服は見つからなかった。それっぽい教材もなかったし、ヒロインは学校に通っていない……?
鏡で顔を見た限り、原作と同じ時間軸、あるいはそれに近い年齢だとは思うのだが。
ゲームの中では、亡くなった祖父の店を継ぐため、一時的に店を閉めて黎明学園に通う、という設定だったはずなんだけど……。
状況証拠ばかりで、確実なことは言えないが、おそらく、学園に通わずに祖父の店を引き継いでいるのだと思う。
なんでそんなことになっているのか分からないけれど、ゲームのスタート地点ですでに違っているのだから、この世界は『黎明のアルケミスト』によく似た世界なのだと、わたしは結論付けた。




